阿部結

阿部結

阿部結

阿部結

最近の記事

0416

 『おじいちゃんのくしゃみ』4刷りの知らせがあった。  物価の高騰かさむ生活費保険料の値上がりその他もろもろ、要領の悪い頭でやりくりを悩む、そんな中での重版の知らせに生活についてのわずかな安堵、そのあとに静かなよろこびが込み上げる。未来の収入が確定し、衝動的に何かを買いたくなってパソコンで靴や洋服などを雑に眺める、それに疲れてぼんやりし始めたところで手を止める。  父に電話をかける。父の母、祖母が電話でいつもそうだったように、父もまた必ずにわたしの体調を気遣う言葉をかける、こ

    • 0413

       誰に頼まれているわけでもないけど自分が話し相手になるのだというほんの少しの義務感と、向こうの状況を知って眠る前に漠然と無限に膨れ上がる不安が少しでも大人しくしていてくれるよう、安心したい、ために両親に電話をする。自分がそうであるように、父も母もまた、娘に対してかける電話はそうだったのかもしれないなとシャワーを浴びながら思う。  「本屋さんで『おじいちゃんのくしゃみ』をみると結のおかげでじいちゃんが生きているっている感じがするよ」と父が言う。その声色から表情や感情を想像しほん

      • +3

        マルセル

        • 不透明水彩

          おかあさんのうみ

           福音館書店の月刊誌「母の友」2024年5月号で「おかあさんとうみ」という短編を書いた。お母さんと一緒に海へ出かけたれいちゃんが経験する不思議なひとときのお話だ。  物語のなかで、れいちゃんは自分と同じ年ほどの「しーこ」と名乗る、子どもの頃の母親と出会う。れいちゃんは「しーこちゃん」と一緒に、海辺で探し物をする。「しーこちゃん」は、自分は海の魔法使いなのだと言い、れいちゃんの探し物を見つけ出してくれる。その過程の中で「しーこちゃん」があるアクシデントに見舞われるのだが、今度は

          おかあさんのうみ

          音が聞こえた

           和室が自分の部屋だった中学生の頃、家にはマルチーズがいた、名前はレオ。  キィッと部屋のとびらが開いてカッカッカッカッカッと畳をこする爪の音が聞こえると、どんな時でも眠っていてもレオが部屋に勝手に入ってきたな、ということがわかった。  今日、夢の中であの音が聞こえた。  寝ぼけたまま、レオを抱き上げベッドに乗せてからだをなでた。レオは体毛が絡まりあっていて、触り心地は決してよいものではなかった、でもおなかがほよほよしていて温かくってそれが好きだった。  姿は見えなかったけど

          音が聞こえた

          しおひがり

          おやすみのひです。 おかあさんが「しおひがりにいこう」と いいました。 うみに いって すなはまで かいを とるんだそうです。 ばけつと スコップを もって おねえちゃんと おかあさんと わたしと 3にんで  おかあさんの くるまにのって うみへ いきました。 うみに ついてから  すなはまが ぬれて べちゃべちゃになっているところまで  あるいていきました。 おかあさんが スコップで すなはまを ほると かいが でてきました。 「やってごらん」 まねして すなはまを ほった

          しおひがり

          さくら色のアイシャドウ

           細かいラメが入ったさくら色のアイシャドウを中指のはらでぽんぽんとまぶたにおいていく。アイシャドウ自体はやわらかい色に見えるけれど肌にのせると案外しっかりと色づく。春の訪れの気配とともに自分も春をまとったような気持ちがしてうれしくなり鏡に向かってぱちぱちとまばたきをしてみる。  このアイシャドウはもう十数年ほど前にバイトをしていたスナックの姐さんもらったものだ。その時はあまり似合わないような気がして使うことができなかったけれど、それなりに年を取った今試してみたらさくら色が黄色

