【パリの静かな夏】
「海外に来てカルチャーショックだった出来事は何か?」という質問をよく受けるのですが、
1.休暇に対する考え方の違い、あるいは、働き方の違い
2.家族との時間をとにかく優先する
という2点が最大のカルチャーショックであり、これらが多くの文化や習慣を理解するキーワードになっているように感じています。
8月の中旬、私は10ヶ月ぶりにパリを訪れました。7−8月にかけては、街全体が夏季休暇に入るため、一気にパリの人口が減り、普段の賑わいはなくなります。いつもは満員の朝のメトロもがらんとしていますし、観光エリアのレストランでも長期休暇をとって閉まっているところが多くみられます。日本では、夏休みどころかクリスマスやお正月まで営業しているレストランも珍しくないことを考えると、かなり異様な光景かもしれません。普段はパリの住民に代わって観光客が増えるのですが、コロナの影響か、今年は例年ほどの入れ替わりは見らず、なおさら静かだったように思います。
私は友人たちとレストランで会う予定をしていたのですが、まず空いているレストランを見つけるのが非常に大変でした。16区(閑静な住宅街)でなんとか見つけたお店では、普段は人気の店内にギャルソン(ウェイターのこと)は1人しかおらず、私達以外に2組が食事をしているだけでした。翌日、観光客の多いオペラ地区で和食を食べようとしましたが、こちらは休業。店頭には「3週間休み」という張り紙がありました。その他にも、私がかつて住んでいた9区(サクレクール寺院があるパリの下町)では、小さな雑貨屋やファッション店舗は殆どが閉まっており、お気に入りだったパン屋もお休みでした。チェーンのスーパーなどは空いているので生活に困ることはもちろんないのですが、久しぶりに滞在するにはタイミングが悪かったと思いました。
長期休暇を取るのは商業施設だけではなく、クリニックもしっかりと休みを取ります。フランスは日本と同様に受診先を自由に選ぶことができるので、自分のかかりつけ医が休みであれば、代理のクリニックを探すことになります。私は昨年の夏に卵子凍結をしたのですが、ホルモン注射の経過観察のために数回に渡って産婦人科を受診しなければならない中、多くのクリニックが休診中のため、受診先探しに非常に苦労しました。
週末の休みでさえも、休暇をしっかりと楽しんでいる様子がわかります。月曜日に職場へ行くと、’How was your weekend?’ という会話から始まるのがお決まりです。多くの同僚がハイキングに行ったり、ピクニックをしたり(フランス人は緑の多い公園でランチをしてお酒を飲む「ピクニック」が大好き)、フランスの地方へ旅行したりしていました。月曜日には週末の過ごし方についておしゃべりをし、どこへ行って何をしたか、で盛り上がります。
私が日本の病院で勤務していたときには、丸一日フリーな日は月に数日だったので、休日といえば家事や雑用をして終わり、たまに友人と食事に行く程度でした。そのため、フランスに移住したばかりのころは、「週末に何をすればいいかわからない!」という状況になったものです。
そして木曜日になると今度は ‘What’s your plan this weekend?’ です。金曜日になると仕事をさっさと切り上げて出かける人も多く、金曜日の午後に送ったメールは週明けまで返って来ないのが普通です。
日曜日にスーパーが空いていないのはよく知られていることだと思いますが、古典的には、キリストが復活した日曜日は礼拝に行く主日として、ヨーロッパ全体で支持されてきました。今やキリスト教離れの進むヨーロッパにおいても、週末は頑なに休むという習慣は変わっていません。フランス人が休暇を楽しみに暮らしていることは間違いないと思うのですが、同時に、休日をしっかり休めるのは、平日に仕事を終わらせる「能力が高い人」、長期休暇を楽しめるのは「ビジネスが上手く言っている証拠」という昔からの(ステレオタイプな?)考え方もあり、休日は仕事から離れて過ごすものと考える人が多いです。ちなみに、こんがり焼けた肌は南仏(リゾート地)で休暇を過ごせるお金持ちとされています(日光浴なんてどこでもできますが)。
家族との時間の過ごし方は、休暇をどう過ごすか、に付随していると思っています。というのも、休日は家族との時間に当てられることがほとんどだからです。パリで大学院に通っていたときにも、同級生が金曜日の夕方から月曜の朝まで地方に住む家族の元で過ごしたり、家族と集まって一緒にランチ(3時間から5時間くらいかける)をしていました。学生だから両親のところに戻るのではなく、社会人になっても、恋人ができれば恋人を連れて、週末には家族揃って食事をします。そのため、日本では週の終わりの金曜日に飲み会をすることがよくあると思いますが、金曜日の夕方には皆移動を始めるため、飲み会の定番は木曜日です。
また、家族の諸事情によって仕事を抜けたり早退する(遅刻という概念はあまりない)ことに対して職場の同僚や上司は非常にサポーティブでした。自宅から参加するオンライン会議中に子供が乱入してきたり、家族を紹介するということも珍しくなく、仕事とプライベートは分断するものという考え方が一般的な日本に比べると、フランス社会では家族との生活の中で仕事が存在する、という印象を強く持ちました。
そんなわけで夏季休暇前(5月末)に開始した私のスイスへの移住手続きにも、かれこれ3ヶ月以上かかっております。日本ではありえないスピードかと思いますが(フランスでは国民保険に加入するのに1年かかったのでまだ待てます笑。)、これも勤務時間遵守と休暇を大事にした結果かもしれません。。
*写真は8月中旬、パリのセーヌ川沿いです。短い夏を楽しむため、晴れていれば外に出て日光浴をし、焼けた肌を目指しているのでしょう☆
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