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<ラグビー>女子日本代表対女子アイルランド代表第一テストマッチ結果、ブラックファーンズ対ワラルーズ、オールブラックスのコーチ人事

1.女子日本代表22-57女子アイルランド代表

 静岡のスタジアムなので、2019年RWCで男子代表がアイルランド代表に勝利した歴史的ゲームを印象づけるような宣伝が試合前に目立っていたが、どうひいき目に見ても、女子南アフリカ代表に惨敗した女子日本代表が、女子RWC出場を逃しているチームとはいえ、女子アイルランド代表に勝つことは言葉の本当の意味で奇跡でしかない。そもそもラグビーは野球やサッカーと違って、身体のぶつかり合いが常時継続するため、アップセット(奇跡)は起きにくい実力を忠実に反映するスポーツだから、敢えて言えば、第二次世界大戦で米軍に対して竹槍で戦うようなものでしかない。だから、勝敗ではなく、内容を見るためのゲームだと思っている。

 結果は、やはり奇跡は起きず、実力通りになってしまった。大きなスタジアムで、いるのかいないのかわからないくらいのバックスタンドの観客(メインスタンドはわかりません。また、某芸能事務所のイベントがあり、こちらには当然に雲霞の如くの人出があったそうです。ラグビーはマイナースポーツだと再認識した次第)の中、アップセットするようなアウェイ感は皆無だろう。ホームアドバンテージがあるとすれば、この時期特有の日本の蒸し暑さ。でも、お盆を過ぎて湿度がいくらか下がってきたので、自然の力というホームアドバンテージも減少していた。

 それでも試合の入りでは、アイルランドがスロースタートだったこともあり、日本が2T1C1Pで15-0とリードする。しかし、NZ人レフェリーの能力云々よりも、日本人2人のアシスタントレフェリーやTMOとのコミュニケーションが良くなかったようで、日本の二つ目のトライは明らかなスローフォワードだったと思う。でも、最後に日本が大敗したから、これはスルーしてもまったく影響はなかった。

 一方、日本のキャプテンとレフェリーとのコミュニケーションが悪い上に、判断ミスもあり、ノリノリでゴール前10mのPKをもらった後、いったんPGを宣言してからこれを覆してアタックすると言っても、ラグビーを知っている人なら当然ながら、認められるわけではない。さらに、その後はラックサイドのオフサイドを連続して取られるなどして、ゲームの流れが変わる。この反則は、レフェリーから「下がれ!」というコールがあるのだから、これを聞いて下がるべきだし、続けて取られた後にキャプテンがレフェリーにオフサイドラインを確認すれば、次からは防げたもの。

 ここにもコミュニケーションという、基本的なことができてないミスがチームの足を引っ張った。また、こうした基本はコーチが選手に教えるべきであり、先般の対南アフリカ第2戦で第1戦からの分析と改善ができなかったことと併せて考えれば、選手自身の問題よりもコーチの問題が大きいと思わざるを得ない。

 チームがキャプテンを中心に不要な反則を繰り返し、それにつられてセットプレー、アタック、ディフェンス、キックキャッチでイージーミスが出た後、アイルランドの重要な攻撃手段であるモールであっさりとトライを取られる。さらにFWの優勢を生かしたラインアタックで連続して得点され、前半終了時には15-19ときっちりと逆転された。

 後半は、試合開始時と異なりエンジン全開のアイルランドは、アタック練習のように、やることなすこと全て日本のザルディフェンスをやすやすと突破する。そして、日本のミスでゴール前ラインアウトを得れば、確実にモールでトライして、日本の士気をじわじわとくじいていく。57分に15-38とアイルランドが安全圏にリードした後、62分に日本はPKからの速攻でトライを返すが、これが精一杯の反抗。やることなすこと全てがミスばかり。せっかく良いハイボールキャッチからのカウンターをしていた11番WTBに対して、コミュニケーションが取れていないチームは、下がってきた12番CTBが邪魔をするという代表チームとしては恥ずかしいミスをしてしまうのが好例だった。

