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セールスフォース、社員1割削減。日本法人では新卒者に影響や障害者雇用訴訟に次ぐ第2、第3の訴訟も懸念(ベニオフ氏書簡全訳付き)

セールスフォース米国本社が1月4日に1割人員削減発表し、メディアが続々報じた。該当部門は明らかにされていないが、直近の従業員数から7000~8000人とみられる。

マーク・ベニオフ氏の書簡全訳(筆者訳)

社員への書簡
日付:2023年1月4日
件名:会社の重大最新情報

オハナの1人として、23年間、セールスフォース社は、世界中のあらゆる業界のあらゆるビジネスの線を越えて、素晴らしいカスタマーサクセスを牽引するNo.1CRM(顧客管理システム)を築いてきた。我々はかつてないほどに、ますます顧客にとって重要な役割を担う存在となってきた。我々は、我々のプラットフォーム上で会社を築く、何千ものパートナー、何百万人ものトレイルブレイザーとともに、比類なきエコシステムを有している。
だが、環境は困難な状況であり続け、我々の顧客は購入決定において、一層抑制した姿勢を取り続けている。これを念頭に置いて、我々は大変難しい決定を行った。職場から10%を削減する。大半は今後の数週間で行う。
この時に至るまで、私は大変考え込むことになった。パンデミックを通じて、我が社の収益は加速し、これから直面する景気減速に向かうなかで、多くの人員を雇用しすぎた。私はそこに責任を感じている。
これから数時間以内に、この決定による最初の該当者は、メールを受け取ることで知らされることになる。我が社の指導層が直接社員のところに赴き、そして組織内の再編についてチームに明確に提示される。
セールスフォース社を去ることになる社員に対し、我々は、寛大な手当を出すことを含め、大きなサポートを行うことを優先事項とする。米国では、社員の職場移動には、最大で5か月分近くの給与、健康保険、転職支援その他のベネフィットが提供されることになっている。米国外の該当者についても同様の水準でのサポートを受けられるようにし、我が社の手続きのうち米国内でしか通用しない部分は各国の労働法に沿ったものとする。
影響を受けることになる社員は、単なる同僚にとどまらない。友人である。家族である。彼らに寄り添おう。思いやりと愛を示そう、彼らとその家族はこれまで以上に必要に値する。そして何より、私も含め、あなたの指導者を頼ろう、この困難な時を一緒に乗り切るために。
私は、会社の継続的な成功に貢献してきたあなたがた一人一人すべてに感謝しており、あなたがたのハードワークや捧げてきたものは、何百、何千もの顧客の成功を生み出すことになる。あなたがたは、あらゆるステークホルダーのために―我が社を築いてきた、そしてあらゆるステップで素晴らしいレジリエンスを示してきた。

感謝を込めて
マーク

SEC提出書類のマーク・ベニオフ氏の書簡

SEC提出書類の一部訳(筆者訳)

2023年1月4日、セールスフォース社(以下、会社)は、経費を削減して営業利益率を改善し、会社の増収へのコミットメントを果たすための再編計画(以下、計画)を発表した。計画は、現状から約10%の人員削減と、保有不動産・オフィススペースの市場への売却が含まれる。ポジション削減に関する決定は、会社の事業ニーズとともに、米国内法および各国において求められる水準の交渉を通して行われる。
会社は、計画に関して約14億~21億ドルの負担を見積もっている。このうち約8億~10億ドルは2023年度第一四半期に負担されることを見込んでいる。これらの負担額は、主に10億~14億ドルが社員の移動・退職手当・社員ベネフィット・株式報酬費用、また4億5000万~6億5000万ドルがオフィススペース削減に伴う解約金等に充てられる。計画において会社が見積もる負担額は総計で、約12億~17億ドルは将来のキャッシュで支払うことになる。
計画の下に社員削減に伴うアクションは概して、2024年度(筆者注釈・セールスフォース社の会計年度は1月で終わる。ここでは2023年2月~2024年1月の期間を指す)の終わりまでに完了する。計画の下に不動産売却に伴うアクションは、2026年度(筆者注釈・2025年2月~2026年1月)の終わりまでに完了する。会社が計画に関して負担する費用支出と、その時期は、大部分が、様々な管轄地域の現地法基準込みでの予測に基づくもので、実際に掛かる負担額は見積もりと大きく異なるものになる可能性がある。加えて会社は現時点では、計画の実施に伴って不測の事態が起きた場合の追加負担またはキャッシュ支出を検討していない。

