「もしも」の先を求めたとしても:ドラマ『知ってるワイフ』
夏の様な暑さの続いた先週までとは一転、冬の寒さが続く今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
血行不良が酷い私は(冷え性とは言いたくない。女子ぶりたくない女子という類型に当てはまるわたし。)、この寒さで膝が完全に悲鳴を上げています。
春はあけぼの、膝痛し。
よって、暖房を利かせた部屋で、布団に潜りながらこの投稿をしたためております。
冬ドラマの総括なのだから、ぴったりな気候だ!ぞ!
こたつが欲しいんだ!ぞ!
さて、遅ればせながらの2021冬ドラマの振り返り。
3日目の今日は、フジテレビ木曜22時放送の『知ってるワイフ』。
もしも「あの頃に戻って人生をやり直したい!」という願いがかなったら?
「結婚生活、こんなはずじゃなかった!あの頃に戻って人生をやり直したい!」と日々嘆く恐妻家の主人公が、ある日突然過去にタイムスリップして、妻を入れ替えてしまうところから始まる物語。結婚生活5年目、夫も妻も相手への気遣いができなくなっていく頃、唯一の共通の思いは「なんでこの人と結婚してしまったのだろう」。そんな誰もが抱える結婚生活の不満と後悔をリアルかつコミカルに描きながら、「あの日、あの時に戻りたい」という悲痛な願いがかなってしまい、奇跡の人生を手に入れた主人公を通して、“自分にとって大切な人とはどんな人なのか?”“誰かと人生を生きていくとはどういうことなのか?”そんな夫婦の普遍的ともいえるテーマを追求していきます。SNSなどコミュニケーションツールが発達し誰とでもつながれる今の時代だからこそ、身近な人へ大切な思いを伝えたくなるハートフルストーリーです。
まず、本作に関しては、主演の大倉忠義、そしてヒロインの広瀬アリスの好演なくして語ることは出来ないでしょう。
幼い子ども2人を育てる夫婦役なのだけれど、大倉くんがぜんっぜん使えない男で、そんな彼へのイラつきを抑えられないアリスちゃんは、更年期なのかと思う程のヒステリー三昧。
家事育児には全くのノータッチのくせに、夜な夜なゲームを続けることには異様な執着と熱意を見せる夫の元春(大倉)。
別にね、奥さんも、ゲームをやること、その行為自体を責めているわけではないのよ。
他のことを何もやらないくせに、呑気にゲームやってんじゃねえぞ、ってことで。
そんなことにも気付かずに、「良妻なら幸福になり、悪妻なら哲学者になれる」というソクラテスの言葉を心で唱えている愚夫。
完全に、自分のクズっぷりに酔っていますね、こりゃあ。
そんな中で、一人奮闘する妻の澪(アリス)。
クズな夫に対する態度に関しては、演出が過剰で、蟹の脚を投げつける初回は衝撃的でもありました(原作が韓国ドラマだから致し方ない)。
私の母は、初回の澪のガチギレっぷりにビビってしまい、その後なかなか2話目以降を見られずにいました(暫く経ってから続きを見始めた)。
にしても、ワンオペ育児のリアルを映した初回からして、大倉くんのクズの似合いっぷりたら、もう!
自分の家庭のことでありながら、いつだって素っ頓狂で、他人事で、すっ呆けた顔つきが、覇気のない瞳が、ああ憎たらしい!
彼はね、自分から物語を牽引して行く漢気ある役よりも、意志薄弱で、優柔不断で、周囲に翻弄され、流されに流されまくる役がぴたっとはまる。
映画『窮鼠はチーズの夢を見る』のね、あのクズっぷりも最高でした。
BL映画でしょ、と侮るなかれ。腐女子が好きそうなやつでしょ、と敬遠するなかれ。
曖昧さを抱えた一人の人間の、図らずも本気になってしまった恋の行方が、切なくもどかしく描かれる傑作でございます。
アリスについても、この間まで「広瀬すずの姉」という肩書が先行してしまっていたけれど、最近になってようやく、彼女自身が名実共に売れて来たなあと。
私はね、彼女がこうして地上波の連ドラゴールデンでヒロインを務めたという事実がね、涙ちょちょ切れる程に嬉しいのですよ(何目線だ)。
妹のすずちゃんはさ、もちろん、主演を張る女優として今後も活躍して行くだろうし、その透明感とセンスの良さはずば抜けている。
でも、お姉ちゃんは、主役も脇役もどっちも行けるんだぜ!という強みがある。目鼻立ちがはっきりとし過ぎているが故に、バンバン主演を飾るタイプではないだろうけど、息の長い女優さんになるだろうなあ(そして、飾らない、あけすけな態度も好感度高し)。
2人は、大倉くんが大学生、アリスが高校生の時に、彼女がバスで忘れた携帯を届けたところから関係を結んで行く、という運命的な出逢いを果たしており、互いに深く愛し合って結婚に至ったはず。
結婚以前の、学生時代の2人の思い出の回想シーンは、どれも爽やかで、若々しくて。溢れる幸福感、心からの笑顔が眩い。世界は、未来は明るいと信じ切っていた、在りし日の2人(故に、この回想シーンが胸をきゅいーーーっと締め付けることになる)。
だけど、今はそうじゃない。
