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D2CスニーカーブランドAllbirdsがついに上場!公開されたS-1を分析・考察してみる。

自己紹介

こんにちは、森です。FABRIC TOKYOというアパレルD2CブランドでCEOを務めており、日々Twitter(@yuichiroM)ではD2Cブランドの情報やスタートアップの起業や経営について発信しています。
また9/2にFABRIC TOKYOでは初のレディースブランドをリリースします。「INCEIN(インセイン)」と言います。オーダーメイドワンピースを中心に女性の社会進出を支援するブランドを目指しています。Instagram(@incein_jp)ぜひフォローお願いします!

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米国D2Cブランドのユニコーン企業Allbirdsがついに上場申請!

先日お伝えしたメガネのD2CブランドWarby Parkerの上場に続き、スニーカー・アパレルのD2CブランドであるAllbirdsが上場します。2015年に創業した企業で6年でのスピード上場。2019年には時価総額$1B(1,000億円)を超えるいわゆるユニコーン企業の仲間入りをしたAllbirds。上場にあたってS-1(目論見書)が提出されたので、
今回のnoteではWarby ParkerのS-1分析に続いて、私見たっぷりにこのD2Cユニコーン企業を解説したいと思います。

なお、Warby Parkerの上場S-1分析はこちらです。

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Allbirdsは2014年にクラウドファンディングのプロジェクトとして誕生。Kickstarterキャンペーンで3日間で$120K(約1300万円)調達し話題を集めました。ちなみにその時の名前はAllbirdsではなく、「Three Over Seven」で、まだ法人化もしていませんでした。

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2015年に法人化。2016年に自社ECで「Wool Runnner」を発売しています。2017年にはサンフランシスコに初のリアル店舗を出店し、2018年には100万個のシューズの販売を完了したと発表しており、急速にブランド規模を成長させました。

サステナブルな製品開発で知られ、エシカルに生産されたメリノウールやユーカリの木の繊維を用いたTreeなどのシリーズを展開。社会や環境に配慮した事業活動を行っている会社に与えられるBコーポレーション(B Corporation)認証を2016年には早々に取得済み。
近年、シューズのほか、2019年にソックスの販売を開始し、2020年にはアパレルラインを立ち上げています。


ブランド / ミッションステートメントについて

Allbirdsは自社のミッションに「We make better things in a better way, through nature(自然を通して、より良いものをより良い方法で作ります。)」としており、人々が自分自身のためだけではなく、地球のためにより良くより意識的に意思決定を行えるように支援することで気候変動を食い止めるビジネスを展開すると宣言しています。

Allbirdsが若い世代(〜Z世代、ミレニアル世代)の消費者に関して3つの基本的信念を定義しているのが面白いのでご紹介します。
第1に、これらの消費者は、気候変動が人類にとって本質的な脅威であることを認識していること、第2に、これらの消費者は、購入の意思決定を地球への影響と結びつけ、企業にさらなる要求をしていること、第3に、この世代の消費者は、見た目の良さ、気分の良さ、そして行動の良さの間で妥協したくないと考えていることです。
この基本的信念に則りブランドを展開することで、消費者を見方に付け、気候変動を食い止めるというミッションに繋げると言います。(一貫性がすごい)

後述しますが、Allbirdsは上場に際して、IPOに加えて「SPO」と表現している点に注目です。SPOとは「Sustainable Public Equity Offering」の略で、上場時に「サステナビリティ(持続可能性)」への配慮を証明する新たなフレームワークであり、ESGを投資判断基準にする投資家へのアピールに繋がるとされています。


Allbirdsの強み

Allbirdsの事業の強みを分析すると、以下です。

強み1 ▷ 自然由来の素材を用いた上で、デザイン性高く快適なシューズという差別化されたプロダクト
強み2 ▷ EC売上比率約90%に代表されるデジタルチャネルでのプレゼンス
強み3 ▷ 急速なグローバル展開を可能にしている販路拡大体制

ちなみに今は売上の大多数がシューズからですので、今後はシューズだけに限りませんが今回はシューズをメインに解説します。
消費者が「見た目の美しさ」や「気分の良さ」そして「地球への優しさ」のいずれかを妥協する必要がない製品を提供することで、従来からあるシューズと比較してもスペックやパフォーマンスは高いという事実を、コンセプトとプロダクト開発力により達成できていることが競争優位性になっているということですね。TIME誌にて「世界で最も快適なシューズ」と評されました。
また、デジタルマーケティング、マスマーケティングにも積極的で、売上対比約22%以上の広告宣伝費をかけて、プロダクトを世に広めようとしています。広告宣伝費けっこうかけて攻めてますね。良い。

