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英語学習をただの暗記にしない「英語の歴史」から紐解く面白さ

ずいぶん長い間同僚から借りっぱなしになっていた本をようやく読みました。結論から言うと、2時間程度で読めて英語の歴史がザーッと頭に入るめちゃくちゃ良い入門書です。読んでみて面白いと思った点をいくつか挙げてみます。当方、英語学は全くの門外漢です。専門的なことに関しては議論するつもりはありませんので悪しからずご了承ください。

大きな問い

本を一気に読み進めたいときにわたしが使う読む方法は、「キラーリーディング」です。自分が昔書いたブログに解説してあったので、興味のある方はどうぞ。

ここでは次の問いを念頭に読んでみました。

「生徒が身近に感じる、英語の歴史と英語学習の関連は何だろう」

ここでご紹介する内容が薄く感じるかもしれませんが、授業の小ネタ集だと思ってもらえれば幸いです。

使われていくうちに変化した表現

英語にしても日本語にしても言語は変化します。身近なところで言うと、「ありがとう」だって「さようなら」だってほぼ原型を留めていませんね。オメー、キサマ、テメーなんて出だしはきっとたいそう丁寧な表現だったはず。「貴様」は室町時代末には目上の人に対する言葉でしたが、庶民の間で使われるようになると一気に劣化、江戸時代には目下の人に使われるようになったと言います。

助動詞のmustが元々過去形だったと言う程度の知識でしたが、実は意味の上でも推移しています。

「婉曲表現」は、使われていくうちに、婉曲性・丁寧さが薄れていくので、次々に新たな婉曲表現が必要になる。つまり、<許可>を意味したmustが次第に強い<義務・命令>をあらわすようになると、新たな許可表現としてmayが導入され、さらにmayが徐々に丁寧さを失うと、今度はcanが<許可>を意味する新たな婉曲表現として用いられるようになった。

「英語の歴史」p.130

意味の変化で言うと、先に述べた日本語にも通じるような気がして親しみが増します。can-may-mustは「ありえる、かもしれない、違いない」と暗記させますが、この経緯が分かると見え方が変わります。

取り残されちゃった表現

高校の助動詞のところで学ぶ表現に"He demanded that he go"と言うのがあります。shouldが落ちたと説明されがちなこの表現は仮定法現在と言い、アメリカに残っているけどイギリスではあまり使いません。ブラジルあたりで日本の昔の言い回しや盆踊りが日本より良い状態で残っていると言うのと似ていますね。

少し違うかもしれませんが、チャーチルがスピーチであえてフランス・ラテン語系の表現を避けて発したことで、聴く側はより力強さを感じたと言う話もありました。あえて古い英語「らしい」言い回しを使うことが時代背景にマッチしたのでしょう。

最近のものだと思われているけど昔もあった表現

アメリカの黒人の曲などを聴いているとよく耳にするのがmultiple negationまたはdouble negativeと呼ばれるもの。否定語を2つ使っているけどなぜか否定の強調になっているものです。ここにたくさん例があります。

I didn't steal nothing.だと、正しくはanythingですね。TOEFLなんかだと自信を持って間違いです!と言うこの表現も、古くはチョーサーやシェイクスピアが使っていたと言います。

フェミニズムの台頭で、男女が明確でない表現に対して今まで三人称単数形のheで受けていたものをtheyで代用する流れがあります。

Everyone loves their mother when they are a child.

「英語の歴史」p.184

中学校の英語のテストで書いたらXがつきそうですが、最近ではhe or sheではなくtheyを使うことがあるんです。

こちらも、実は16世期にあった表現だそうで、「クリスマスキャロル」などで有名なディケンズが使っていたそう。実は新しくなかったのかー。

文化的・政治的背景で新たに作られた表現

前述のtheyもそうですが、特にアメリカでは"Politically correct"と言うことが盛んに言われています。性差別や障害を持った人への差別的表現だとして多くの表現が変えられています。有名なところではFiremenがFirefighterになっていますね。

身体的特徴も差別にあたるとして-challengedをつけることがあるのですが、もはやここまで来るとどうでしょう?江藤は中学校の頃、自分はブスで太っていてチビだと思い込んでいたことがあります。今はちょっと年取っちゃったなーなんて。ではugly, fat, short, oldはどう表現できるでしょう。

aesthetically challenged
horizontally challenged
vertically challenged 
chronologically challenged

「英語の歴史」p.171

水平・垂直は最初分かりませんでした(笑)

変化の歴史を辿ると理解が進む

IELTSの作文では同じ語を繰り返して使うことがよくないとされます。類義語を一生懸命覚えた人もいるでしょう。例えば

ask -> inquire, interrogate
begin -> initiate
enough -> ample, sufficient

「英語の歴史」p.47

左が英語本来語、右がフランス語・ラテン語からの借用語です。これがあるから英語ってものすごく語彙数が多いのですが、歴史的な背景を知ると見方が変わります。何だか洗練された雰囲気♪

発音も英語って面倒ですが、「長母音の変化を見てみると、現代英語の綴り字は、むしろ大母音推移以前の発音を忠実に表していることがわか」るんです。(p.104) 少しだけですが、説明がつきます。ちなみに、nameは昔はnama
だったのですが、インドネシア語ではMy name is …はNama saya …と言います。人口語なので、もしかしたらオランダ語とか英語と関連があるのかと思って調べたら、実はサンスクリット nā́man に由来するそう。日本語もなまえだからみんな似ていますね。

さいごに

英語を学んでいるうちになんとなく身につけた程度の知識理解しかない状態でここまで来ましたが、一冊読み進めるとまた世界観が変わりました。どこまで行っても学びは自分を豊かにするものですね。そもそものきっかけとしては同僚から借りた一冊の本、そしてその同僚が授業で語源の話をよくされているので興味を持ったから。自分が尊敬できる先生が周りにたくさんいて幸せです。

さて、最後に大きな問いに戻るとすると答えは何でしょう?とりあえず今の答えは、どんな言葉にも背景があり歴史がある。いつか限界が来る単純暗記ではなく、文化・歴史・政治からの関連を意識し、面白がることでしょうか。答えになっていませんね。そして学びは、つづく。

オーガニックラーニングでは年間を通して様々な講座やワークショップをしています。いつかお会いできるのを楽しみにしています。


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