おひとりさまサルサ
ひとりの時間、というものは昔からずっと私の味方だった。
ひとり自室にこもって好き勝手にインターネットを見たり音楽を作ったり、誰もいないリビングで惰性でテレビを見たり(なんでああいうときのワイドショーってあんなに面白くて、見終わった途端気怠くなるのでしょうね)、一緒に帰っていた友達とじゃあねと言って別れた後寄り道したり。
大人になってもそれは続いている。
1人で黙々と進める作業は大好きだし、出張の際にチームで一日中過ごした後明日の工程を確認してからビジネスホテルで1人になる瞬間の開放感や、人との帰り道が途中で別れた後スマホをいじるときのえもいわれぬ安心感に近い喜び。ヤバい清少納言みたいなこと言うとる。
最近もそんなことがあった。夫がたまたま彼の友人との食事のために不在にしていた夜、私は自分のために大量のサルサを作った。
トマトと玉ねぎとパクチーをみじん切りにして香り高いオリーブオイルでぐるりと和えて、レモンをぐいぐい絞って、荒い塩をぱらり、好みのスパイスだって入れちゃう。サルサというか、サルサ風サラダか?ああそんなことどうだっていい。みずみずしくて美味しいものがある地球を愛している!そうしてゆっくり食べるのだ。
そばに人がいるならできるだけあらゆる事物を一緒に楽しみたいので、普段は夫が苦手なトマトもパクチーもあまり食卓に上らない。しかし私はそのどちらも、ましてサルサソースが心の底から大好きなのだ!なのでこの日いないよ〜と言われた瞬間からこうしてモリモリいくことを心に決めていた。毎回目が覚めるほど美味しいのすごいなと思う。
そうやってひとしきりおひとりさまを楽しんで、ふと、しんと静かなリビングで気がつくのだ。
私はひとりは好きだけど、孤独はきっと向いていない。
昔、金沢に一人旅をしたことがある。その当時長らく彼氏もいなくて、家族も友達も忙しくて、でも金沢には行ってみたくて、試しに1人で赴いてみたのだ。金沢は素晴らしい場所だし今も大好きで時々訪れる。けど、どこまでも自由であると同時に、美味しいものを食べたときに美味しいね、と言い合うひとがいないことはこんなにももどかしいのかと自覚する機会でもあった。過去にひとりでニューヨークに行った時はこんなふうに感じなかったのに、と思ったが、言葉の通じる場所だと余計に様々な情報や周りの声が私のひとり加減を際立たせるのだとわかった。金沢というのはみんなそれぞれの大切な人と来る場所なんだなぁ、と思って、愛しく寂しかった。
思い返せば、私の愛するひとり、というのは、必ず「元々いる/いつか帰ってくる誰かの不在」であって「ひとりぼっち」ではなかった。ひとり旅をしてそのことを痛感したし、経験がないがきっと一人暮らしはあんまり向かないだろうと思う。
寂しくないけどひとり、という贅沢品は、そばにいてくれる誰かの存在があってこそなのだなぁと、サルサを平らげた頃帰ってきた夫の顔を見て思うのであった。無事に帰ってきてくれてありがとう、おかえりなさい。サルサはしばらく、またね。
サルサ、大好き。
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