Allbirdsは完全D2Cモデルで、販売チャネルをコントロールし、Webサイト、アプリ、Allbirdsの店舗のいずれで買い物をしても、シームレスで没入感のあるブランド体験を通じて高品質なプロダクトを届け、顧客のロイヤルティを高く保つことができているとしています。2020年には、デジタルチャネルが売上の89%を占め、店舗が残りの11%を占めました。

創業からまだ6年と業歴が短いながらも、既にグローバル展開を加速しており、中国、ドイツ、日本、韓国、ニュージーランド、イギリスにローカルチームを組成し店舗も展開しています。このスピード感のある体制づくりも強みの一つです。


市場規模・市場機会

2020年に全世界の消費者がアパレルとシューズに費やす金額は1兆8,000億ドルと推定され(Statista社調べ)、その内訳はアパレルが約1兆5,000億ドル、シューズが約3,660億ドルと予測されています。American Apparel and Footwear Associationによると、2018年、アメリカの平均的な消費者は、アパレルとシューズに1,100ドル以上を費やし、約7足の靴と68着の服を購入した、とのことです。さすがは消費大国アメリカ。


業績について

売上成長は2019→2020年は13%、2020年→2021年は21%増と堅調な成長。コロナ禍でも伸ばしていて勢いを感じます。
マーケティング費用は売上対比で22〜25%を投下しており、アグレッシブに攻めています。昨期は$25M(27億円)の赤字と、まだ利益が出ているフェーズではない中での上場です。まぁここは成長投資フェーズなため、特にアメリカでは問題視はされません。上場後投資家が集まるかどうかは、結局はユニットエコノミクスが成立しているかどうかと成長余地が大きいかが、フォーカスポイントでしょう。(ESG投資銘柄という観点以外だと)

売上
・2019年:$193M
・2020年:$219M
・2021年1月〜6月:$117M

粗利
・2019年:$98M(50.7%)
・2020年:$112M(51.1%)
・2021年1月〜6月:$63M(53.8%)

マーケティング費用
・2019年:$44M(売上対比22%)
・2020年:$55M(売上対比25%)
・2021年1月〜6月:$26M(売上対比22%)

利益
・2019年:▲$14M
・2020年:▲$25M
・2021年1月〜6月:▲$21M

集客 / 販売チャネルについて

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売上の89%がオンライン、11%がリアル店舗で発生。オンラインはWebサイトとアプリをチャネルとして持っています。
コロナ禍で2020年は営業日数が20%減少しているにも関わらず、売上は成長している、と主張しています。

ユニットエコノミクス分析

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Allbirdsのユニットエコノミクスは、前回のWarby Parkerほど具体的な数値情報が公開されていませんが、エコノミクスの健全性はWarby Parker同様にしっかり見て取れます。

まず、CAC(顧客獲得コスト)の定義ですが、Allbirdsは「合計マーケ費用 / 新規顧客数」という式を用いているため、かなり厳密にCACを見ていることがわかります。(Warby Parkerは分母にリピーター顧客数も入れていたためCACを小さく見せていた)

またContribution Profit(= 貢献利益)の定義は、変動費(送料やフルフィルメント費用など)売上総利益から、加盟店手数料を差し引いたものとしています。

Allbirdsは設立以来、毎年、購入後1ヵ月以内にCACを上回る貢献利益を出すことを実現できているとしています。
2020年の平均注文単価がグロスで$124。購入初月にCACを上回る貢献利益を出せているため、顧客がリピート購入すれば利益が出ていくという収益モデルになっています。

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リピート顧客からの売上の割合が年々上がっているため、このまま拡大していけば営業利益はしっかり出せる状況に持っていけそうですね。

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リピート率は継続して今後も改善していくとしています。

2016年から2019年で獲得したアメリカの顧客のうち43%が2回目の購入を2020年末まで行なっていて、一度リピートした顧客のうち50%が再度購入し、2回リピートした顧客の55%は再度購入するデータを公開。リピート顧客の平均購入額は1年目から2年目で比較すると25%増加しています。

さらに、リピート顧客のトップ25%の平均LTVが$446で、ロイヤルカスタマーの比率の多さを強調します。

SKU拡大をするとともに、リピート率が上がっており、2021年のリピート顧客の8割のオーダーに初期オーダーと違った商品が入っていて、26%のオーダーは複数の商品が入っていたとしており、SKU拡大の重要性を説きます。

既存購買顧客は400万人いるため、この内のリフトアップも収益性改善の大事な一手です。


リアル店舗分析

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リアル店舗は、新規顧客の獲得、ブランド認知度の向上、デジタルチャネルへのトラフィックの誘導など、効果的かつ収益性の高い事業の柱として機能しています。

