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共生社会のロールモデル:ドラマ『にじいろカルテ』

遅ればせながらの、2021冬ドラマの振り返り。

2日目は、テレビ朝日木曜21時放送の『にじいろカルテ』でございます。
なお、こちらはテラサで配信中の模様。

秘密を抱えた“ポンコツ女ドクター”は
山奥の怪しい“ぽつんと診療所”へ。
ヘンテコな外科医&看護師とまさかの一つ屋根の下でシェアハウス!?
手術をしたら終わり? そうじゃない。
全然スーパードクターじゃない3人の笑って泣ける、チーム医療ドラマ!
朝ドラ『ひよっこ』脚本家・岡田惠和が紡ぐ至高のヒューマンドラマが誕生!!
テレ朝ドラマ初主演! 高畑充希が“秘密”を抱えたポンコツ女ドクター役に!! ヘンテコ外科医&看護師と3人で織りなす、新たなチーム医療ドラマが誕生!

東京の大病院の救命救急の現場で、夢と誇りを持ちながら働いていた真空に、ある日突然“とある病”が発覚しました。しかし、医者だからといってお金もないし、仕事も続けたいし…と困った彼女は、偶然知った山奥の小さな村の診療所で、病を隠して働くことになります。なにやら怪しいバスに乗り、鬱蒼とした森を抜け、たどりついた“虹ノ村”で待ち受けていたのは…ヘンテコな外科医&看護師という、男2人との一つ屋根の下のシェアハウス生活!? 更には、まるで妖怪みたいに個性豊かな村人たちに出会い、時に笑い、時に泣き、喧嘩しながらも、熱く命と向き合って成長していきます。

岡田惠和脚本ならではの、優しい手触りたっぷりの本作。
生き辛さを抱えた弱者達を優しく掬い上げる、そんな、温泉よりも気楽にぬくぬく出来る、おうちのお風呂の様な温かいドラマでしたなあ、ばあさんや。

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こういうね、優しさたっぷり・善人しか出て来ない作品には、実は拒否反応を示してしまいがちなわたくし。人の善意を信じ切れない淋しい人間だなあと自ら落胆しつつも、そんな自分も嫌いじゃない。

そんな私ですが、今回の『にじいろカルテ』は、うん、好きでした。

何が良かったのか考えてみようと思いまして、同じく岡田脚本の前クール『姉ちゃんの恋人』と比較してみました。
大変申し訳ないのですが、『姉ちゃんの~』に関しては、善意の拒否反応が出てしまった私。

『姉ちゃんの~』は、郊外ではありながら、あくまで東京に生きる人間の話であり、街のホームセンターがその主な舞台だった。

私も、横浜という都市に住む一人であり、いやいや、都会でこんなにゆとり持って暮らせないでしょ、こんなに澄み切った人いないでしょ、と、淋しい人間の私は感じてしまったのです。

でも、今回の『にじいろ~』に関しては、どどどどどど田舎ど真ん中を舞台としており、その、俗世間とは離れた場所で繰り広げられる人情話だからこそ、私は、彼らの優しさや人が人を想う愛を、素直に信じられたのではないかと。

現実感のない、牧歌的な風景の中で繰り広げられるそれらは、もはやユートピアの光景のようで。もしかしたら、同じ地球ではなかったのかもしれない、うん(村の皆が、子供みたいな素直さとエネルギーを発していたから、ユートピアが成立していた節は強い)。

私の好きな映画に『ラースと、その彼女』という作品がありまして、こちらも優しさ100%で生成されている様な物語なんです。

それでもって、こちらも、雪深い田舎の村を舞台にしていまして。寒さ厳しい中でありながら、だからこそ人々の温もりが際立つ秀作です。

どちらもね、田舎だから成立させられるストーリーであって、都心とは違う、ゆったりとした時間の流れ方をしている(であろう)からこそ、私達はその優しさを受け取ることが出来る。都会ではあり得ないけれど、田舎だったらこうなのかもしれない、と、一つ距離を置いて、あくまでフィクションとして柔らかに見ることが出来る。

しかし、今回の『にじいろカルテ』。
ロケーション協力に「さがみはらフィルムコミッション」の文字が。

そう、神奈川県相模原市にてロケを敢行していたとのことで、同じ神奈川県内やないかい!と、一人突っ込みを入れてしまいました。

で、でも、わ、わたしは、よ、よこはまだから!
か、かながわではないから!

