2月8日、岐阜県内の特例子会社における高次脳機能障害の元社員への合理的配慮をめぐる裁判の控訴審が、名古屋高等裁判所で始まった。
第一回口頭弁論
第一回口頭弁論では、原告側弁護団の1人の仲松大樹弁護士により、控訴理由書の要旨が読み上げられた。原告側から新たな証拠として、「ブラウスの購入はやはり強要だった」「合理的配慮提供を拒絶された」状況だと主張する元社員の女性の携帯電話のメールなどが提出された。
一方で、被告会社側弁護士は、控訴答弁書を提出していたが、原告弁護団からのさらなる主張に対しては新たな反論を行うことはないとした。
一審で「障害者も努力を」とされた、障促法4条について
一審で「就労能力向上」とされた、ブラウス着用について
一審で「信用できない」とされた、元社員の日記について
強要や配慮拒否を示すメール
・会社関係者が女性に送った「明日は承知しました」「今日、16時に、ショッピングセンターで待ってます」というメール
この2通のメールから、この会社関係者は女性が会社に着ていく服を選び購入するのを監視するのを、会社の勤務時間内の業務として行っていた。
・女性が会社の業務指示者に送ったメールでは「家でも洗えるジャージみたいなジャケットを買いにいくつもり」だったが、購入に同行した会社関係者から「会社では県庁に行く服装は許されない」と言われたため、購入する予定でなかったスーツ様の服を購入していた
会社関係者は、女性が購入する服の選択を強く制限していた。女性は、着れば明らかに体調が悪化することがわかっているブラウスやスーツを、勤務時間内に、会社関係者に付き添われ指示を受けながら、自費で購入させられていた。
・会社の業務指示者の送った「(女性は)権利ばかり主張するやな障害者にすでになっている」「完成形。しかもスーパーウルトラクラス」「反感をかってしまっていてなにもできない」「手短に言うと、(女性は)めんどくさいとかだとおもいます」「意見よりきらわれていることをなおす」「それからでないとすすめない」「できないことをできないというのも、言い方次第では相手を追い詰めてしまう」「よくあるのが、医師がそう言っているから…など」「謙虚にいかないと、私はこうだからしかたありません。あとはあなたたちが配慮してください」「これでは何とかしたいとこっちを向いてくれている人にも不快感を与えます」といった一連のメール
会社の業務指示者が、女性の障害への理解や配慮を推進するどころか、そのような主張を抑え、女性が周囲に下手に出るような言い方をするよう努力すべきである、と考えていた。
会社取締役の考え方
・会社の業務指示者が女性に送った「会社取締役からメールきてました」「すごく誉めてましたよ。よくやってる、成長してついてきてくれとるって」というメール
会社取締役は、障害により着られる服が制限されブラウスやスーツを着られない女性が、体調悪化を圧して着たことを、会社取締役自身の考えに照らして「成長してついてきてくれ」ていると受け止め、評価した。
・会社取締役は女性が体調悪化して休職した後、復職に向けた五者面談で、「個人の障害を持たれていることと、会社の中でどういうふうに行っていくっていうことは、僕は全く別だと思っているんですよ」「(筆者注・自由な服装が認められた)以前はこうだった、こうだったっていうようなことをおっしゃられて、ちょっと心外。僕らは今ですもんね、今」などと発言。会社取締役の発言を聞いた臨床心理士は、「特例子会社。障害者を雇うという視点はどこにあるんだろう」と疑問を呈す。会社取締役は「特例子会社だからというような視点は、僕の中では薄いかもしれないですね」
原告弁護団は、「会社取締役の障害のある労働者の雇用に対する考え方は、障害の克服について、障害のある個人に自ら抱える欠損を埋め合わせ、欠損のない者と肩を並べられるように努力すべき、という、まさに障害を欠損とする個人モデルそのもの。障害者雇用促進法では障害の捉え方は個人モデルではなく、障害のありかを社会構造に求める社会モデルに立っているため、会社取締役や原判決の障害に対する考え方は誤り」と批判。
高次脳機能障害の女性のいまの思い
原告である元社員の40代女性は意見陳述で、自身の障害と、求めた配慮について、上司が交代するまでは認められた配慮が、上司の交代で認められなくなり、体調悪化し休職し、退職を余儀なくされた経緯を、淡々と述べた。
閉廷後、原告弁護団は報告集会を開き、女性は述べた。
(5月21日追加)「強要や配慮拒否を示すメール」「会社取締役の考え方」パートと、報告集会の写真を追加。