          さくら色のアイシャドウ

          夢のはなし

           自分にとって眠るという行為は夢の世界に向かうということと同じ意味を持つ。 たいていは、後味の悪い夢を見る。だから、毎晩ベッドに横になり目を閉じて入眠することに少し勇気がいる。 今日は嗚咽し泣きながら目を覚ました。 ー夢のはなしー じいちゃんが死んで、ばあちゃんがそれまで2人で住んでいた小さな長屋を取壊し、その10倍以上もあるであろう3階建ての宿泊施設のような建物を近くに立て、そこで暮らしを始めた。わたしたち家族はそこに遊びに行った。(ここまで書いてわかった。この奇妙な建

          夢のはなし

          プール

           通っていた小学校には校地内にプールがなく、その代わりに校舎から歩いて15分くらいのところに旧学校跡地のプールがあった。夏になると、体育の授業ではみな水泳バッグをかかえ、赤白帽をかぶって玄関を出て2列にならび、先生を先頭にぞろぞろ歩いてプールに向かったものだった。  ふと何気なく自分の小学校を検索してみたら、2016年に校地内にプールが作られたということを知る。  落成式の写真、そこにうつるこどもたちは声が聞こえてきそうなほどよろこびであふれているのがわかって泣く。  そうか

          ケイレブ ランドリー ジョーンズがすきです。

          ケイレブ ランドリー ジョーンズがすきです。

          てっち

          おおきくなったら  イチローか ルイージになる、といっていた てっちですが イチローか ルイージには なれましたでしょうか どちらかに なれていたらいいなと おもいながら てっちの おおきなくろめを おもいだしています 

          もくようび

          すいようびのつぎは もくようびなのだと  はじめてしったときのことを おぼえています。 みんなで おおきないたにかいた エルマーとりゅうのえが   フェンスに かざられている わたしのほいくしょ、 それが みぎてにみえる せまい ちいさいどうろを  おとうさんのくるまで はしっているときでした。 おとうさんの いうことによると すいようびのつぎは もくようびで それは どうやら くりかえすらしいのです。 そのことを はじめて りかいしたわたしは  あたまのなかに せんこうが 

          もくようび

          ばあちゃんが 紅さした

          ばあちゃんちにいったら ばあちゃんのようすがへんだった 「ばあちゃん なんか くちびるまっかだよ」 「ほんとだ なにしたの」 ばあちゃんは いった 「あんだだぢくっから 紅さしてみだの」 こえ ふるわして  こたつの うえの まずいおやつに め おとして わらうこと ひとつ じょうずにできない 志う子さん どんなきもちで かがみのまえに すわり 砥粉色した ほしがきみたいな そのかおを みつめ  くちびるとも わからないような うすいうすい その ひふに 紅をさしたのでしょう

          ばあちゃんが 紅さした

          まるたのぶらんこ

          にわに おいてある まるたのぶらんこ おとうさんがつくってくれた まるたのぶらんこ おねえちゃんと まいちゃんと さっちと あたし しかくい バニラアイスもって ぎちぎちの ぎゅうぎゅうですわる きー きー きー きー ぶらんこ ゆれる あたしは みんなが たべおわるのをみてから アイスをたべようときめていた だって さきに たべおわっちゃったら  ほかのひとが たべてるの みて うらやましくなるでしょう きー きー きー きー ぶらんこ ゆれる みんなのアイスは ぜ

          まるたのぶらんこ

          くみちゃんは15才

          くみちゃんは15才 くみちゃんは くみちゃんのお母さんよりも からだがおおきい わたしは125センチ くみちゃんは165センチ くみちゃんは エリのすそにふりふりがついたシャツのうえに  ピンクのトレーナをきて  それを 赤いジャージのズボンのなかに ぜんぶしまいこんでいる 「ゆいちゃん なかよくしてやってね」くみちゃんのお母さんがいう くみちゃんは なんにもいわない なかよくするといったら おさんぽだ と わたしはおもった わたしは くみちゃんのグローブみたいなてをもって 

          くみちゃんは15才