と、ハマっ子は、震える声で弱々しくも主張してみる。
神奈川にもユートピアがあるのですね、うんうん(←なんか腹立つな)。

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そして、忘れてはならないのがキャストの妙。

高畑充希・井浦新・北村匠海の医師トリオのことは言わずもがななので、ここでは割愛するが、脇を固めた虹ノ村の村民達の愛おしさが過ぎる。きゅんです。

その中でも特筆したいのが、親子役を演じた泉谷しげると水野美紀。

泉谷しげるはね、いっつも涙腺をごそっと引き抜いて来るのよねえ。
今回も、彼の十八番である、昔気質の不器用な、でも人情溢れるじいちゃん役を好演。

初回のラストでね、真空先生(高畑充希)が自身の病気を涙ながらに打ち明け謝罪するのだけれど、そこで何て返すと思います?

「医師免許ないって言うのかと思ったじゃねえかよ」
「宇宙人って言うのかと思った~」

と。

いやあ、私もこう言ってしまえる人間でありたい!

これをさ、「いやいや、全然大丈夫ですよ」「私達、そんなこと気にしませんから」「村民全員でサポートしますからね」なんて言ってしまったらさあ!

逆に恐縮させてしまう。気を遣わせてしまう。

そこをさ、正直さを持ちつつも、ユーモアのエッセンスを振りかけて笑いに換えて行く。どんな状況であっても、思わず笑わせてしまう。

その、相手に気を遣わせないための気遣い、が、ユーモアの本質であるよなあ、と。

ユーモアこそ、人間の一番の愛情表現だよね。

泉谷さんの演技が印象深い作品と言えば、『愛し君へ』の無骨な父親役だけれど、今回もその魅力たっぷりで、父親にしたい俳優ランキング・祖父にしたい俳優ランキング・酒を酌み交わしたい俳優ランキングで堂々1位でございますよ(回答者:私一人)。

『愛し君へ』もねえ、私の愛する森山未來くんを始め、菅野美穂・藤木直人・八千草薫がキャスティングという奇跡的な作品でした。
デトックスしたい時は、『愛し君へ』の最終回7分と『クレヨンしんちゃんモーレツ!オトナ帝国の逆襲』の回想シーンを見たら、いつでも泣くことが出来ますよ。

そして、娘役の水野美紀。
彼女もね、お嫁さんにしたい女優ランキング・姉にしたい女優ランキング・上司にしたい女優ランキング1位の3冠を達成(回答者:私一人)。

以前、スカパーで放送していた『演劇人は、夜な夜な、下北の街で呑み明かす…』という番組がありまして(その名の通り、演劇人が下北沢の居酒屋で酒を飲みながらぐだぐだ喋るだけのバラエティー)、そこでの水野さんが強烈で。

第一線で活躍する人気女優でありながら、どんな男が良いかという話題になった時、「この歳になったら、前科がなけりゃあ良い!」と。

そのサバッサバ具合に惚れ惚れしてしまいました。
でもって、その1年後かなんかに結婚してしまうのだから、人生何が起こるかわからない(ご主人は見る目があるなあ!)。

『突然ですが、占ってもいいですか?』のレギュラー出演も相まって、裏表のない、頼れる姉御なイメージがすっかり定着していらっしゃるが、『踊る大捜査線』の頃は、あんなに可愛かったのになあ(けなしていない、むしろ今の方が好き)。

『にじいろ』でも、そんな水野さんの魅力全開なパワフルシングルマザーを好演。彼女を捨てるなんて、本当に男って見る目がないよねえ(一人で生きて行けそうなタイプこそ実は繊細であること、おっさんぽい女子の方が実は癒し系であること、それに気付いてくれよ)。

ちなみに、母親にしたい女優ランキングですと、薬師丸ひろ子と風吹ジュンが同率1位でございます(回答者:私一人)。

井浦新についても、どうしても書いておきたいことがある。

『にじいろ~』の番宣で出演した『くりぃむクイズ ミラクル9』内で、「同じものを使い続けている文房具は?」というクイズの出題があったのだが、そこで「肥後守!」と、自信満々に回答したのです、あの井浦新が。

肥後守ッテナンデスカ?ソモソモ、ナントヨムノデスカ?

