初・姉妹共同戦線、梅仕事。
故郷が和歌山なのに梅干しも漬けられない自分なんて許せんぞ。
およそ京都に来てからずっとそんなことを思い続けている。
厳密にいうと、実家では漬けていた。梅酒も梅シロップも作っていた。味噌も作ったし結果的に醤油もできた。ヨーグルトもバターも作った。母はそういうのが好きな人だった。私も妹も手伝いはもちろんした。
だからこそ、ひとりに(今はふたりに)なった途端にそれができなくなるというのが悔しい。思いも技術も継げないのは悔しい。
というわけで、少量でも今年は梅仕事に挑戦しようと決めていた。手始めに梅酒と梅干しである。異種だが糠漬けには去年挑戦して今も続いているし、きっとできる!
ところがタイトルは現段階では私の希望であって、まだ肝心な共同戦線は張れてない。
なぜかと言うと、母が山ほど漬けて干した十何年物の梅干しが山ほど我が家にあるからだ。
そして今年の初めに2人で作ったフルーツ漬けのウイスキーも山ほどあるからだ。
今なにかしらの災害が起こって食料が途絶えたとしても、向こうしばらく困ることはないだろう、塩分に。あと体を温めるアルコールも。
塩分はとても大切らしい。梅干しと味噌は備えておいて損はないらしい。
「こんなにあるのにまだ作るの?」という冷たい声が降ったのはつい3日前のことである。もう梅も買って届くのを待つばかりだというのに。
しまったな、二つ返事でオッケーしていっしょにやってくれるもんだと思ってたのに甘かったぞ、先に言っとくべきだった。
そしてもう一つ大きな誤算は、妹が砂糖入りの酒を好まないということだった。梅酒には梅と同量に近い氷砂糖を使うのがセオリー。精製された白砂糖を使うなら私は飲まんと一蹴される。
2人で飲み交わせない酒を作ったって楽しくない。
妹とは共同戦線を張る前に交戦を経て手を取り合い仲間となるステップを踏まなければならないことに気づくのが遅すぎた。
姉は説得を試みる。「自分たちでできるようになったら楽しいじゃん!梅干しも梅酒ももつし、誰かにおすそ分けしたっていいじゃない。梅酒は砂糖を半量にしても作れるよ」
撃沈。
ひとりで梅を干す未来が一瞬見える。え、三日三晩の土用干しなんて土日まるまる休みの妹の協力なしには成し得ないぞ?
職場にビンごと梅を持ち込んで屋上に干すか?いやできるかそんなこと!
と脳内で脳内の姉が一人コントを繰り広げる。
そんな中で梅たちが到着。最初なので少量で、と、梅酒用に1キロと梅干し用に2キロ。懐かしい梅たちを前にすれば、山積した問題たちはとりあえず笑みがこぼれる。
倉庫から前に母からもらった密閉ビンやらホワイトリカーやらをほくほく取り出している姉を見て、未だ味方ではない妹も少し心が動いたようだ。
ちょこっと手伝ってくれる。
お?これは戦線張れる兆候か?仲間になるか?
怪我をしたところを敵に助けられて運び込まれた相手のアジトで人情に触れて、相手も人間なんだと知ったか?
昨日の敵が今日の味方だなんてアツい展開じゃないか。
そして条件が出される。
「無糖(もしくは精製されていない糖類)の梅酒を、焼酎で作るなら飲みたい」
無糖の梅酒はなくはないが、滅菌のためにアルコール度数の高いブランデーやジン、ウォッカで漬けるのがそもそも少ない道に残された選択肢だ。焼酎では度数が足りない。何かしらの糖類を使う以外に手がないが知識もない。
かぐや姫に無理難題を押し付けられた求婚者たちの気持ちがちょっとわかっちゃった気がした。
妹との共同戦線のため、頭と情報収集力を振り絞り、あとは母という最高のガーディアンを召喚する姉なのである。
今年の梅は熟すのが早い、残された時間は少ないぞ。
姉妹共同戦線や、いかに!
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