2021年6月30日時点で27店舗の実店舗を通じ、顧客に直接販売しています。既にグローバル展開を加速しており、中国、ドイツ、日本、韓国、ニュージーランド、イギリス、オランダに店舗も展開しています。
店舗とオンラインをどちらとも使うマルチチャネルのリピートユーザーは全体のリピートユーザーの12%を占めていて、シングルチャネルのリピートユーザーよりも1.5倍購入するようです。

好調なため、今後は数百店舗増やす予定。

2019年は1店舗あたり初期12ヶ月間の平均売上が$4.3M(4.7億円)。そんなに大型店舗ではなく、27店舗の合計が84,000スクエアフィートなので1店舗あたり2,268スクエアフィート(87.4坪/店)なので計算すると店舗面積あたりの売上は1平方フィートあたり$1,895。月坪効率は44.8万円です。Warby Parkerよりも店舗効率は大幅に下回りますが、これはAllbirdsのEC売上比率が高いことから予測されることにリピートはECで発生しているから店舗売上としてカウントされないからでしょう。(Warby ParkerのEC比率60%に対して、Allbirdsは89%と高い。)
OMOの購入体験を提供する事業モデルだと、このように店舗の坪効率が決して高くなくても、高いEC化率とのチャネルミックスで収益性の高さが証明できるケースが出てくるのです。

"(引用)小売はよく面積当たり売上(日本では坪効率と言ったりする)でそのブランドの収益力を表現したりしますが、Warby Parkerの店舗面積あたりの売上は、1平方フィートあたり$2,900。比較するとAppleは$5,546、Lululemonは$1,841。

1平方フィート = 0.028坪なので、1坪あたり売上は年間1,106万円。月間92万円。日本では平均月坪効率は30〜40万円/月で、坪60万円行ったら良いブランドと言われていますから、これはとても良い数字です。
(ちなみに2000年代中盤の渋谷109ファッション全盛期のマルキューブランドの月坪効率が125万円と異常値。笑)"

https://note.com/yuichiromori/n/nc0b3b6082bd9#pfnRP

初期投資の回収期間も早く、ボストンのBack-Bay店は8ヶ月でペイバックを達成。さらにボストン店舗を開設した3ヶ月後にはボストン地域からのサイトトラフィックが15%増加、新規顧客が83%増、最終的には売上が77%増を達成。OMOを軸にしたD2Cモデルが機能している様子が見て取れます。

ユニットエコノミクスは総じて健全そうで、コロナが落ち着き次第再度大きくグロースしていきそうですね。


Allbirdsは、IPOではなくてSPO?

今回注目されているのは、世界初のSPO(Sustainable Public Equity Offering)とされているところです。
SPOとは、ESG基準を満たしている企業に投資をする上での新たなフレームワークであり、これまでの財務情報だけではなく、ESG情報の開示にも世界基準ができつつある中での米国での基準値です。
近年では世界中の投資家がESG格付けを投資判断に生かしており、上場企業は財務だけではなく、環境・社会への配慮を経営の中心に据える必要が出てきています。

創業者であるTim BrownさんとJoey Zwillingerさんは以下のようにコメントしています。

"我々は、史上初の「サステナブル・パブリック・エクイティ・オファリング(SPO)」を行うことにわくわくしています。(中略)SPOは、「環境に対する配慮は、圧倒的な経済的成果を出すことと矛盾しない」という我々の信念とコミットメントの表れです。"

未上場の企業が上場時にSPOとして認められるには、「19の基準」を満たさなければなりません。

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画像引用ソース:https://newspicks.com/news/6154204/body/

SPOの基準を満たすかどうかは、この委員会ではなく独立した第三者機関が審査し、レポートを発行。上場時にSPOとして認定されるためには、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する19の基準に関して、上場時にコミットメントすると共に毎年の報告を行う必要があります。


今後の成長戦略やテクノロジー活用

今後も高成長で収益性の高いビジネスを展開するための長期戦略は以下の5つ。

成長戦略(1)新プロダクトの開発
・自然由来でサスティナブルな素材を使った素晴らしい新製品の開発
・新素材のイノベーション。直近ではNatural Fiber Welding社と協力し、100%植物由来のサスティナブルレザーを商品化。
・アパレルラインの拡大。特にアウトドアアパレルを強化。

成長戦略(2)認知度向上と顧客コミュニティの拡大
・現在の米国内認知度10.9%からさらなる拡大。
・デジタルコンバージョンを中心としたダイレクトマーケティングから、主にテレビ広告などのフルファネルマーケティングを追加していく。
・良い立地への店舗出店

