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Warby Parkerがついに上場!公開されたS-1を分析・考察してみた。

自己紹介

こんにちは、森です。FABRIC TOKYOというアパレルD2CブランドでCEOを務めており、日々Twitter(@yuichiroM)ではD2Cブランドの情報やスタートアップの起業や経営について発信しています。
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米国D2Cブランドのユニコーン企業Warby Parkerがついに上場申請

さぁ、いよいよ、Warby Parkerが上場します。2010年に創業した企業ですので、実に11年での上場となりますが、D2Cブランドのビジネスモデルを世に知らしめた企業であり、業態初のユニコーン企業でもあるWarby Parker社。上場にあたってS-1(目論見書)が提出されたので、これまで未上場でベールに包まれたWarby Parkerの事業分析を行うことができるようになりました。
今回のnoteではこのS-1を分析しつつ、私見たっぷりにこのD2Cユニコーン企業をご紹介したいと思います。

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ブランド / ミッションステートメントについて

Warby Parkerの創業は2010年。ビジネススクールの超名門ペンシルバニア大学Warton校の学生4名で立ち上げました。
創業者の一人が東南アジアを旅行中にメガネをなくしてしまい、アメリカに戻って購入する際に新しいiPhoneを買うよりも高額だったという自分が顧客だったときのペインが原体験にありました。東南アジアでは安価のメガネがあったにも関わらず米国では高額。しかもECサイトで購入できない。このような顧客課題を解決しようと立ち上げたのがWarby Parkerでした。最初はオンラインストアのみで販売開始をし、商品はすべて$95で送料・返品無料でした。

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「知性ある人が使うアイウェアブランド」というブランド認知を獲得するために、彼らが行ったのは「図書館」をテーマにしたブランディングです。まず、Warby Parkerというブランド名の由来は、アメリカの小説家ジャック・ケルアックの未刊作品の登場人物からとりました。リアル店舗には、図書館をイメージした内装に書籍やハシゴを並べ、実際にセンスの良い書籍や自社出版の絵本つくり販売しています。ニューヨーク公共図書館でプロモーションを仕掛ける取り組みも行いました。

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顧客と自社だけではなく、顧客と社会を繋げるソーシャルグッドな取り組みとして「Buy a pair, Give a pair」というキャンペーンも創業初期から行っています。Warby Parkerで売れた本数だけ、難民に寄付するという取り組みです。こうすることで顧客にとってWarby Parkerでメガネを購入することで社会的に良い活動に繋がるというインセンティブがあります。実際にこれまでに800万本の寄付が完了しています。

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このような取り組みを行うことにより、Warby Parkerは2015年に、Fast Companyというアメリカのメディアが発表している「世界で最もイノベーティブな50社(THE WORLD’S 50 MOST INNOVATIVE COMPANIES)」でAppleやGoogleを抑えて、1位の評価を得ました。また、ブランドのNPS(ネット・プロモータースコア)は現在83と、常時80を超える高いレートを記録しています。


Warby Parkerの強み

Warby Parkerの強みは端的に3つです。
1. スタイリッシュな眼鏡をリーズナブルな価格で販売($95〜)
2. 常に高い顧客ロイヤルティ
3. Home-Try-Onサービスやバーチャル試着などのテクノロジー

1つめ。複雑だった眼鏡製造のサプライチェーンをバーティカルに統合し、中間流通を省き、かつデザインチームをインハウス化することで良い商品をリーズナブルな価格で提供することができているのがベースの強みです。元々米国は眼鏡が高額で、検眼なども日本よりも敷居が高かったところをライト層向けに提供しました。結果、合理的なミレニアル世代に支持され売上を伸ばしました。

2つめ。また、上述もした通りNPSが創業初期から80を保てており、常に高い顧客ロイヤルティを獲得しています。店舗やECサイトの顧客対応に定評があり、カスタマーサポートの満足度が非常に高いです。女性顧客が車を盗まれてショックを受けているのを見て、その顧客がよく通っている地元のバーの$20分のギフト券をプレゼントし励ましたという逸話があり、目の前の顧客に対して個々に向き合うカスタマーサポートの姿は、往年のZappos社を思い出させます。

