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映画『ふれる』

この映画には、観るまでにいくつかエピソードがあります。

まず、僕はこの映画の役者募集の記事を見つけ、応募していました。

しかし、待てど暮らせど連絡はなく、送信ミスは無かったかとメールを確認してみたりしつつ待ってみるも(返信が無いと不安でしかないのです)、撮影予定の時期になっていたので、「ダメだったか…」と涙で袖を濡らしていました。
(これについては後でエピソードがあります)

しかし、企画書に書かれていた内容も良く、本当に参加してみたい作品だったので、ずっと気になっていました。

時は経ち、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023での『繕い合う・こと』の上映で、知り合いの俳優の仁科かりんさんをご招待させていただいた。
(いや、めちゃくちゃいろいろな方をお誘いしたが、結局彼女だけが超忙しい中来てくださった。その節はありがとうございました。)

で、その帰り、「ぴあフィルムフェスティバルに出演した作品がノミネートしました」という話を聞き、家に帰って調べてみたら、見覚えのある監督の名前が…。応募した時の作品から題名が変わっていましたが、あらすじを読むと、「やっぱり応募した作品だ!」と驚きました。

正直、「なんだよ~!ちきしょ~!」と思いましたが(小さい人間ですんません…)、でも、「ちゃんと撮影して、完成させて、映画祭へのチャレンジもしていた」という事が、映画への向き合い方の丁寧さも感じました。

で、やっぱり、ずっと気になっていた作品なので、観てみたいと思い、会場に足を運んできました。


【あらすじ】
数年前に母を亡くした小学生の美咲。学校などで問題を起こし周囲を困らせていたが、陶芸工房で遊ぶうちに喜びを感じるようになっていく。


見始めて、すぐに感じたのが、映画の中で描かれる家族の距離感・空気感がとても自然である事。

「あ、これは一朝一夕で生み出したものじゃないな」と感じました。

僕は、最近「お父さん」役を演じる機会が多くなってきて、当日会った子役と親子を演じる難しさをめちゃくちゃ感じていたので、事前に時間を費やし、積み上げたものがある事がとても羨ましく感じました。

そして、仁科さん演じる美和が、美咲に「お母さんの席にお皿を置く」事を諭すシーンで、「あ、これ台詞決まってないやつだ」と気付く。

いや、PFFのHPの作品詳細の中の監督の紹介文に、

「脚本に出来事だけを書き、セリフは現場で即興で生み出すスタイル」

と書いてあるんだけど、監督の名前を発見した時の驚きで、そこまで見えてなかったので、知らずに見始めていました。

「台詞が活きている」という表現があります。
これは、書かれた台詞が素晴らしい時に言います。

でも、この作品では、台詞がそこに居る人間から発せられている。

「活きた台詞」には、もちろん考え抜かれた良さがあります。
「俳優の中から自然と出てきた台詞」には、俳優がその場で感じて、心が動いたから出てきた良さがあると思います。

そのどちらにも共通して言える演じる時に大事な事が、自分の台詞(言葉)で「相手をどう導くか、どう説得するか、どう動かすか」という事があります。

これができている役者とそうでない役者は、セリフを聞けばすぐに分かります。

これを全く考えずに、自分で考えたニュアンスで台詞を言ってしまうと、
いわゆる「ニュアンス芝居」になってしまい、観るに耐えないものになってしまいます。

この作品に出てくる大人たちは、みんな「どう伝えようかな」というリアルな逡巡が垣間見えて、とても人間らしくて、またそれが余計な芝居臭さを排除し、「ただ伝えよう」という事にフォーカスして、そこに存在している事がとても良かったです。

また、それを受ける美咲役の鈴木唯さんも素晴らしく、「そこに存在する」事の出来る俳優でした。

姉の美和を演じた仁科さんの演技も良かったです。
何度か、彼女のお芝居は観た事がありますが、その中でも1番良かったです。

監督も、それによって美和のシーンを追加したそうですが、周りの人のエピソードが増える事は、メインの人物の周りの人はこんな事に悩み、考え、感じている人で、そんな人達と話したり、支えられたり、影響を受けているという事が分かって、結果、主人公の輪郭も際立つと思っています。

仁科さんは、オーディションでいまだにある「自分を一言で言い表すと?」という問いが苦手と言っていましたが、「一言」が難しいだけで、彼女はきちんと自分の言葉を持っている人です。
(そこんとこ分かってあげてよ、オーディションする側のみなさん!)

そんな周りの人の優しさの中で、主人公の美咲は、いろいろなものに「ふれる」事で、自分と自分の外側を再確認して、少しづつ失ったものを埋めていっているかのように見えます。

大事件は起きないけど、小さなものが一つ一つ積みあがる過程を丁寧に捉えている感じがしました。

途中、録音部さんの映り込みがあるのはご愛嬌という事で笑

また一つ、自分が出演していない事が悔しく感じる作品に出会いました。

そういえば、映画祭期間中に会場で観ようと思っていましたが、2回あった上映は都合が合わずに行かれなくて、たまたま仕事がバレて23日の午前中に行かれる事になったけど、運良くと言うとアレですが、今作が準グランプリに選ばれた事で(おめでとうございます!)、23日の午前中に上映される事になって、思いがけず会場で観られる事になったという奇跡がありました。

で、雨の影響もあって、恐らくですが、本上映の時より少し人は少なめだったのかなという印象でした。それでも、監督に話し掛けるのには勇気がいるもので、「応募したけど覚えてないだろうなぁ、でも、だったら失うものもないから『実は応募してたんです』っていうのを話のきっかけにしようかなぁ。でもなぁ…」とかウダウダ考えて、しばし思考がループ。

でも、「ここまで来て、話し掛けなかったら後悔する!」と意を決して話し掛けたら、「覚えています」との返事が。

マジか!

しかも、「監督もされていますよね? 作品を観た事があります」と。

マジすか!!

「撮影で本当に大変で、返信できなくてすみませんでした…」とも。

分かります、それ。

そこから正味5分くらいだけだったかもしれませんが、作品の感想を伝えたり、撮影の前の稽古の話などを聞いたり、少しでも話す事ができて本当に良かったです。

いや~、勇気だして話し掛けてみて良かった。
なんだか、すごく「頑張ろう」という気持ちになりました。

作品は、京都でも上映されますし、まだ配信でも観れますので、ご興味ある方はご覧になってみて下さい。

配信期間:9/9(土)12:00~10/31(火)

で、午後からの試写会へと向かいました。

その話はまた。



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