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【論文】組織に馴染めなくなって、辞めるのはなぜ?-幻滅経験と社会化圧力の抵抗-

新入社員として、会社に入社したとき。慣れないルールや風土に揉まれながらも、先輩や上司の行動を観察しながら、馴染んでいこうと努力した経験はありませんか?

組織に参入した者が、新しい組織内環境に適応していく必要から、知識を獲得し、態度を形成し、行動を変容させ、組織による変容を体験する過程のことを、組織社会化(organizational socialization)といいます。

一方で、せっかく入社した会社に馴染めなかった時。私も1社目を5ヶ月で辞職した経験があるのですが、自分のやりたいことと、会社でできることにギャップを感じてしまったのが原因でした。

この論文は、早期離職する新入社員について問題提起し、入社後の予測の問題(将来希望値と将来予測値のギャップ)について組織社会化の観点から検討していく内容になっています。

論文名:組織社会化過程における新入社員の態度変容に関する研究
-幻滅経験と入社8ヶ月後の態度 ・行動の変化-/ 佐々木政司



組織社会化とは?

組織社会化の定義は下記です。

「組織への参入者が、組織の一員になるために組織の規範・価値・行動様式を受け入れ、職務遂行に必要な技能を習得し、組織に適応していく過程」(高橋,1993)

もう少し噛み砕くと、「組織人になる」、あるいは「会社や組織の色に染まる」といった意味合いも含まれるかもしれません。

幻滅経験

では、組織社会化の不適応は何が要因で起こるのでしょうか。この論文では、個人の期待と組織の現実のギャップによる幻滅のメカニズムを下記の図で表しています。

例えば、自分は責任のある大きな案件を任されるはずだ!と自信満々で入社しても、最初はどちらかというと地味な案件をまずはやりなさい、と言われたり。昇進も5年以内にできるはずだと思っていたら、思っている以上に昇進に繋がなかったり。このようなギャップの発生は程度の差こそあれ、ほとんどの人が経験しているものでですが、このギャップが大きすぎると、組織 に対する幻滅が生まれることになる、といわれています。

幻滅体験は離職につながる

では、このような入社初期の幻滅経験はその後の組織行動にどのような影響 を与えるのでしょうか。

Dunnette, ArveyandBanas (1973)の先行研究では、入社2年以内に離職した群 と離職しなかった群とに分け、在職経験の比較を行いました。

その結果、離職した群では、入社から2年の間に、上司、承認、仕事の責任、仕事の興味、進歩の機会などの側面で期待と現実の大きなギャップ、す なわち幻滅を経験していたことがわかりました。

若林 ・南 ・佐野(1980)などの先行研究では、潜在能力の高さを期待の大きさと考え、さらに上司との交換関係によって幻滅感および職務遂行がどのよ うに異なるかを入社してから3年間について検討をしています。その結果、潜在能力と交換関係がともに高い群において、他の群よりも幻滅感がもっとも小さかった、ということがわかっています。

その理由は、上司から仕事の上で大きな援助や期待を受け、高い潜在能力を発揮することが可能であり、期待と現実のギャップを感じなかったためであ ると述べています。

社会化圧力への抵抗

組織社会化の不適応要因は、幻滅経験のほかに社会化圧力に対する抵抗もあると述べられています。

個人が自由であると感じているときに、その自由を制限したりするような社会的圧力が加えられると失われそうな自己の自由を取り戻そうとする力を心理的リアクタンスというらしいのですが、社会化圧力を受けたとき、これらの自由に対する脅威を感じ、心理的リアクタンスが生じるとしています。

若林(1991)はこの心理的リアクタンスへの対処を、若手社員の層別分化と関連させ、4タイプの適応を想定しています。

第1は組織への同調であり、会社人間とよばれるタイプを構成し、自己の持 つ自由を放棄してしまった組織社会化過剰の状態である。個人の自立性が失われ、会社依存的な行動を取ることになる。

第2は離職であり、第3は仮の同調である。 この2つは自由を放棄せず保持 したままで、社会化圧力に対して抵抗する方法である。社会化圧力と直接対決する場合には、その組織に留まる限り圧力を受け続けることになるので、 離職を思い立つことになる。 これに対し、表面的には社会化圧力(特に職場 の慣行)に服していながらも、いつか転職しようと考えているのが仮の同調で ある。

第4は 創造的適応である。これは基本的に社会化圧力を認識した上で、職場の慣行に捕れずに脅威にさらされた自由を行使することである。

離職した職場を振り返ると、幻滅経験も社会化圧力もあったなあと思いますが、特に社会化圧力を感じたていたなと思いました。心理的リアクタンスの対処方法は、当時わからず第2の離職を選んだのですが、今なら第4の創造的適応を工夫してやってみるのも一つだったな、と思ったりもします。

そして、こうして整理してみると、当時の自分が置かれていた環境がなんだったのかが理解できて、より対処方法を考えやすくなるな、と思いました。(当時、もう少し早く理解できたらよかった…..!)

以上が、組織社会化と不適応の発生メカニズムです。組織側が今までの伝統や慣行などを無理に押しつけたり正当化する社会化圧力を加えると、結果として予備軍を含めて離職者のような不適応者をだすだけになるからこそ、組織として幻滅経験や、社会化圧力を感じさせていないかは、見直したいところです。

この論文の続きは、組織社会化の過程で、新入者があらかじめ持っていた期待や態度と、実際に参入して接する組織の現実との間のズレから経験される幻滅感が、その後の社会化や業績、職場の人間関係などにどのような影響を及ぼすのかについて調査をしているので、気になる方はぜひ読んでみてください◎

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