3つめ。Home-Try-Onサービスやバーチャル試着などのテクノロジー。自宅に5つの眼鏡を試せるHome-Try-Onという無料トライアルサービスにより、眼鏡のEC通販市場にイノベーションを与えました。Home-Try-onを利用すれば眼鏡を5本まで選んで試着することができ、しかも送料は無料。気に入ったフレームだけ選んで送り返すだけです。送られてくる箱は、お客様の期待を高めるデザインが施されていて、「どれが一番似合う? #warbyhometryon」といったハッシュタグを付けた投稿がTwitterやInstagramにポストされ、UGCを生みました。また、近年ではスマホアプリを活用したバーチャル試着や自宅でできるオンライン検眼の機能を開発するなど、常に眼鏡のEC化を上げようとするイノベーションにチャレンジしています。

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成長戦略について(市場規模と戦略)

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Warby Parkerの2020年度の売上は$393.7M(約430億円)でした。売上成長率はYoYで6%で、前期の成長率36%からは大幅に下がっていますが、新型コロナウィルスによるロックダウンの影響であると思われます。しかしながら2021年前半の成長率はYoYで53%と大幅に増加しています。この規模で驚異的な成長になっていますが、アメリカのロックダウン緩和による消費者の購買意欲向上などがマクロの要因としてはありそうです。

Vision Council社によると、アメリカにおける2020年のアイウェア市場は$35Bでグローバルだと$140B。アメリカでは人工の76%の約2億人がなんらかの目をサポートするものを使っているということです。これにはサングラスやコンタクトレンズも含まれるでしょう。
眼鏡をかける人は概ね2〜2.5年に一度新しい眼鏡を購入するという傾向がわかっており、またアメリカでは4,200万人がコンタクトレンズを常用しているようです。そのためWarby Parkerもサングラスはもちろん、コンタクトレンズの販売も行っています。

集客 / 販売チャネルについて

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ビフォアコロナとコロナ禍ではEC化率が大幅に違ってきており、ビフォアコロナの2019年はEC化率が35%でリアル店舗が65%だったところ、コロナ禍の2020年では逆転しており、EC60%、リアル店舗40%でした。2021年は前半まではロックダウン下だったので、間の半々くらいに落ち着くかもしれませんね。

現在のリアル店舗の数は145店舗。1店舗当たり売上2〜2.5億円ということで、この規模の店舗は今後も大幅に増やしていく方針があるとしています。Warby Parkerの年間アクティブ顧客が200万人超ですから、まだまだ成長の余地はある、としていて、まずはリアル店舗を年内に更に追加で30〜35店舗を出店し、オフラインチャネルを強化していくようです。なにせ眼鏡業界のEC化率はWarby Parker創業時点では1%以下、現状7%まで伸長。まだまだオフラインは重要なチャネルだからです。今後米国内で最大900店舗を出せる余地はあるとしていて、規模に驚きです。笑
とはいえWebとアプリの存在は重要で、直近の購買顧客の70%以上が購入前にWebまたはアプリでなんらかのアクションを起こしたとしています。


ユニットエコノミクス分析

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Warby Parkerの今回のS-1では、受注毎ではなく、顧客あたりのユニットエコノミクスが公開されています。D2Cビジネスにおいて重要な指標の一つである「貢献利益」ですが、Warby Parkerの場合、アクティブ顧客1人当たり年間約$50弱の貢献利益であると導かれます。

一般に貢献利益とは、売上高から、製品やサービスにかかった変動費を差し引いた利益を指します。 この利益を使って固定費をカバーし、収益を上げることになります。

しかしWarby Parkerの場合、売上原価には
・商品原価
・フルフィルメント(梱包等)
・眼科医の人件費
・店舗家賃
・店舗減価償却
このあたりがすべて入っています。これは眼鏡という商材の粗利の高さが収益性の高さを物語っていて、眼科医の人件費や店舗家賃、店舗の減価償却を入れても粗利がまだ60%あるという高収益性には、この商材のメリット・優位性を強く感じざるを得ません。

そしてWarby Parkerの場合はOMOビジネスモデルの特長もあって、加えてStore salaries(店舗人件費)、Customer Experience salaries(カスタマーサポート人件費?)、Store operating expenses(店舗経費)もサービス提供にかかった費用として変動費に入れています。

ということでWarby Parkerの貢献利益は$50弱という結果になっていますが、割とコストを盛り盛りに入れても2019年は26%、2020年は21%の貢献利益が残せているのには驚きです。

主な要因の内訳は以下の通りかなと思っています。

・顧客1人当たりの平均売上は、2018年の$188から2020年の$218へと順調に上昇している。
・COGS(売上原価)は40%と比較的一定の数字を記録しているので、粗利率(売上総利益率)は60%。これに「販売・サービスコスト」を含める場合、粗利は40%となる。
・貢献利益は、主にCACの急増により、昨年は45ドルに低下している。(2019年は25%の54ドル。2020年は21%の45ドルへ低下)

