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障害者差別訴訟係争中のセールスフォース日本、大量解雇で第2、第3の訴訟も懸念。経済と優生思想の暗い関係を綴る

発達障害の元社員が、米国系IT大手セールスフォース日本法人を相手取った障害者雇用差別訴訟が続いている。

第8回期日

東京地方裁判所

11月14日11時に東京地裁で第8回期日が行われた。この日は、筆者、障害者団体関係者、雑誌記者など9人が傍聴した。

被告会社側から、原告が面談した産業医の意見書が提出されたが、原告側代理人の早田賢史弁護士から「編集されたものに見える」と指摘が出る一場面があった。

この裁判では、産業医の指示により、原告元社員のメンタル不調からの復職条件として、基礎疾患によりコロナ感染での重症化リスクを抱えた原告元社員の通勤訓練が行なわれていたことがわかっている。

近年、会社の意向を汲む形で不都合な社員を退職に追い込む「ブラック産業医」が社会問題となっており、産業医の判断の信用性を否定する判決も出ている。

この日の午前には、東京地裁への爆破予告で正午〜14時まで庁舎が立ち入り禁止となり、予定されていた267件の公判が中止される騒ぎがあったが、障害者雇用訴訟の期日は予定通りに済んだ。爆破などの異変はなかった。

次回期日は1月23日11時。

数百人削減 さらに2000人以上のクビ切りも?

そうしたなか、11月9日にBloombergより、「セールスフォース米国本社で数百人削減」という報道があった。それによると、同社広報担当者は8日の声明で「当社のセールスパフォーマンスのプロセスは説明責任を促す。残念ながら、それが一部の人が当社を去ることにつながる可能性もある」とコメント。米国での景気減速が懸念されるなかでの利益率改善が狙いとみられる。

さらにはITニュースサイトProtocolより、感謝祭までに2000人以上を削減する計画という報道や、従業員を解雇しやすくする人事ポリシーの変更が行なわれたという報道もあった。

同社日本法人では2019年4月から2021年12月にかけて増員計画が進められ、従業員数は1500人から3500人体制になった。だが、ここで日本法人も人員削減対象となれば、この過程で障害者雇用訴訟に次ぐ第2、第3の訴訟も懸念される。

筆者は報道があってから、同社広報へ電話とメールで問い合わせたが、回答はない。

セールスフォース東京本社ビルに向かう地下通路

筆者はまた、11月14日17時半〜18時半頃に東京本社周辺で、同社社員10人程度に聞き取りを行った。同社で在宅勤務が浸透し、出社率が低下しているとみられるなかでも、SNSだけでは得られない情報を求めて実施。ただこの日の聞き取りでは、該当者や該当部門に関する情報は得られなかった。

同社が大規模な人員削減を行うのは2020年8月以来。同社創業者兼CEOのマーク・ベニオフ氏は米国流株主資本主義を批判し、「ビジネスと社会貢献の両立」を目指すとアピールしてきた。だが、同社は実際には株式市場でのパフォーマンスのために、大量の人員削減を繰り返している。そして今回の人員削減の過程では、PIP(Performance Improvement Plan、業績改善計画)など従業員にパフォーマンスに基づいて解雇をしやすくする人事ポリシーの変更も行なわれたことが報じられている。同社が人材戦略で注力してきた「働きがいのある企業」づくりやそれに伴ったブランディングも、これからはどうなっていくのか。

これまでにも、能力主義を掲げる外資系企業の一部で、「PIPが不当解雇の道具として濫用されている」という批判があり、裁判で企業側が敗訴するなどして表面化したことがあった。

同社は2022年5月には障害者雇用率を達成していたことが関係者リンクトインで判明しているが、人事ポリシーの運用によっては、メンタルダウン続出、定着を志向する障害者や支援者にも影響が出る可能性や、雇用率維持が困難になっていく可能性がある。

11月4日にTwitter社での買収に伴う大量人員削減があってから、米国系IT大手ではメタ(旧Facebook)、Amazonなど各社で人員削減が相次いでいる。

優生保護法訴訟

障害者雇用訴訟と同じ日、11月14日午後3時、東京地裁では、優生保護法による強制不妊手術の国家賠償を求める裁判の第1回期日が行われていた。

東京地裁前で入廷行動を行う優生保護法訴訟原告弁護団

原告は、西スミ子さんというベッド式車椅子を利用する脳性麻痺の76歳女性。20代後半の時に説明なく強制不妊手術を受けさせられ、「子供が出来ない体である」という理由で、結婚生活をなきものにされた。法廷では、とてもゆっくりとした小さな声だが、自分の身に何が起きたのか、しっかりと意見陳述を行った。

原告側代理人の岩田弁護士は意見陳述で、優生保護法の国賠訴訟は全国で17件起きており、東京ではこれが2件目であること、強制不妊手術について国の責任を追及し、被害の回復を目指すことを述べた。

国側は、請求棄却を求め、「追って認否する」との答弁書を提出。

かつて「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とする優生保護法に基づいて、国は優生手術(実態は非人道的な強制不妊手術)を推進した。優生保護法は1948年に成立し、1996年に廃止されるまで続いた。強制不妊手術を受けさせられたのは2万数千人と推定される。政府は2019年に救済法で、強制不妊手術の被害者に一時金320万円の支給を示したが、原告弁護団は被害救済には不十分としている。優生保護法に基づく強制不妊手術については国際的にも批判が起きており、今年9月の国連勧告では、日本政府に優生保護法問題の迅速な解決を求める内容が含まれていた。

経済と優生思想の暗い関係

誰かを劣ったものと一方的に決めつける優生思想に基づく事件は後を絶たない。相模原障害者施設殺傷事件も、そしてセールスフォース事件も。優生保護法問題のように国策として優生思想が進められた例もあった。資本主義経済には「優生思想」的なものが内在していると言える。

余裕のなくなった経済が優生思想と結びつき、誰もが非常にシビアな生産性を求められ、それをどれだけ努力してもできない人はどんどん切り捨てられることが避けられない社会が拡大していると言われて久しい。同じ日に「優生思想」というキーワードで地続きの関係にある裁判を傍聴して思った。

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