SEC提出書類の再編計画に伴うコストに関する記載

メディアはどう報じたか

日本経済新聞電子版は1月5日明け方、「人員削減は米国と海外の従業員が対象で、数週間以内に大半を実行する」「公表する22年1月期末の従業員数は7万3541人で、前の期比3割増えた。米メディアは直近の従業員数を8万人程度と報じており、削減の対象となる人員数は7000人を超える可能性がある」と伝えた。紙面版では1月5日夕刊一面に掲載。

アイティメディアは、「2022年10月時点の同社の従業員数は7万9824人だったので、約8000人がリストラ対象になる見込み」と伝えた。同社がSEC(米証券取引委員会)に提出したマーク・ベニオフ会長兼共同CEOの書簡を公開。書簡では、「パンデミックによって収益が増加したため、雇用を増やし過ぎた。現在景気後退に直面している。責任は私にある」。

Bloombergは、2015年以来の人員の増加と、2010年以来の四半期増収率の推移とともに伝えた。「同社の従業員数は過去4年で約3倍に増えたが、主に企業買収に伴う増員だった。20年1月から22年10月末までで従業員数は3万人以上拡大した」「物言う株主のスターボード・バリューなど投資家から利益率の改善を強く求められている。今四半期の増収率は04年の上場以降で最低となる見通し」。

New York Timesは、同社がSECに提出した書類の全体を公開。

ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、セールスフォースにとって「最大のスランプ」という見出しとともに報じ、その最大のスランプは1月末で退任予定の後継者ブレット・テイラーCEOなど幹部流出に起因する、と伝えた。

ロイターは、人員削減を受けてセールスフォースの株価は一時5%上昇したことを伝えた。

ワシントンポストは、同じ日に行われたアマゾン1万8000人削減とともに伝えた。

https://www.washingtonpost.com/technology/2023/01/04/salesforce-layoffs

Forbes米国版も、同じ日に行われたアマゾン1万8000人削減とともに伝えた。

Business Insider US。11月にブレット・テイラー氏が退任表明して以来、解雇までの1ヶ月間の社内の混迷を深掘りしてきた。1月6日翻訳記事配信。社内のSlack投稿メッセージから、「事前に情報を共有されず、解雇された社員からレイオフのことを聞き、寝耳に水」という管理職もいたもようや、一部の管理職が業績下位10%の者を特定するよう求められていることを伝えた。

1月12日追記)Business Insider US 1月12日続報。記者が入手した会議音声を元に、「皮肉にも、今週はセールスフォースの生産性が失われた1週間だと言えるだろう」と営業社員が会議で語ったもようを伝えている。「大量解雇の一方で生産性向上の要求は生産性を阻害する」という趣旨の発言だった。

フィナンシャルタイムズ電子版の分析記事の翻訳が日本経済新聞電子版に掲載。

CNBC

TechCrunch

ZDnet

Gigazine

日本への影響は…

同社日本法人の小出伸一社長は12月14日に経済番組PIVOTに出演し、日本法人の社員数が3800人になったこと、毎年新卒者百数十人採用していることを語った。

だが、人員削減の影響が日本に及べば、23年卒や24年卒の新卒者の採用凍結や内定取消の懸念がある。

同社が大規模な人員削減を行うのは2020年8月以来。同社創業者兼CEOのマーク・ベニオフ氏は米国流株主資本主義を批判し、「ビジネスと社会貢献の両立」を目指すとアピールしてきた。だが、同社は実際には株式市場でのパフォーマンスのために、大量の人員削減を繰り返している。そして今回の人員削減の過程では、PIP(Performance Improvement Plan、業績改善計画)など従業員にパフォーマンスに基づいて解雇をしやすくする人事ポリシーの変更も行なわれたことが報じられている。同社が人材戦略で注力してきた「働きがいのある企業」づくりや「オハナカルチャー」(注釈・オハナとはハワイ語で「家族」)、それに伴ったブランディングも、これからはどうなっていくのか。