Warby ParkerはLTVをS-1で公開してはいませんが、数字を見ての予測はかんたんです。まず、顧客平均単価が$184と公開されていますので、注文あたりの粗利益は60%の$110です。(なお、店舗コストを配分した場合は$73)
Warby Parkerのリピート率は48ヶ月で驚異の98%!(24ヶ月でリピート率は約50%)ということで、48ヶ月経つと平均して顧客当たり2回は注文すると考えられ、LTVを約$220と見積もることができます。

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若干S-1の表現からだけだとわからないのが、これはUU(ユニークユーザー)ベースの話じゃなくて、延べなのか?というところ。つまりリピートUU率×回数。100%超もあり得る数字をここに提示しているのか?ということです。ここはもう少し情報が出てこないとわからないですね。

(2021/8/30加筆)こちら「customer cohort sales order value」となっているため、リピート率ではなくて「売上継続率」という概念でした。

一人当たり累計リピート売上 ÷ 新規客単価

ってことなのかと気づきましたので加筆しました。初年度$100、その後2年で$50追加、その後2年で$98追加といった形の指標です。眼鏡という商材の特性上、そこまでリピート率は高く無さそうです。

CAC

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Twitter等で物議を醸しているのがこのCAC(顧客獲得コスト。よくCPAとも表現されるアレです)。定義の仕方によって変わってくる指標なのですが、今回Warby Parker社は、一定の期間の総獲得コスト(メディア費用+Home-Try-onプログラム費用)を同期間のアクティブ顧客数で割ったものを公開しています。つまりこのCACには新規顧客の獲得だけではなく、既存顧客の再獲得コストの両方のコストが含まれていて、一般的に新規獲得のことを表現するCACとは別の表現だと指摘されているわけです。
このためLTV/CACを算出することは今回のS-1からは難しいのですが、1購入あたりに生み出される粗利は、CACよりも1.5〜2.5倍になっていると言えます。

2019年$27だったCACが、2020年に$40に増加しています。この増加は2019年まではリアル店舗での認知獲得がCACにミックスされていたところが、2020年のコロナ禍においてはECサイト集客を増やすために「メディア費用への意図的な投資」を行ったからだとしています。結果的にEC比率は2019年から2020年に35%→60%となっているので、ここは一定合理的であると言えます。
しかし2021年はD2Cブランドによるデジタル広告投下が昨年以上に進んでいます。ここの数字の改善は容易ではないので、どう攻略してくるか続報を待ちたいと思います。

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なお、アクティブ顧客の比率は順調にリピーター比率が上昇中です。売上が伸びている一つの要因は、顧客のリピートがしっかり付いてきていることだというのがここからわかります。

リアル店舗分析

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データ
・145店舗(米国内142店舗、カナダ3店舗)
・1店舗当たり売上2〜2.5億円
・アクティブ顧客が200万人超
・所属眼科医約100名

小売はよく面積当たり売上(日本では坪効率と言ったりする)でそのブランドの収益力を表現したりしますが、Warby Parkerの店舗面積あたりの売上は、1平方フィートあたり$2,900。比較するとAppleは$5,546、Lululemonは$1,841。

1平方フィート = 0.028坪なので、1坪あたり売上は年間1,106万円。月間92万円。日本では平均月坪効率は30〜40万円/月で、坪60万円行ったら良いブランドと言われていますから、これはとても良い数字です。
(ちなみに2000年代中盤の渋谷109ファッション全盛期のマルキューブランドの月坪効率が125万円と異常値。笑)

店舗出店の費用の回収期間は約20ヶ月で、これもブランディング費用にかけている傾向にあるブランドとしては効率は良い方だと言えます。日本だと回収期間は平均2〜3年です。

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Warby Parkerの面白い指標としてOMOらしいなぁと思ったのが、新しい地域に店舗をオープンした場合、その地域からの初年度の売上がECのみと比較して250%以上増加するという数字です。オープン後1年間は、市場がオンライン販売と店舗販売のバランスをとるため、ECの売上高の伸びが鈍化しますが、2年目に入るとECの成長率は店舗を持たないエリアのECのみで買えるエリアと同等レベルまで正常化します。つまり、リアル店舗オープン初年度はそのエリアでのEC売上は減少(3〜10%減少)しますが、2年目でEC売上の成長率は30%以上伸びるというのが、ダラスやアトランタのエリアで実績として検証済みということです。店舗を出店することで認知や顧客エンゲージメントが上がり、顧客数が純増するという結果でしょう。

