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<閑話休題>英国由来スポーツが雨でも実施される理由

 私の好きなラグビーでは、「英国紳士(ジェントルマン)たる者は、一度決めたことは何があっても約束を守る。だから、雨が降ろうが槍が降ろうが、一度やると決めたラグビーの試合は、何があっても実施する」という、まるで「武士道とは死ぬことと見つけたり」式の戦陣訓のような言葉が信望されている(さすがに、現在ではかなり緩やかになってきているようだが)。

 またこの言葉は、ラグビーを優れたスポーツであることの代表であるように喧伝されてきたが、雨天実施はラグビーに限らず、英国発祥のスポーツである、サッカー、ゴルフ、競馬、陸上競技の一部などでは普通のことである。ただし、テニスはさすがにプレーに支障が出るので、中止になる。

 しかし、この言葉の背景には、英国特有の風土があることを意外と知らずに、温暖湿潤で多雨の日本の風土にそのまま当てはめていることに、私は違和感を持っている。例えば、今では当たり前になっている傘をさすという習慣は、英国では19世紀初頭から根付いたと言われている。それまでは傘をさすことはせず、文字通り「レインコート」を雨の中で使用していた。

 レインコートで雨がしのげた最大の理由は、英国の雨は日本の雨とは違うからである。英語で雨を表す単語はいくつかあるが、「レイン」という日本の雨に相当する単語以外に、「シャワー」というものがある。これは、日本語に訳せば風呂場に相当するシャワーではなく、霧雨という感覚が近い。さらに、レインのように連続して降るのではなく、降ったり止んだりを繰り返す状態を表している。つまり、傘を常時使用する必要がないものが大半だということだ。

 従って、英国紳士に傘を普及させるために考案された方法は、当時の英国紳士が外出する際に必須だったステッキと同じ形状に傘を改良することで、傘=ステッキとして持ち歩くようにさせたものだった。現在でもこのステッキ型の傘は廉価のものを中心に主流になっているが、折り畳み傘などはステッキ状ではなく、先祖帰りしているものが多いようだ。

 次に、スポーツをする環境が日本と異なっていることが挙げられる。英国は、国土全体が羊などの放牧に向いている草地である。つまり、グランド状態でいえば芝地だ。そうした芝地でラグビー、サッカー、ゴルフ、テニス、競馬、クリケットをやってきたから、スポーツを行う場所は芝があって当然であり、芝地なら多少の雨を吸収してくれるので、プレーへの支障が軽減される。これが雨天時でもプレーを行う理由の一つとなっている。

 しかし、英国由来のスポーツがアメリカに移入し、例えばクリケットが野球(ベースボール)に変化した後、万事合理的なアメリカ人は野球の雨天中止を導入した。さらに、プロスポーツ化に伴い、天候に左右されずに行えるようにスタジアムに屋根を付け、人工芝を開発した。また、屋根付き及び人工芝は、スポーツ以外の音楽コンサート等にも使用できるので、スタジアムの経営を安定させる。つまり、屋根付き及び人工芝は、20世紀における経済の発展とそれに伴う娯楽の多様化に即した、ごく自然な方向であったのだ。

 従って、今後は、さすがに規模の広いゴルフや競馬は無理だろうが、一定規模のスタジアムで行うスポーツは、屋根付き及び人工芝(あるいはテニスのようにその他の素材使用)で行うのが当然になってくるだろう。それは、人類の文化が進化してきた流れに沿ったものであり、必ずしも人類の文化をスポイルするものではない。また、技術の進歩は屋根付きであっても開閉式という方法も可能にしており、また人工芝は年々天然芝に近い品質に進化しているので、プレーする選手に対する影響は日々減少している。

 そして、日本のような毎年数個の台風が来る上に、梅雨と言う雨季があり、さらに恒常的に豪雨や豪雪が発生する風土では、英国由来のスポーツをそのままの条件で実施することには弊害しかない。さらに、こうした無理な条件下でスポーツを実施した場合、まず選手自身への健康問題が生じるほか、スポーツ興行という面では観客に不快感を与える上、減少してしまう経済面でのダメージが惹起される。

 こうした状況を鑑みずに、徒に「ラグビーは天候に関係なくプレーすべきだ」と強弁する人が一部にはいるが、そう言われるならば、一度豪雨・豪雪の下でラグビーをプレーしたり、観戦したりすることをお薦めしたい。それで風邪や肺炎になったとしても、自らの狂信的信条に従った結果と理解してもらうしかないだろう。


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