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舞台 「ウィークエンド」 観劇レビュー 2024/05/22


写真引用元:画餅 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「ウィークエンド」
劇場:下北沢 小劇場B1
劇団・企画:画餅
作・演出:神谷圭介とチーム画餅
出演:神谷圭介、浅野千鶴、生実慧、加藤美佐江、東宮綾音、長沼航
公演期間:5/21〜5/26(東京)
上演時間:約1時間30分(途中休憩なし)
作品キーワード:オムニバス、コメディ、コント、オカルト、SF、青春
個人満足度:★★★☆☆☆☆☆☆☆


お笑いコントグループ「テニスコート」の神谷圭介さんが主宰する演劇ユニット「画餅」の4回目の新作公演を観劇。
「画餅」の公演は、2回目の新作公演となった『ホリデイ』(2023年1月)を観劇しており、私自身は今回が2度目の観劇となる。

「画餅」の公演は、毎度1公演につきオムニバス形式で短編のショートドラマが数本上演される構成を持っており、今回の上演でも4本の短編作品が上演された。
今作のテーマは『ウィークエンド』(週末)というタイトルにもあるように"週末"に繰り広げられる日常劇となっており、そこに"終末"感も織り込まれていて普段の「画餅」の公演とは少し毛色が異なって、よりオカルト的でSFっぽさも感じられる作品に仕上がっていた。

上演は、4人の美術教室(もしくは美大や美術の専門学校)に通う4人の生徒が成田陽介(神谷圭介)という先生の元で鉛筆画を描いているシーンから始まる。
4人の生徒たちはまだ互いに打ち解けられておらず緊張感がある。
それを感じて陽介は、明日はみんなでスポッチャに行こうと提案する。
しかし翌日、陽介が教室を訪れると生徒は一人もやって来なかった。
陽介の妻である成田典子(浅野千鶴)がやってきて何があったのかと陽介に問いかけるが、陽介は自分がスポッチャに行こうと提案したせいで生徒が一人も来なかったのだと答える。
陽介は、こうなったら一人でスポッチャに行ってやると意気込むが...というもの。

このストーリーに続けて、残り3つの短編作品が展開される。
先述した通り、このスポッチャのストーリーだけでなく他の3作品も週末にありそうな出来事だったり、オカルト的やSFらしくて終末っぽさを醸し出す短編になっていた。
私は過去に『ホリデイ』しか「画餅」の作品を観ていないが、それでも今作はだいぶ今までの作風とは異なって挑戦的な作品に仕上げてきている感じを受けた。
それを強く感じた理由は2つあって、一つはコメディ作品なのだけれど、面白いという感情だけに終始する作品にはなっていなかったこと。
先ほどのオカルトっぽさ、SFらしさとも通じるが、シャッポさんの怪しげな音楽の曲調も相まって、どこか気味が悪い、ドキドキワクワクするといった感情も掻き立てられた点が過去作と大きく異なっていると感じた。

もう一つは、非常に現代的なテーマをストーリーに盛り込んでいたという点。
先ほどの鉛筆画の教室で言うと、今の若者が飲み会や遊びなどの仕事以外の上司の提案を受け入れないという傾向だったり、この後の短編作品に登場した男性も育児や家族のことを考えて積極的に行動していくといった現代的な価値観や、DVを想起させる描写も登場していた。
そういう現代的な思想や事象を意図的に入れるといった感じは、少なくとも私が以前観た『ホリデイ』には登場しなかったので、「画餅」の新たなる挑戦だと感じた。

ただ、そういった現代的でセンシティブな描写を扱うからこそ、笑いの誘い方に関しては首を傾げる点も多々あった。
特に、少しネタバレしてしまうと授乳教室のシーンに関するコメディネタは方向性としていかがなものかと強く感じた。
確かに客席からは笑いは起きていたが、私は少なくとも笑えなかったし、周囲の若い女性客たちもあまり笑っていないように感じた。
新たな試みに挑戦するのは良いと思うが、コメディ作品を扱う上で現代的な価値観や思想を取り入れる際の配慮は必要だと感じた。
授乳というセンシティブなシーンに対して、それがフェチである男性を面白おかしく描写するのは男性である私でも不快だなと感じたし、きっと女性は尚更そう感じるのではと思った。