幸せになれる、幸せにする、幸せになろうと誓って結婚したはずなのに、いつの間にか、一緒にいることの目的を見失い、いがみ合うだけの関係に変わっている。どこの家庭でも少なからず見られる変容であるだろうけど、もう、何のために結婚したんだっけ、何でこいつと一緒になったんだよ、状態。
そんな元春は、ある日、過去へのタイムスリップの切符を手にし、過去を変えることで現在を変えてしまう。澪との結婚という選択をなかったことにし、大学の後輩・沙也佳との結婚生活を送る現在を手にする。
ここで何より酷いのは、2人の子どもを手放すことにも躊躇を厭わなかった点。
どんなに短絡的思考の持ち主であっても、妻を変えたら子どもも生まれないことに気付くはずなのに、子どものことには1mmも想いを馳せずに、潔く過去を変えてしまうクズっぷり。やっぱり大倉くんはクズ(役)なのです。
モンスター妻・澪との縁は切れたと胸を撫で下ろす元春だが、職場には澪の姿が。銀行員なのでね、他支店だか本社かから異動して来るの。
ここが、星の数ほどもあるタイムスリップものの中で特殊なポイントで、「いくら人生を変えても、繋がりのある人間達は変わらない。必ず引き合い、目の前に現れる」とのこと。従って、それぞれの背景や関係性は微妙に形を変えつつ、人間の構成としてはあまり変わっていない。
タイムスリップを経てからの現代では、パート主婦ではなく、独身OLとして活き活きと働く澪。気が利いて、頭の回転が速くて、誰からも好かれて、親孝行で、自立心が強くて。そんな、今まで知らなかった澪の一面を知って行く元春(大抵の場合、男がいない方が女は生き生きする)。
そして、それは、自分が奪ってしまった、澪の本来の姿のではないか、と思い至る。
そう、そうなの。
結婚するまでの澪は、今目の前にいる澪と同じく、明るく健康的で、素直で快活で、いつだって笑顔を湛えていたはず。
それを奪ってしまったのは、彼女の幸せと可能性を潰してしまったのは、自分だった。
あの頃の澪は、いなくなったわけじゃない。自分が、彼女の良いところを埋もれさせてしまっている。
「俺が澪をモンスターにしてしまった」事実をようやっと把握する、不甲斐ない夫(違う関係性や角度から眺めることは、これだから重要なのである)。
性格は後天的に形成されるものであり、誰といるか、で、人生は、人格は大きく変わるよなあ、と。「性格は顔に、生活は身体に出る」らしい。
だからね、いくら女性の社会進出が進もうが、自立した女性が増えようが、どんな男と一緒になるかで人生が変わってしまうわけ!!哀しいことに。
だからね、私は簡単に相手を選べないわけ!!
だからね、私は未だに独身彼氏なしの28歳なわけ!!
と、言い訳してみる。
話を戻しましょう。
つまり、夫婦の不和は、日々の生活に忙殺された結果、本来の自分や相手を見失っているだけなのかもしれず。
一生愛し合いたいから結婚するのに、夫婦になってしまったが故に、それは一番困難な課題となってしまう、というパラドックスですよね(もう、結婚ってなんなんだ)。
モンスター妻から逃れようと、過去へタイムスリップして人生をやり直した元春だけれど、何だかんだで元妻・澪を放っておけない。
もちろん、澪自身は元春とのもう一つの人生を知らないけれど、彼の中には、彼女とわかち合った時間が、ある。
そして、それはかけがえのない時間であったことを、その人生を手放して初めて、知って行く。
良いものも悪いものも、思い出があるということは、それだけで、こんなにも愛おしい。
情熱的な恋に身を捧げた二人でも、運命的な出逢いから結ばれた二人でも、何年も毎日の生活を共にする様になれば、大切なことこそ取りこぼして行ってしまう。
そんな中で、妻が求めていたのは、ただ、今の自分を見て欲しい、ということで。
醜い部分も弱いところも、ありのままの自分を見つめて欲しい、理解して欲しい、ということで。
目を向け、耳を傾け、知ろうと努力すること、それには確かに労力が要る。だけれど、それを、相手に寄り添うことを疎かにしてしまうと、人の心には距離が生まれてしまう。溝が出来てしまう。
そしてそれは、結婚という安定と安心による「きっと解ってくれているだろう」という甘えによって生じるものでもある。
でも、私達は、言葉にすることを、気持ちを受け止めることを、諦めてはいけない。
別に、何かしてくれなくても良いのよ。
ただ、私が今、何を気にしているのか、何に悩んでいるのか、どんなことに喜びを感じて、どんな明日を夢見ているのか、それを、ただ、知ってくれていたら、わかってくれていたら、それだけで幸せなはずで。
澪は、夫に対する怒りを爆発させてばかりだけれど、怒りという感情も、全ては淋しさから生まれるものであることを、どうか心に留めておきたい(孤独とは、共有出来ないから孤独なんだなあ)。
そんなことを教えてくれた本作だが、一つ残念だったのは、「本当に元春は変わったのか?」という疑問を残した点。