これまでにも、能力主義を掲げる外資系企業の一部で、「PIPが不当解雇の道具として濫用されている」という批判があり、裁判で企業側が敗訴するなどして表面化したことがあった。日本法人でもPIP解雇訴訟の懸念がある。

東京地裁で係争中の障害者雇用訴訟(1月23日11時に東京地裁で第9回期日)に次ぐ第2、第3の訴訟の可能性もある。

障害者や定着支援を行う支援者にも影響が出る懸念もある。

セールスフォースはこの1年で株価50%下落、米国本社では人員削減や後継者はじめ幹部流出。2022年11月頃から、Business Insider US、WSJ、Forbesなど、米国の経済メディアは米国本社の異変を連日深掘りしていた。米国本社社員の一部は働きがいや家族的な「オハナカルチャー」の変容を感じ取っていたようで、戸惑いの声が出ていたことも報じられていた。

対して日本では、12月14日に日本法人の小出伸一社長がオンライン経済番組PIVOTに出演し、「日本法人は急成長を続け絶好調」という話ばかりだったが…。

会社担当者が選んだ口コミが生々しい!?「成果出す人も長期休養」

転職口コミサイト「OpenWork」のセールスフォース日本法人のページに掲載された口コミ(12月5日投稿)によると、「成果を出している人も長期休養に入る人が多い」という口コミがあった。この口コミは、会社担当者が選択している「Pick Up社員口コミ」ということで、信憑性はあるとみられる。

人員削減の過程で、メンタルダウン続出や、障害者雇用訴訟でも表面化したような産業医の指示を利用した本人の意に沿わない退職勧奨が行われることも懸念される。

OpenWorkのPick Up社員口コミでは、「上は改善の努力をしているようだが改善の余地はない」、「転職エージェントに相談すると『セールスフォースは大変でしょう』と同情された」とか、転職エージェントにも似たような社員の声が色々と寄せられているもようが紹介されていた。他にも幾つか口コミが選ばれていたが、(管理部門以外の事業部門は)ノルマが厳しい、忙しい、余裕がないという点は共通していた。なかには「評価が高いのは会社の綺麗さや福利厚生のみ」というものまであった。

OpenWork関係者によると、「Pick Up社員口コミはOpenWork運営者は関与しておらず企業側が自由に選択することになっている」。社内で誰が選択したのか定かではないが、この時期になってこのような内容の口コミを公開口コミとして選択し、紹介することになったのは、どういう事情、どういう意図があったのか…。

Pick Up社員口コミについて同社広報および採用部門責任者に問い合わせたが、回答はない。

「外資系でリストラされても困る人はいない」は本当か

一般に、外資系企業では人員削減について、「転職慣れしている人が多く、多少のショックはあっても、こうしたことは日常茶飯事でそこまでの大ごとではない」といわれる。

しかし、人員削減が個々に与える影響は様々。次々とオファーを得て好待遇で転職したり、恵まれた経験・人脈を元に起業したりする人がいる一方で、機会格差から次のステップへ移れず、労働市場から排除されていく人もいる。とりわけ激務で体調悪化したりした経緯があったり、いわゆる「転職弱者」の立場であれば、再就職は一層困難になり、何十社何百社不採用といった経験を重ね、ひきこもりになったり、経済的に困窮していく人もいる。優秀だから引く手あまたとも限らない。

【情報提供の呼びかけ】

セールスフォース日本法人関係者や内定者のみなさまへ、いま何が起きているのか、境遇について、情報提供を求めています。匿名・実名での情報提供をいただける方は、私のメールアドレス(hasets2015@(全角)gmail.com)までお送りください。

もしつながりのある方で削減対象となった方がいましたら、再就職のサポートに協力することを呼びかけます。

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