成長戦略(3)垂直方向の小売戦略
・店舗出店 米国内に数百店舗まで拡大できる可能性も
・グローバル展開とローカライズサービスの拡充。海外展開を加速していきつつも、ローカルでのブランド体験を向上(オンライン購入・オフラインPICK UPなど)※24%の売上が米国外からきているため今後も拡大
・デジタルのさらなるパーソナライズと成長。データとインサイトを組み合わせてマルチチャネルで顧客のエンゲージメントを高めていく

成長戦略(4)インフラの最適化による収益性向上
・調達、製造、流通、ロジスティックス、フルフィルメントといったサプライチェーンの継続最適化
・テクノロジー活用による効率性の向上。在庫管理やMDの最適化。
・製品開発におけるテクノロジー活用による製品開発リードタイムの短縮。

成長戦略(5)収益率の改善
・スケールメリットによるコスト削減、売上総利益率の向上。
・マーケティング活動の効率化による売上対比のマーケティング費用の低減。増収要因としての新規顧客獲得への依存度の低下。
・販売管理費の改善。規模拡大及びインフラ投資による売上対比の販管費の低減。


バリュエーションについて

最後にAllbirdsの上場時のバリュエーション(時価総額・評価額)について。現時点では株式公開前なので株価はわかりませんが、2020年前半には$16M(約1685億円)の評価額でシリーズEの1億ドル(約105億円)の資金調達を実施しています。Warby Parkerは2020年8月に評価額$3B(約3,200億円)で$120M(約130億円)の未上場ラストラウンドを実施しているため、Allbirdsのバリュエーションは約半分でした。

Allbirdsが直近の成長率27%を維持すれば、今後1年間で年商$3.0M(328億円)に達する可能性があります。
仮に今回$2B(2,189億円)の時価総額で上場したとした場合、PSRとしては6.5倍強で、Nike(PSR5.5倍)やヨガブランドLululemon(PSR8.5倍)の倍率のちょうど中間ぐらいです。成長余地がまだまだ天井が見えていないAllbirdsとしては、さすがにこれ以上は評価されそうなため(SPOも含めてネタも尽きませんし)、おそらく$2B〜$3B(2,189億円〜3,200億円)ぐらいで上場してきそうだなと予想できます。

同じ時期にスイスのスニーカーブランド「on(オン)」も上場

一方で、なんと同じ週にスイスの急成長スニーカー企業「on」もニューヨーク証券取引所に上場を申請。評価額を最大$8B(約8800億円)とされており、2つのスニーカーブランドが同時に投資家の注目を集めています。「on」の経営にはテニスプレイヤーのロジャー・フェデラーも参画しています。

スイスのシューズメーカー「オン」、NY証取に上場 - SWI swissinfo.ch 

「on」の「Form S-1」によると、2018年度から2020年度までの純売上高の年平均成長率は66%で、2020年度は4億2530万スイスフラン(約511億円)を計上しており、Allbirdsの業績も成長率も大きく上回っています。
2021年度上半期(1〜6月)においても、前年同期比84.6%増の3億1550万スイスフラン(約379億円)と超急成長。この規模でもこの成長率は凄すぎますね。。
「on」の強みは、グローバル展開。世界60ヶ国以上で展開している市場のうち、特にドイツや米国、日本、中国、ブラジルで急成長しています。(日本でも履いている人をよく見るようになってきました)
Allbirdsは「on」の時価総額を超えられるのか?かなり難しそうですが、注目したいと思います。

おわりに

さて、本日は米国D2Cスニーカー&アパレルブランドのユニコーンAllbirdsが上場に際してS-1を公開したため、中身をざっくり分析してみました。Warby Parkerとの比較ができたので面白かったですね。Allbirdsも素晴らしいブランドなため、ぜひIPO後も成功していってほしいと思っています。

ユニットエコノミクスはWarby ParkerもAllbirdsも健全性を保てているため、Casperのようにはならないはず。


Q&A

おまけなのですが、Allbirdsの上場に関する質問を募集します!

今回のAllbirdsの上場に関しての質問などを募集します。
頂いた質問は、毎週発行のnote「進撃のD2Cマガジン」内で回答します。
森に答えて欲しい質問がある方は、

https://yuichirom.pageful.app/request

まで、どしどしご連絡ください。もちろんAllbirds以外でも、D2Cやスタートアップに関する質問でも大丈夫です。マガジンの登録は月額1,000円かかりますが、毎週濃い情報をお届けしていきますので、コスパは高く感じていただけると思っています。よろしければぜひご登録ください。

※全ての質問に必ずしも答えられるわけではありませんので事前にご了承ください。
※ご質問を頂いた週のメルマガではなく、翌週以降のnoteでお答えする場合も多くございます。

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