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「初めての人生の歩き方――毎晩彼女にラブレターを」(有原ときみとぼくの日記) 第251話:受話器の向こう側。

「もし事実が理論と合わないとしたら、捨てるのは理論の方ね」アガサ・クリスティ

★今日は #ミステリー


 始発の電車が目の前で出ていった。
 ぼくはイスに座って次を待つ。その間にホテルで拾った漫画を読む。電車が来た。ぼくはそれに乗り込んで、また漫画の続きをめくる。早朝の地下鉄は帰宅するのか出社するのか分からない人たちが独特の雰囲気を放っており、新鮮味こそあれ楽しいものではなかった。

 ぼくもその独特な一人なのだ。

 だからぼくは早々に自分一人の世界に入り込む。漫画をめくるペースが上がっていく。気がつけばぼくは漫画の世界に引き籠っていたようで、降りるべき駅を乗り過ごしてしまった。

 慌てて次のホームで降りて向かいのホームに戻ろうと思ったのだが、階段があまりにも長い。
 ぼくはゆっくりと歩くことにした。
 背後から誰かの足音がかつかつと響いている。
 こんな時間にお疲れさんだな、と思いながらぼくは階段を下りきってそのまま反対側のホームへ通ずる階段を上り出す。
 と、不思議なことにまだ足音は聞こえてくる。
 この人も駅を間違えたのかなぁと思いながら、いったいどんな間抜けななつがそんなミスをするのか自分のことは棚に上げて顔を拝んでみたくなった。

 ないげなく後ろを振り返る。
 そこにはいかにも新卒風のOLが階段をかつかつと上っていた。
 そこでぼくは思い出した。

 そうか、今日は水道点検の人が来る予定だったな。

 以前、この会社に電話をしたときに出た受付の女性の対応がひどくお粗末で、要件を伝えても要領を得ず、分かる人に繋いでもらおうにも保留が長すぎてついには切ってしまったことがあった。
 そのときはぼくも急いでいたので仕方なかったのだが、次にかけたときにもうその女性が出ることはなかった。

 もしかして。

 ぼくの頭にそんなも妄想がよぎる。
 後ろからは相変わらずこつこつと足音が聞こえてくる。
 ぼくはもう上り終わっている。
 彼女はひどくゆっくりと上っている。
 遠くから電車のライトが見えた。
 ぼくは急いで自分が降りる駅のエスカレーターに近い降車口のところまで移動する。

 電車が到着して、ぼくはそれに乗り込んだ。
 ふと窓からホームを見ると、先ほどの女性が悲しそうな顔をしてぼくを睨んでいた。
 手に受話器を握り締めて。

サスペンス、というより安っぽいホラーになってしまった、、、。
どうやらぼくはジャンル小説があんまり得意ではないようだ。
まあ、だから書くんだけど。

とりあえず、昨日はありがとう。
ぼくのわがままで家を空けて寂しい思いをさせてごめんね。
そして家を守っていてくれてありがとう。

もうぼくはどこにも行かないよ。

と言った瞬間にきみが

「すぐ行くくせに!」

と笑いながら突っ込んだあの感じが今のぼくのツボにはまったから、また今日から同じことを何回もきみに言うよ。

ぼくはどこにも行かないよ。

昨日はきみがぼくを待っていてくれたように、今日はぼくがきみを待っている。

早く帰ってきてほしい。
きみに伝えたいことがたくさんあるんだ。

きみを愛しているよ。

また後でね。

初めての人生、まさか一人でホテルに泊まって始発で帰る日が来るなんて予想もしていなかった。

しかも瞑想したいからとか、、、。

いつだって人生はハラハラドキドキするサスペンスのようだと思う。

ただサスペンスと違うのは、

人生は常にハッピーエンドになるということだ。

ぼくたちはどうやらそのために生まれてきたらしい。

だから安心して味わいたいと思うんだ。

ドキドキしてハラハラして、そしてワクワクして。

今日もありがとう。

今年も、残り100日。

またね。

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