確かに、タイムスリップを経て、こうした学びを得たには得たけれど、最後まで無いものねだりが続き、「どうせ自分なんて」という被害感情や、偽善めいた自尊心の欠如が消えなかった(「その痛み、お前のこの人生で受け止めろ」よ!)。
人生を変えても、環境を変えても、根本のところで、その学びを腑に落として納得が出来ていなければ、結局は変わっていないことと同じ。本気で人生を変えたいのなら、自分の手で大切な人を幸せにしたいのなら、醜くても無様でも格好悪くても、腕が引きちぎれる程にその手を伸ばして欲しい(その切実さが元春には足りなかった)。
あらゆる物事を環境や他人のせいにしてしまいがち、たとえそのことに気付いたとしても逃げてしまいがちなのが人間だが、そんな大倉くんには、茨木のり子の『自分の感受性くらい』という詩を贈りたい(だから何目線だよ)。
ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて
気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか
苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし
初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志しにすぎなかった
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ
それと、そんなばかもの・元春に、どうして「今」の澪が惹かれたのか、そこの説得力も薄かった。
韓国のオリジナル版は、1時間半×16話の長尺だから、夫の魅力もたっぷりに描かれているのかもしれない。
でも、ここは日本。
本作も、通常のドラマクールで放送されており、1時間×11回で収めなければならない。
なのに、なのにだ。
後半、(私の中では)モブキャラ扱いのキャラクター達が、勝手に、自由恋愛をおっぱじめたのである。
もう!あんた誰よ!
あんた達の痴話はどうでも良いから、その分、2人のことをもっと丁寧に深く緻密に描いてくれや。
名前も付けられていない様な生徒役全員に、一人一言喋らせるのは、最終回のラスト10分だけで良いからさあ。
そんな、サブキャラ達のどうでも良い、浅い恋愛話を盛り込んだために、「今」の時間軸で互いに何故惹かれ合ったのかが、本当に解せなかった。
もう一つの世界での経験値があり、それによって感じてしまう運命的な結び付き、という強硬論に寄り掛かったとしか思えず、うーーーん。
まあ、澪がめちゃんこ良い子なので、頼りなげなダメ男をほいほいしがちなのだろうなあ、と推察すれば合点は行くか、な。
誰だって、幸せになりたい。
幸せになりたくて、幸せにしたくて、だから、結婚する。優しくされたくて、優しくしたくて、だから、好きな人と一緒になる。
だからこそ、誰かと一緒になることは、その人の「あるかもしれなかった、もう一つの人生」を奪うことであると、そのことを忘れないでいたい。
きっと、全てのことには理由があって、全てのことは最善に仕組まれているはずで。
もしも、辛いことやわかり合えないことに心が荒む今があったとしても、それは学びを得るための「行」なのだ、と捉えられれば、少しは心が軽くなるかもしれない。
ドラマの様に、過去の選択を変えることは出来ないけれど、自分を変えることは出来るはずだから。
手放してしまったこと、別れてしまったものへの後悔は消せなくとも、その経験があるから今がある、そう思える自分でいられたら素敵ですね、うん。
ヨシタケシンスケの絵本『もしものせかい』が、それを端的に表していて感激したので、最後にその一部をご紹介したい。
もしも
あれが うまくいってたら
もしも
あちらを えらんでいたら
もしも
あのひとが そばにいたら
きみのめのまえからきえてしまって、
「もしも あのとき…」って
おもいだすもの。
それは、みんな もしものせかいに
いるんだ。
いつものせかいから
もしものせかいに
あるばしょが、いるばしょが
かわるだけなんだ。
きみのみらいに
なるはずだったもの
もうひとつのみらいとして
いつまでも きみといっしょにいる。
きみがもっている
ふたつのせかいを、
ふたつとも、
ゆっくり、ゆっくり、
だいじに、だいじに、
おおきく、おおきく、
たのしく、たのしく、
していこう。
何回人生を変えても、無数に横たわるパラレルワールドのどの世界でも、めぐり逢い結ばれているのであれば、それが「縁」というものなのであれば、現世でのめぐり逢いも、強靭な運命の下にあると思える。絶対的な理由があると思える。
だからこそ、大切にしなきゃね。
あなたがこのnoteを読んでくれて、間接的にでも私とあなたが出逢えたこと、これも、かけがえのない尊い出逢いであり、運命の糸をたぐり寄せた結果のはず。ありがとうございます(いかがわしい勧誘ではありませんので、ご安心を)。
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