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テクノロジーと今後の成長戦略

Warby Parkerが発表している成長3本の矢をまとめると以下です。

1. リアル店舗の積極出店(理論上900店舗以上の出店が米国内では可能)
2. 新プロダクトへの投資(コンタクトレンズ、視覚保険等)
3. 海外展開(売上の98%が未だ米国)

Warby Parkerはテクノロジー活用を強化しており、ARによる眼鏡のサイズ調整や試着して似合うか選べる機能の強化を行ってきました。また今年になって、遠隔視力検査「Virtual Vision Test」をリリース。自宅にいながら視力検査を行い処方箋を更新できるというイノベーションに挑戦しています。

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特許申請もユーティリティ特許28件、デザイン特許57件が承認されています。

また、Scout by Warby Parkerというコンタクトレンズを2019年にリリースしています。Centraform(セントラフォーム)技術を採用しており、目に装着した際に装着感を感じづらいナチュラルで滑らかなエッジデザインを実現しています。また衛生面に配慮したパッケージデザインを採用しており、従来に比べ80%の環境負荷削減を実現しています。

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このような新たなイノベーションにチャレンジしつつ、着実にリアル店舗を増やし(2021年は30〜35店舗を追加出店する予定)、今後米国内でmax900店舗を出店できるとしています。

これは、眼鏡業界のEC化率はWarby Parker創業時点では1%以下、現状7%まで伸長したものの、まだまだオフラインは重要なチャネルと認識されているからです。


バリュエーションについて

最後にWarby Parkerの上場時のバリュエーション(時価総額・評価額)について。現時点では株式公開前なので株価はわかりませんが、2020年8月には評価額$3B(約3,200億円)で$120M(約130億円)の未上場ラストラウンドを実施しています。
上場している競合企業にはEssilorLuxotticaやVSPがあります。EssilorLuxotticaはLensCrafters、Ray-Ban、EyeBuyDirectなど複数のアイウェアブランドを傘下に持つ巨大企業で、売上$16B(約1.74兆円)に対して時価総額が$714B(約7.7兆円)で、売上マルチプル(PSR)が5.7倍です。
Warby Parkerの直近1年の売上は$487MなためPSR5.7倍ですと$2.7Bというのが正攻法ですが、まだ売上もEssilorLuxotticaに比べて1/30であるWarby Parkerなのでまだまだ伸びる成長可能性は評価されると思われるため、おそらく最低でも$4.0B(約4,360億円)は超えてくるのではないでしょうか?

別の見方としては、マルチプルの参照企業を既に上場済みのD2Cブランドと比較するという方法です。

2020年2月に上場したマットレスD2CブランドのCasperは売上マルチプル0.5倍と低調ですが、ビューティー・スキンケアブランドのHONESTY(The Honest Company)は2.7倍(ちょっと一時期より評価額落ちましたね)、オーツミルクのOatly、医療アパレルFIGSなどは20倍など、D2Cブランドとはいえどもマルチプルは様々です。
ユニットエコノミクスの健全性が証明できていないCasper程のマルチプル評価になるとは到底思えないため、おそらくここはHONESTよりも上、Oatly・FIGSよりは下の大体7〜10倍くらいで落ち着いてくるのではないかと個人的には見ています。Oatlyは2020年に前年比+106%の売上成長、FIGSは+138%で成長しているためマルチプル評価が高めですが、Warby Parkerの売上成長率は鈍化しているため、Oatly・FIGSまでは評価されない、と見ています。

おわりに

さて、本日は米国D2CブランドのユニコーンWarby Parkerが上場に際してS-1を公開したため、中身をざっくり分析してみました。Warby Parkerの上場は日本のD2Cブランドにも少なからず影響してくると思うので、ぜひ成功してほしいと思っています。


Q&A募集

!! Warby Parkerの上場に関する質問募集 !!

今回のWarby Parkerの上場に関しての質問などを募集します。
頂いた質問は、毎週発行のnote「進撃のD2Cマガジン」内で回答します。
森に答えて欲しい質問がある方は、

まで、どしどしご連絡ください。もちろんWarby Parker以外でも、D2Cやスタートアップに関する質問でも大丈夫です。

※全ての質問に必ずしも答えられるわけではありませんので事前にご了承ください。
※ご質問を頂いた週のメルマガではなく、翌週以降のnoteでお答えする場合も多くございます。


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