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「直感」文学

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「直感的」な文学作品を掲載した、ショートショート小説です。
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2017年4月の記事一覧

「直感」文学 *最後の日*

「直感」文学 *最後の日*

 暗がりの中に灯る豆電球の辺りに、埃はゆらゆらと舞っていた。

 「終わりが近いのかもしれないな」

 トオルはそう言って、僕の顔を見た。

 「まさか、最後の日にお前と会ってるとは思わなかったよ」

 そう言葉を続けてから、大きなため息を一つ吐いた。

 僕だって、お前と一緒にいるなんて夢にも思わなかったし、なぜこうなってしまったのかと少し苛立ちだって覚えるくらいだ。

 〝隕石墜落まで、あと一

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「直感」文学 *夜空にいっぱいの手を伸ばして*

「直感」文学 *夜空にいっぱいの手を伸ばして*

 こんなにも綺麗な夜空、見たことあっただろうか。

 星が瞬く夜空は、あまりにも綺麗で壮大だった。

 「ねえ、見て!こんなにお星様が出ているよ!」

 5歳になったばかりのリョウタは夜空に手を懸命に伸ばし、その星屑たちを拾おうと躍起になっていた。だけど、いくら手を伸ばしてみても、それらが自分の手の元まで与えられることはなかった。

 「とーどかーないー」

 それでも頑張るその姿に、僕はなぜだか

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「直感」文学 *ジャングルジム*

「直感」文学 *ジャングルジム*

「ジャングルジム」って言葉は、なんだかその言葉自体にワクワクさせる要素があるのではないか。

 そう思うのは一つ大人になった証拠なのかもしれないと、随分と久しぶりにジャングルジムを見て思うのは僕であって、

 「わー!ジャングルジム懐かしいなー!」

 と言ったのは彼女だった。

 「これって何なんだろうな?ただ登るだけで何が楽しいんだろう……。まあ、僕も子供の時は散々遊んだけどさ」

 「登るだ

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「直感」文学 *眠れないその日の情事*

「直感」文学 *眠れないその日の情事*

 太陽はもうすぐ昇るはずだけど、外はまだ暗がりの中に潜んでいた。

 結局、私は寝れないまま朝を迎えてしまうのだろうか。暗い部屋の中でいやらしく光る携帯の画面は5時を示していて、時間を知らせるその様が、なんだか私を妙に落ち着かせたりもした。

 稀に眠れない日がある。原因は分からないし、眠れなければ次の日の仕事に多少は支障をきたす。寝てないのだから日中に眠くなるのは当たり前のことだ。

 しかし、

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「直感」文学 *イメージが生み出す、本の世界*

「直感」文学 *イメージが生み出す、本の世界*

 「本ってあまり好きじゃないんだ。だってあれはただ活字を目で追うだけで、疲労以外には何も得られないだろう?世の中の人がなんであんなに本を読むのか俺には分からないよ。一体何がどうなっているんだ?」

 コウヘイは本を読んでいた私に向かってそのように口にした。

 彼が本を読まない事も、やたらと毛嫌いしている事も、もうずっと前から知っている。

 だけど改めてこう言葉にして聞くと、彼のその揺るぎない信

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「直感」文学 *置き言葉*

「直感」文学 *置き言葉*

 一枚の紙切れ。

 ただ机に置かれていたその紙切れには〝ばいばい〟とだけ書かれている。

 「ああ、そう……」

 不意に漏れた言葉は、誰に届くはずもなくただ僕の中だけで消化された。

 サキからの置き言葉だ。それは分かる。

 だけど、どうして僕は別れを告げられなくてはいけないのかが分からないままだった。

 昨夜、少し口喧嘩をしただけじゃないか。ただそれだけのことじゃないか。

 たったそれ

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「直感」文学 *海のざわめき*

「直感」文学 *海のざわめき*

 夜の海は、恐怖さえ覚えるような形相を私に向けた。気を抜いたら一瞬で呑み込まれてしまいそうな顔に、私は一歩後ずさる。

 「つーか、突然海が見たいってなんだよ?しかもこんな寒い季節に……」

 隣でコウキが文句を言った。言われて当然なのは私。だって私はあまりにも唐突に「コウキ!海が見たいの!」と言いだしたのだから。

 「は?なんで?」

 「なんでも!」

 「てか今冬だし」

 「見るだけだも

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