「直感」文学 *海のざわめき*
夜の海は、恐怖さえ覚えるような形相を私に向けた。気を抜いたら一瞬で呑み込まれてしまいそうな顔に、私は一歩後ずさる。
「つーか、突然海が見たいってなんだよ?しかもこんな寒い季節に……」
隣でコウキが文句を言った。言われて当然なのは私。だって私はあまりにも唐突に「コウキ!海が見たいの!」と言いだしたのだから。
「は?なんで?」
「なんでも!」
「てか今冬だし」
「見るだけだもん。入る訳じゃない」
「あーあー、分かったよ。じゃあ今度の休み連れてくから」
「今なの!」
「は?」
「今見たいの!」
ずっと渋っていたコウキだったけど、結局今私は夜の海の前にいる。コウキはいつだっていくらでも文句を言うけれど、最終的には私の願いを叶えてくれる。彼はいつだってそうだ。
「ありがとう。連れてきてくれて」
波の音に負けないように、大きな声でコウキに言った。
コウキはまた少し意地悪な顔をしてから、ふっと鼻で笑った。そして、
「いつものことだよ」
とだけ言った。
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