役者陣は皆非常に素晴らしかった。
特に、東宮綾音さんの現代的な若い女性の役はとても素晴らしかった。
性格も凄く真っ直ぐで、長沼航さん演じるちょっと大丈夫?という男性についてくるピュアな女性らしさも凄く魅力的で惹かれてしまう。
あとは、男性だか女性だか分からないちょっと特殊なキャラクターを多くの短編で演じ切れる加藤美佐江さんも素晴らしかった。
加藤さんにしか出来ないキャラクター性を「画餅」の持ち味であるジワジワ可笑しい感じにぴったりハマるように演じていて配役的にも演技力的にも素晴らしかった。

新たな挑戦は良いのだけれど、脚本と演出の方向性に関しては違和感を感じざるを得なかったが、『ホリデイ』で神谷さんのポテンシャルを感じた私は、これからも「画餅」の活躍を応援していきたいと思う。
劇場前売りは完売だと思われるが、6月30日から配信が開始される予定なので、気になる方は配信で見て頂きたい。

写真引用元:ステージナタリー 画餅 第4回公演「ウィークエンド」より。(撮影:南阿沙美)



【鑑賞動機】

「画餅」の第2回公演である『ホリデイ』(2023年1月)を観劇して「画餅」と神谷さんが手掛ける作品が好きになったから。そして神谷さん自身の演技も非常に好きだったから。
第3回公演の『モーニング』は観られなかったが、『ウィークエンド』は都合がついたので観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

ステージには4つのイーゼルが四角形に向き合うような形で置かれている。

#1
暗転して4人の生徒(生実慧、長沼航、加藤美佐江、東宮綾音)と成田陽介(神谷圭介)が登場する。生徒たちは鉛筆画をイーゼルを使って描いている。陽介は4人の生徒の先生らしく、彼らが描いている絵画を見ながら教えている。しかし、4人の生徒たちはあまり打ち解けられていないようで陽介とあまりコミュニケーションを取ろうとしていないようで黙々と描いている。そこで陽介は、4人の生徒たちにカラオケとボーリングどちらが好きかと尋ねる。一人の生徒がどちらでも良いですと答える。すると陽介は、では明日はスポッチャに行こうと言う。明日は親に帰りが遅くなるように伝えておけよと。今日の絵画の時間は終わり、生徒たちは帰宅していく。
次の日、絵画教室には生徒たちは一人も現れず、陽介だけが教室に来た。陽介は呆然とする。そこへ陽介の妻の成田典子(浅野千鶴)が現れる。どうしたの?と典子は尋ねると、陽介は事情を話す。昨日生徒たちにスポッチャに行こうと誘ったが、今日は一人も生徒が現れなかったと。きっとどの生徒もスポッチャに行くことに乗り気でなく、きっと誰かが行くだろうと考えて今日は休んだのだろうと、その結果全員が欠席してしまったと。
陽介は、こうなったら一人でスポッチャに行くと言う。典子は、それではただ陽介がスポッチャに行きたいだけの人じゃないかと突っ込む。陽介は、一人でこの後スポッチャに行くことで、自分が休んだことによって相手にそういう思いをさせているんだと分からせたいのだと言う。
典子は、では私もスポッチャに行きたいスポッチャデートと言って、陽介の肩にもたれ掛かる。陽介はそれは違うと言う。それこそ、ただスポッチャに行きたいだけの人じゃないかと言う。今日は一人で行ってくると言う。

照明が切り替わり、音楽が流れて陽介はボーリングをするジェスチャーを取ったり、ダーツを投げるジェスチャーを取る。

#2
男(長沼航)がご飯を盛ったお茶碗を持って跪いている。そこへ女(東宮綾音)がやってくる。女もご飯の盛られたお茶碗を持っている。二人はどうやら、朝早くから海鮮市場に来てご飯に海鮮を乗っけて食べようとしていたが、海鮮市場のお店が閉店しているらしく、男が呆然としていた。
男は女に土下座をする勢いで謝る。旅行先で朝早くに来たのに店がやっていなくてリサーチ不足でゴメンと。女は、そこまで土下座しなくても大丈夫だと男を慰める。
女は、お茶碗に盛られたご飯はあるから、近くのコンビニで卵でも買ってTKGにしようと提案する。しかし男は、その発想を拒む。折角、ご飯の上に海鮮を乗っけるというイマジネーションまでして来たのに、それをTKGにしたら台無しになると強い口調になる。男は続けて女に対して、TKGでも良いと言うことは海鮮をそこまで楽しみにしていなかったのかと追及する。女は、そんなことないと否定し、でもお店がやってなかった仕方ないでしょと言う。

