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「ジムはやせたい人をカモにした商売」

「私は好きなことをやっているんです!」

 新島係長と衝突して以来、職場での紀香には、すっかりマイナスの印象が定まってしまった。

 最近の新島係長は、総務部内で紀香を叱ったり、できないことを治すように促したりすることはなくなった。その代わり、紀香があいさつをしても知らんぷりして通り過ぎるようになった。おまけに、四月から部下になった健常者の新卒が言うことをよく聞くし、使えない障害者と違って手がかからなくて助かるわ、と喜んでいた。いや紀香がひど過ぎたので、もはや誰が来ても歓迎だった。

 紀香は毎朝の掃除と古新聞の処分を終えてからは、仕事を任されることはなく、ただ席に座っていることしかできなくなった。することがない苦痛を、席でインストラクター養成コースのテキストを持ち込んで開いたり、ノートを開いてエアロビクスの振り付けを考えるのに没頭してしのいだこともあった。それを見た新島係長は、紀香に注意する代わりに、「辻原さんが最近、仕事中に関係のないことをしている」と仲田課長に伝えた。仲田課長は紀香を呼び出して、「仕事中に関係のないことは家でするように」と注意したのだった。

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仕事のつまづきで発達障害に気付き、エアロビクスインストラクターに転身し成長していくヒロイン。周囲の人間関係のダイナミクスにどう向き合っていくか?

現代日本を舞台に発達障害のあるヒロインの成長を描いた小説。ヒロインは学校時代を経て就職後につまづき、発達障害の診断をされて再就職しますが、…

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