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【ショートストーリー】紅葉の下に

 「ねぇ、もし私が死んだらあの木の下に埋めてくれない?」

何を言うのかと驚いた。
僕は車椅子を押すのを止めてしまって少し彼女の重みが僕の足にのし掛かった。

「変な事言わないでくれる?また元気になってここへ来るんだから。それに公共の場だぞ。お墓なんて建てられるかよ」

「だっていつでも第2候補を立てるは洋二でしょ。映画混んでそうならカラオケとか。第2候補のもし私が死んだらってのも考えておいても良いでしょ」

「やめてくれよ」

「第2候補の女の子とでも…」

「バカ」

 雷に打たれた様なとはよく言った物だ。
最初に電話が入った時は何の事か分からなかったし理解するのに時間もかかった。
数日間は食事もちゃんととれなかった。
その後、幸いと言えば良いのか美衣奈は意識を取り戻したのだが、以前の様に自由に歩く事は出来なかった。

「普通は時間がかかるんだから焦らないでよ」

こう言っても常に彼女は焦ってリハビリしていた。

「去年みたいに紅葉見られるよね。あの公園で。たこ焼き屋さん、まだあそこでやってるのかな?」

焦っていたおかげなのか外出許可も思ったより早く出て何とか紅葉の季節には間に合った。

「家のお墓じゃジメジメしててさぁ。あのお寺、墓地の側は杉とかでしょ。もっと綺麗なカラフルな所が良いの。ここなら赤、黄、緑。ヒラヒラ降ってきて。昔のアルバム見てるみたい」

「まぁ、君と1番来た場所だしね。思い出も多い」

「おっ、のってきたねぇ。うん、なんかここに全部ある様な気がするのよねぇ」

「でもここはただの公園だぞ。思い出ってのは心の中だ」

「まぁね」

強く風が吹いて紅葉の葉が舞い上がる。
白っぽい空に実に鮮やかに色を塗るのを2人で眺めた。

 
 また紅葉の季節がやって来た。
久しぶりにその木の場所へ行ってみようと思い公園へ向かった。
さすがにあそこに墓を建てる訳にはいかなかったが、墓石の名前の下に楓のマークを入れてもらった。

公園に着くと小さな子供達があの木の下で遊んでいる。

木の下は上から降りてくる枯葉と子供達の走り回る色で随分とカラフルに美しくなった。

 

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