【ショートショート】カリカリ問題
ある程度遠いがそこまで遠くない未来、やっぱり人類は滅んでしまっていた。
人の命を救う事より人の命を奪う事に力を注ぎ続けていたので当然である。
地球上に残された多くの動物達にとっては人類滅亡は朗報であったが、中にはそうでない者達もいた。
犬と猫である。
最初は「仕方ない」くらいに思っていたのだが、ある事に気づいてからの犬猫の世界はパニック状態になってしまった。
「カリカリするやつ」
この「カリカリするやつ」はどうも人間にしか作れないらしいと気づいたのだ。
元々雑食なので生きていくには困らないものの一度、「カリカリするやつ」の味を覚えてしまったのでどうしても「カリカリするやつ」は食べたくて仕方ない。
元々野良で暮らしていた者達からは
「何を贅沢な」
と批判を受けたが、生ゴミを漁る事も出来なくなった野良達にとっても人間のもたらしていた食料の損失は計り知れない所であったので、自生状態の野菜を探したり、小動物を追いかけたりするだけでなく、「カリカリするやつ」を含めた人間の作った食料の確保に皆奔走する様になった。
廃墟となった大型スーパーや小売店への侵入手段や包装の開け方等が貴重な情報として取り引きされ、対価として手持ちの食料が渡されたり、人間の靴、ぬいぐるみ等と交換される事もあった。
缶詰に関しては
「何か美味しい物が入ってる」
と理解はしていたが、開ける術は無く、瓶やペットボトルに入った液体等は力づくで開ける手段を身につけた。
色々な食料がある中でも、やはり「カリカリするやつ」の人気は犬猫共にダントツであり、食事の量を調整する飼い主もいない事からあっという間に希少品になってしまった。
そして食料なだけに徐々に食べれなくなる物も増えていった。
そうなると偽物も出回る様になり、乾燥した他の動物のフンを持ち出し
「ほら、あれ、ココア味のやつ。古いから風味変わってるけど」
等と言って他の食料と交換する者まで犬猫問わず出てくる始末であった。
本物の「カリカリするやつ」も新しい物が現れない事からほとんどは
「今はシナシナしているがかつてはカリカリしていたやつ」
として出回る様になっていった。
ある日、奇跡的な保存状態で見つかった犬用の「カリカリするやつ」を巡って犬同士で殺し合いが起こってしまった。
今までも動物同士なので殺し合いはあったのだが、この件は状態の良い「カリカリするやつ」が絡んでいたので特別であった。
すぐに派閥同士の小競り合いに発展し、その輪は広がり、それぞれの犬に加担する猫、猫同士、裏切り等の争いになった。
多数の死者が出てしまい、もはや収拾がつかない状態にまで発展していたのだが、1匹の猫の放った
「そもそも人間がなぜ滅んでしまったのか思い出せ」
の一言で大規模な争いは終結した。
その時、犬も猫も地球上の生物として人間を超えたのだった。
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