 こうした悪い流れはさらに悪化していき、日本の交代SOが連続してキックチャージされ、2回目はトライまで持っていかれて、68分には22-43になり、71分にはアイルランドの交代SHが抜け目なくディフェンスのいないラックサイドを楽々と抜けて、22-50と大きく引き離されてしまった。こうなってはもう時間がただ過ぎてくれるのを待つしかない。昔、1995年RWCで男子日本代表がオールブラックスのBチームに145点を取られたのと同じで、選手はもうやる気が出てこない状態だろうし、やれというのも無理でしょう。

 それでも選手が、チームが劣勢な中で無理に奮闘すれば、もう反則プレーになってしまって、79分には反則の繰り返しでシンビン、そして、ラックサイドを簡単に突かれて、最後は22-57と完璧に粉砕されてノーサイド。むしろ、22点も良く取れたなというのが率直な感想となった。最後のホイッスルが鳴ってから、女子アイルランド代表選手は皆満面の笑みなのに対して、女子日本代表は皆堅い表情で握手するのも、これは健闘したとも言えない試合内容からは仕方ないことでしょう。

 女子日本代表の選手では、両FL、相変わらずどこをやってもアタック&ディフェンスが安定している松田、ベテランの斎藤、力強いラベマイが奮闘したが、チームとして機能していないのでは、個々の選手が一人で奮闘しても限界がある。もう女子の強化は、コーチとか云々の問題ではなく、ハイレベルの国内リーグを整備することから始めねばならないと改めて認識させられた。土田会長、久々に登場した何か驚くような改善をやってくれそうな有能な会長なので、男子だけでなく女子もお願いしますよ。

2.ブラックファーンズ52-5ワラルーズ

 念のため、ブラックファーンズとは女子NZ代表で、男子のオールブラックスと同じジャージーだが、国花であるシルバーファーンズ(シダ)と合わせて、ブラックファーンズという名称を使用している。また、女子オーストラリア代表は、男子はワラビーズ(カンガルーの小型版がワラビー)に対して、女子がその女性形としてのワラルーズを使用している。当然のことながら、両チームとも今年の女子RWCで優勝を狙える強豪チームだ。

ハイライトビデオ
https://youtu.be/qK_s6iEWQ_I

 このビデをご覧いただけばわかる通り、男子に負けないレベルのフィジカル、スピード、スキルを持っている。また、何よりもディフェンスがしっかりしているし、セットプレーも安定している。下手な男子のゲーム(例えて悪いが、日本の大学生のゲーム等)よりも、はるかにレベルが高い。女子だけでなく、男子も参考になるレベルだと思う。

 特に、ブラックファーンズの良いところはアタックで、既にNZ女子ラグビーの伝説的存在になっている大ベテランのSHケンドラ・コックセッジの、速く・長く・正確・タイミングの良いピンポイントのパスは、これだけでゲインを切れるものだ。そして、これに対してスピードと角度の的確なパスレシーバーのもらい方は、ラグビー初心者のお手本にして欲しい素晴らしさだと思う。また、何も難しいことや奇抜なことをしているわけではなく、基本に忠実にミスなくやっていることが大きな力になっている。

 ブラックファーンズも、昨年まではヨーロッパ遠征でイングランドやフランスに惨敗し、オールブラックス以上の酷い状況だった。しかし、カリスマ的なコーチであるウェイン・スミスを投入した結果、見違えるほどに改善し、世代交代に成功したばかりか、全盛期に劣らない実力を取り戻すことに成功した。

