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【ショートショート】テレビ

 ここはとある動物園。
動物達は毎日檻の中から人間が流れて行くのを見て過ごしています。
インコのいる鳥小屋の中にはピーとパーと言う名前の2羽のセキセイインコがいます。
ピーとパーは人間が流れて行くのを一日中見ながら

「あぁ、テレビは面白いな」

「テレビは毎日観ていても飽きない。面白い。今日は小さい人間も沢山来てるな」

等といつも会話していました。
檻から見る景色をテレビと言っていたのです。

 ある日カラスのカラスケがピーとパーの元にやって来ました。

「おい、インコ共。今日は暑いな。俺はそんな小屋の中にはいないからあっちの噴水で水浴びしてきた所だ。お前らも外に出てみろ。一緒に外で遊ぼう。逃げるのを手伝ってやる」

カラスケがそう言うとピーは不機嫌そうに言いました。

「外なんていつでも出られる。ここの鍵は簡単だからな。ただ出ると色々面倒だ。人間が騒ぎ出すから」

鳥小屋の鍵はライオンやトラの小屋と違って簡単な鍵でした。ちょっと頭を使えばすぐ出られるのですが色々面倒なので鳥達は自分達からは出ませんでした。

「そうか、人間の食べ物を一緒に食べに行こうと思ってたのに」

カラスケがそう言うとパーは不機嫌そうに言いました。

「あれはたまに人間が投げ込むから何度か食べたが酷い下痢をした。我々には合わない。今日はテレビも面白いから邪魔しないで帰ってくれ」

「おい、テレビなんてどこにあるんだ?お前達の小屋には藁だの枝だのだけだろう」

「目の前だよ。お前は知らないのか?人間が流れて行く光景をテレビと言うんだ。他の者にも聞いてみろ。皆テレビと言ってる」

「それは驚いた。お前達、間違っているぞ。テレビはそんな事を言うんじゃない。人間がいつも見ている四角いやつだ」

ピーとパーは顔を合わせて不思議そうにしました。
ピーはカラスケに言いました。

「あの人間が前足に持っているやつか?」

「それは電話だ。人間の部屋の中に置いてある。人間が芝居をしたり、叫んだりする動く絵が映ってる。それをテレビと言うんだ」

ピーとパーは再び顔を合わせました。
そしてピーとパーはそれが凄く気になってしまいました。
カラスケは続けて言いました。
「あっちの建物にテレビを見ている人間がいたぞ。窓から見えた。どうだ?行くか?」

ピーとパーははカラスケに着いていこうか迷いましたが人間が多い時間を避けて夜見に行く事にしました。
カラスケはそれが建物のどの辺りの場所か教えると今度はフラミンゴにちょっかいを出しに行きました。

 夜、人間もいなくなって、ほとんどの動物が寝静まった頃、ピーとパーは鳥小屋の鍵を開けて人間のいる建物へ向かいました。

「おい、ピー。この辺りじゃないのか?2階と言っていただろ?」

「おい、パー。あっちから人間の声がするぞ」

1つ明かりが漏れている部屋があり、そこから人間の声がしました。
ピーとパーは窓から部屋の中をのぞき込みました。

「がんばれ!がんばれ!」

「もう少し!もう少し!」

何人かの人間がカラスケの言っていた様な四角い物を見ながらそんな事を言っていました。

「やったぁ、産まれたぁ。良かったぁ」

「頑張ったねぇ」

四角い物にはジャイアントパンダの出産する所が映っていました。

「なんだ、あのグウタラな動物じゃないか?」

「こんなのちっとも面白くない!人間が芝居をしたり叫んだりするのが観たかったのに!あんなのがもう1匹増えるなんて不愉快だ!帰るぞ!」

ピーとパーは建物を出て自分達の小屋に戻り鍵をかけてブツクサ文句を言いながら寝ました。

 次の日、カラスケが再びピーとパーの元にやって来ました。

「どうだ?テレビは見られたか?面白いだろ?」

ピーは不機嫌そうに言いました。

「あんな物つまらん。こうやって、いつものテレビを観るのが面白い」

続けてパーが言いました。

「あんな不愉快な物見て損したぞ。あそこにいる人間も不愉快だ。あんなでっかい一つ目の化け物をかついで。こっちに一つ目を向けてきた。たまに来るがあれは何だ?」

カラスケは言いました。

「あれでテレビに映す物を撮ってるんだ」

ピーは呆れた顔で言いました。

「どおりで。ほら、今パンダの所へ行ったぞ」

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