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「初めての人生の歩き方――毎晩彼女にラブレターを」(有原ときみとぼくの日記) 第245話:電車と換気扇と思い出と。

「われわれが怖れなければならないただひとつのことは、恐怖そのものである」フランクリン・ルーズヴェルト

※今日はホラーの日


 電車の音と換気扇の回る音は似ている。
 ぼくはふとそんなことを考えながら電車に乗った。財布を開けると中には三円しか入っていない。いつもの時間にいつもの人込みにいつもの電車が地下深くを走っていく。
 耳の奥に低い地響きみたいな音が鳴っている。その瞬間、ぼくは今も家で回っている浴室の換気扇のことを思い出す。だからとっさに耳を塞いだ。しかしいくら耳を塞ごうとも音は消えるどころかかえって大きくなっていく。

 ぼくは思い出の灰を頭からかぶりその場でむせてしまう。

 思い出はいくら燃やしても消えやしない。逆だ。燃やせば燃やすほど色は鮮やかになり輪郭はくっきりとする。
 そうか、もしかしたらそうなのかもしれない。
 だからぼくは思い出を燃やすのだ。彼女のことをいつまでも忘れないようにするために。

 今頃もきっと換気扇は回っている。
 浴室に溢れ出る思い出を外に排出するために。
 ぼくはそれを想像してまた思い出を燃やし始める。

 通勤ラッシュの時間帯にスーツケースで来たのは確かに間違いだった。駅に着くたびに誰かの足にケースがぶつかってしまう。その光景はまるで過去に受けたひどい虐待のイメージに結び付きそうで、ぼくはその場で吐き気を催してしまった。

 だから次の駅で降りたのだ。

 しかし、降りてから気がついたのだけど、この降りる予定のなかった駅こそがぼくの目的地だったのかもしれないとぼくは考えた。
 ようはどこでもよかったのだ。
 ここにぼくがいて、彼女がいて、そして今も換気扇が回っていればそれで。

 電車の音が近づいてくる。それは昔海の近くに住んでいた祖母の家で眠ったときに聞こえた海鳴りの音に似ていた。
 ぼくは一歩前に出る。
 彼女は横で静かに乾いている。

 恐怖がぼくたちの背後に今立ち止まった。

今日は早く寝ようか。

いつもありがとうね。

本当はもっと話したかったし予祝だってしたかったけど、それよりも大切なものがあると信じて。

おやすみなさい。

初めての人生、見たくもないのについホラー映画を見てしまうときがあるんだけど、あれってなんでだろう?

一人暮らしの時は本当にそれのせいで何度眠れない夜を過ごしたことか。

でも恐怖という感情は面白い。

だって恐怖なんて本当はないかもしれないのに、わざわざ怖がるなんて。

でも怖いもんは怖い。

だからそれが楽しい。

今日もありがとう。

今年も、残り106日。

またね。

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