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めざせじいちゃんの味

じいちゃんに、心の底から聞いておけばよかったと思っていることがある。
私はじいちゃんの漬けるたくあんが大好きだった。

売っているののように甘くなく、ご飯にしっかりと合う、力強い塩気。こりり、ともパキリとも聴こえる小気味いい音。

欲しいと言えば荷物に入れてくれて、作ってくれるから食べてきたあのお漬けもの。食べられなくなってから、自分が作り方を知らないことに気づいた。母も、料理とはちがい、細かい材料などは知らないらしい。

だから、今年はきちんと作ってみようと思っていた。
今年と言っても、もう去年の話になるけれど。

たくあんの作り方はそんなに複雑ではなくて、ざっくりと言ってしまえば「干す・漬ける・食べる」である。単純明快だが、「=簡単」ではない。

じいちゃんが何をどのくらい入れていたかはわからないので、とりあえずは王道のもの、いちばん基本のものを作ることにした。漬ける糠には、最低限必要なものしか入れていない。

そんな感じで材料は
・大根5キロ分(干す前)
・塩 大根の重さの15%
・砂糖(甜菜糖を使ってみた)大根の重さの6%
・昆布20cm
・鷹の爪3本

である。ここに、干した果物の皮などを足すと口当たりが柔らかくなるのだそうだ。で、よく見るたくあんの黄色はクチナシをいれることで色づく。どちらもなくても大丈夫なので、今回はなし。シンプルオブシンプルなたくあんになるはず。

材料の話を先にしてしまったが、まずは干すところから始まる。大根の頭とお尻を紐でくくってつなげていく。家にたまたまあったシュロ縄を使って、マスト結びという結び方で結わえた。む、難しい。

そしてそれを外に干す。2週間くらい、ひたすらに干す。干す。干す。
なかなかシワシワになってこない。
 
近所のおばちゃんにも、大家さんにも、郵便屋のおじさんにも「まだまだ干さなあかんな」と笑われ、応援されながら頑張る。
 
根気よく干し続け、大根をまげて「つ」の字になるくらいまで干した。漬けた後早く食べてしまう場合は「く」の字くらいでいいらしい。
 
長く楽しみたいから「つ」まで頑張った。雨が心配な日は傘をくくりつけた。
なぜかこの冬は突然の雨が多くて参る。予報にもなければレーダーにも引っかからない。

あまつさえ風も強くて、傘すら吹っ飛ばされたので、ご近所さんたちにもお願いした。

「雨がもし降ってきたら、洗濯物はそのままでいいから大根だけ軒下に入れてもらえませんか」

しっかりとどちらも軒下にしまってくれていた。優しさが染みた。

シュロ縄の黒が大根に移ってしまったり、元からあったシミが広がったりとえげつない見た目になったものの、しっかりと干し大根が完成。たぶんカビじゃない。私は信じている。

なのに、もういいかと家にいれたらそこで問題発生。干してるのにカビるのだ。緑のカビ。

洗うのが良いのかどうかわからないがとりあえず洗う。カビる。洗う。カビる。カビと追いかけっこなんてしたくないししてる場合ではない。これは早く漬けてしまわねば、と、まだ家になかった漬け物袋を買いに走った。大根はストーブで乾かした。

中は大丈夫

そして、漬け物袋をセットした樽に、金輪際かびないように焼酎で洗った大根を入れていく。
 
最初に、材料を全部混ぜた糠を底にふた掴み。その上に大根。重ならないように曲げながら敷き詰める。その上にまた糠を広げ、そのあとはその繰り返しである。隙間のないように詰められたら糠で蓋をする。

写真を撮りたかったのだけれど、手は糠だらけだった。

本当はいっしょに干した大根の葉を漬け込むのだけれど、私は干し加減を知らなくて(なんだ干し加減て)、カッサカサにしてしまった。もうカッサカサ。水分なんてかけらもなくて、緑じゃなくてまっ黄色だし、こりゃアカンということで諦めたのだ。なくてもいいと聞いてほっとした。

重しを乗せる。重しは大根の重量の3倍くらいのものを使う。それを置いたら漬け物袋を閉じて、あとは待つだけ。一週間くらいで水が上がってくる。あんまり上がってこなかったら重しを足す。

私のもしっかり干したからあんまり上がってこなかった。でも、もう重しはない。こうなった。

下段、たくあん。
中段、糠漬け。
上段、味噌。 


味噌は母お手製のウン年物の麦味噌だ。めちゃくちゃ美味しい。糠漬けは今はセロリとピーマンが入ってるはず。そろそろ出してやんないと。
 
重しはないならないで、意外と何とかなるものである。そういえば、昔は漬け物石を探しに家族で川へ繰り出してたな。あんまり石は持ち帰らない方がいいと聞くけど、それで呪われたことはない。運がいいのかもしれないが。気づかなかっただけかもしれない。

話が脱線した。

そして無事に大根の上まで水が上がってきた。もう少し待ったら食べられるようになるはずである。楽しみだなあ。

じいちゃんの味、とは言ってるものの、たぶんばあちゃんが先頭に立ってやっていたはずだから、じいちゃんばあちゃんのたくあん、と言った方が正しいだろう。そしてばあちゃんはまめな人であるから、きっと干し果物の皮はいろいろ入れていただろうと思うのだ。庭にはいろんな果物の木があった。

だからふたりの味に近づけるのは、いつになるやらわからない。だいたい今回のだって、成功しているかは食べてみるまでわからないのだ。とんでもないことになってないとも…いや…言いたくないんだけども…。

けれどとりあえずスタートラインには立てたはず。
そうだよね、じいちゃん、と、漬け物樽を見ながら思う孫なのだ。
 
と締められたらいい感じなのに、この漬物樽見たらどうにも笑っちゃうよね。 

どう頑張ってもしまらない。
蓋もお話も。
 
そのくらいが私だなあと思う次第である。

 

 

 


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