と思ったあなた。

安心して下さい。皆、知らないから。

肥後守(ひごのかみ)とは、「日本で第二次世界大戦前から使われている簡易折りたたみ式刃物(ナイフ)」で、「鉛筆を削ったり、竹とんぼなど玩具を作る道具」のこと(Wikipedia調べ)。

わたし、正直に言うと、井浦新って、ARATA時代からそんなに好きな俳優ではなかった。でも、この「肥後守」発言で、圧倒的な人間味と親近感を感じてしまい、一気に好きになってしまったのです(なんと単純な)。

私の中で、井浦新は「肥後守俳優」という異名を手にし、これからも気になる存在で在り続けるでしょう。

番宣で出演するバラエティーの重要性を、改めて実感したミーハーな視聴者でした。

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テレビ朝日の木曜21時と言えば、『ドクターX』や『DOCTORS』などの、医療ものが人気の枠であり、今回もそれを期待していた視聴者からは不満の声…といったネット記事も散見された今作。

あらすじにもある様に、医療ものというよりかは、ヒューマンドラマの括りに入る作品であり、田舎生活・自給自足・スローライフ・丁寧な暮らしもの、でもあり(小林聡美やもたいまさこが出ていらっしゃいそうな)、たまにはこういうドラマがあっても良いし、それを受け容れられる自分でありたいなあ、うん。

よく働いて、よく食べて、よく眠る。
庭で野菜を育て、収穫した野菜を食卓に並べる。その食卓を皆で囲む。

これこそ、本来の人間のあるべき姿・あるべき生活なんだよね、と。

そんな生活も良いなあ、アリだなあと思ったわけですが、その背景には、無論、イケメン2人とのハーレム生活だから、という理由がある。下心ありき、である。

やはり都会志向が抜けられない私としては、新と北村匠海との同居なくしては、ユートピア・相模原への移住には踏み切れないであろう。

下心なくして考えてみても、大人になってから出逢った人間同士なのに、こんなにも愛溢れる信頼関係を築けるなんて、という点でも羨ましい3人だった(真正面からぶつかり合ってるから構築された間柄だけれど)。

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真空先生も朔先生(井浦新)も太陽くん(北村匠海)も虹ノ村の面々も、誰一人として強い人間はいない。そこにヒーローは存在せず、しょうもないところやみみっちいプライドなんかを持ち合わせたちっぽけな人間ばかり。それを真正面から描く姿勢に、好感が持てた。

私達は誰しも、何かしらの困難を抱えている。
それを無理に解決しようとするのではなく、悩みさえも尊重し、課題を抱えた自分や他者を受け容れる。困難と共存し、上手く付き合って行く方法を探る。

「付き合って行くしかないんだよねえ、あんたと。」

それで、良いじゃあないか。

受容という問題解決の仕方があること、イエスアンドの精神で調和を生んで行くこと、正にこれからの理想の社会の姿を提示してくれたかの様だ。

それに、病気になることも、怪我をすることも、もしかしたら、全ての物事には理由があるのかもしれない。

だって、病気になっていなければ、真空先生が虹ノ村に来ることもなくて。こんなにも愛くるしい人々に囲まれて、こんなにもドバドバと愛を注がれることもなくて。

それはつまり、私達一人一人に生きる意味が与えられている、ということで。

「雪乃さんの病気だから、出来ることもあるじゃないですか」
「あの綺麗な虹は、雨が降らないと見られません」

これらの台詞は、私を大いに励ましてくれた。

ちっぽけで些細な、でも、自分にとっては切実な悩みや頑固な屈折を、きちんと尊重してくれる人がいる。
辛い時に手を握ってくれて、共に涙を流し、共に笑ってくれる人がいる。
「あそこはお前のうちだ。絶対に帰って来い」と、帰りを待ってくれている人がいる。

そう思えるだけで、どれだけの温もりと心地好さとを手にすることが出来るだろう。

大好きな人達と、柔らかな自然に囲まれて、毎日を穏やかに丁寧に生きる。人が、人を育て合う。

理想の暮らしが、そこにはあった。

最後に、劇中で歌われる『にじ』の歌唱動画をば。
3人中2人はプロの歌い手なので、さすがのクオリティ。

にしても、心底楽しそうだったなあ、この3人。劇中でも、その仲の良さ・人の良さがひしひしと伝わって来た。最強の3人の復活に期待ですね。

ああ、私もどうにか混ぜて欲しい。タンバリンでも叩くからさあ(素人のおじさんが言いがちな台詞)。

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