 こうした結果を鑑みれば、オールブラックスもドラスティックに監督交代すべきだと思うのだ、これについては次項で述べたい。

3.オールブラックスのコーチ人事

 先々週までの6試合で1勝しかできず、その後連敗を止めたとは言え、7試合2勝5敗という史上最低の成績となっている現オールブラックス監督イアン・フォスターの去就については、世界中のラグビー界が注目していたが、この度NZ協会評議員による結果検証と議論の結果、不思議なことに満場一致で、フォスターが2023年RWCまで続投することが決められた。

 一方、既にFW担当ジョン・プラムトリーとBK担当ブラッド・ムーアの2人のコーチが更迭され、ディフェンス担当のスコット・マクロードとスクラム担当のグレッグ・フィークは残っていた。また、クルセイダーズからFW担当のジェイソン・ライアンが加わり、FWの改善が試みられた。さらに、セレクターのグランド・フォックス退任に伴い、前アイルランド代表監督だったジョー・シュミットが後任に就任していたが、南アフリカへは渡航しておらず、遠隔で分析などを行っていた。

 こうした事情がある中、今回評議会は、フォスターを続投させることに伴い、シュミットをセレクターのみならず、アタック兼BK担当のアシスタントコーチに昇格させ、シュミットがフォスターをサポートすることで、RWCまで持たせることにした。そのためフォスターは、2019年までのスティーヴ・ハンセン監督の下でやっていたマネージメントを中心とする役割になり、チームとしての戦術・戦略はシュミットが中心となるのではないかと思われる。つまり、形だけフォスターは残ったが、実質はシュミットがオールブラックスの監督として手腕を振るうことになるだろう。

 これは、オールブラックスとしては一歩先進と言える。また、世界的な名コーチであるシュミットは、NZに戻ってきた当初は、障害を持つ子息の世話に専念するためラグビーからは離れると言っていたが、今回NZラグビーのために貢献してくれることになったのは朗報だろう。また、シュミットを他の国に取られてしまう心配もなくなった。

 一方、次期オールブラックス監督として期待と人気の高いスコット・ロバートソンは、もしもオールブラックス監督になれない場合は、自分の年齢を考慮して他国の監督としてRWC優勝を目指したいとメディアを通じて公表している。また、既に現イングランド監督のエディ・ジョーンズとオーストラリアで会っており、ここでジョーンズの後任としてイングランド監督就任を勧奨されたとみられている。

 従って、オールブラックスとしてはフォスター解任というNZラグビー史上稀な不祥事を避けることができたが、ロバートソンというNZの持つ世界最高レベルのコーチを、イングランドなどのライバル国に取られてしまう心配が出てきた。他方、もしNZ協会が、2023年RWC以降のオールブラックス監督就任をロバートソンに約束しているのであれば、こうした心配はなくなるが、仮にシュミット体制でオールブラックスがRWCで良い成績を残した場合(それは「優勝」だけだが)は、シュミットを監督昇格させるべきとの意見が多くなるため、その後のシュミットの扱いに悩むことになってしまう。

 オールブラックスのファンとしては、2023年RWCを現状から見れば、優勝は期待できないので、次の2027年大会優勝を目指して欲しい。それには1987年RWCで、ブライアン・ロホアー、アレックス・ワイリー、ジョン・ハートのNZベストスリーのコーチによる挙党体制にしたことを参考に、これを再現して欲しいと思うし、またそうすべき危機的状況だと思う。つまり、スコット・ロバートソン監督、アシスタントコーチに、FW担当ワレン・ゲイトランドとBK担当ジョー・シュミット。さらにFWのサブコーチに現行のジェイソン・ライアンを継続、BKのサブコーチはレオン・マクドナルド。スクラム担当はグレッグ・フィーク継続で、ラインアウト担当としてルーク・ロマノを入れたい。さらに臨時コーチとして、リッチー・マコウとダニエル・カーターを随時招集したい。

左から、ワイリー、ロホアー、ハート

 ここまでやって優勝できなかったら、もうオールブラックスのブランドは地に落ちてしまうと思うし、世界のラグビーが衰退するのではないかと心配している。


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