男と女は椅子に座っている。男は、今から男が尊敬している作家の藤村に会えるから楽しみにしていてと言う。男は続けて藤村の説明をする。藤村は、家族を路頭に迷わせた後に奇跡を起こして成功したのだと言う。
女は、その男の発言に突っ込む。家族を路頭に迷わせてとは何だと。家族を路頭に迷わせずに成功する道はなかったのかと。
吉田(生実慧)がやってくる。吉田は藤村の弟子のようである。吉田自身も7年前は出版社に勤めていて今では、ここで藤村の元で働いているのだと。吉田は、今から藤村を呼んでくると言って去る。
藤村(加藤美佐江)がやってきて二人の男女の前に座る。男が、その奇跡のことについて色々ヒアリングする。最初は、藤村は吉田の耳元でヒソヒソ囁いて吉田が代弁していたが、途中から物凄い声量で藤村は自身で話すようになる。
藤村はこう語る。藤村は家族と離別した後にある時、光を放つ銀色の物体を見たのだと言う。藤村は、近くにいた欧米人女性とその銀色の物体に乗ると、中には沢山の外国人がいたと言う。しばらくしてから、藤村はその欧米人女性から連絡をもらい、彼女と再会して抱きしめ合ったのだと言う。
その話を聞いて、男は愕然とする。
帰りの飛行機の中で、先ほどの男女が二人で話している。男は、まさか藤村があんな男だとは思わなかった、自分のリサーチ不足でゴメンと言う。吉田の7年前に働いていた出版社は「ムー」だったしと。しかし女は、そんな想定外の出会いも含めて非常に楽しい旅行だった、ありがとうと胸を踊らせるのだった。

#3
村井晋太郎(神谷圭介)の前に、永積(生実慧)がいる。永積の話からどうやら彼は晋太郎が開いている教室を辞めることにするらしい。しかし、永積の話には、この教室の参加は来週までは参加したいそうで、最後に貯める理由を自分から話すと言う。来週まで永積が教室に参加することに対して晋太郎は驚いた様子であった。
晋太郎は自宅に帰宅する。妻の村井佳奈(浅野千鶴)が彼を迎えると、晋太郎は早速先ほどのことについて佳奈に語る。晋太郎は授乳教室の講師をやっており、永積のことは妻と一緒ではなく男性のみで参加して熱心にメモなどを取っていたので、今までは高評価だった。男性で育児に熱心なのことは素晴らしいと感じていたから。しかし、この前の永積の話だと、実は授乳フェチで実際は結婚もしていなかったのだと言う。それなのに、来週も授乳教室に参加するのだと。
佳奈もその話を聞いて驚く。辞めるときには永積は、事情まで皆の前で話すなんて大丈夫なのかと。
場転して、永積は柴田千秋(東宮綾音)という中学時代の同級生に出会う。柴田は久しぶりと永積と会話を交わし、柴田は見ての通り赤子を連れていた。永積は自分にも子供がいると嘘をつき、柴田はびっくりして同じだねと言う。柴田は何ヶ月かと色々聞いてこようとしたが、永積はこの年でもう子供って珍しいねと言う。
いよいよ永積が参加する最後の授乳教室の日になる。晋太郎と三人の母(加藤美佐江、加藤美菜、内藤ゆき)が現れた後、最後に永積が現れる。晋太郎は今日の授乳教室を始める前に、永積から伝えたいことがあるからと永積に話を振る。永積は立ち上がって喋ろうとした時、遅れて柴田がやってくる。今日から授乳教室に参加する者だと言う。柴田は永積がいることに気がつきびっくりする。
晋太郎が永積に話すことを続けるかと問うが、永積は話すと言って、自分が授乳フェチであることを打ち明け、今日で教室を去ることを告げる。周囲の母たちは驚く。永積が教室から去っていくと、その後を柴田が追いかける。
その後永積と柴田は結ばれたのだと言う。

#4
一つのテーブルを囲うように、エリック(長沼航)とサキ(東宮綾音)、そして男1(神谷圭介)と女1(浅野千鶴)、男2(生実慧)と女2(加藤美佐江)が酒を飲んでいた。エリックは小説を書いており、サキは絵描きであったが、二人ともそれで生計を立てている訳ではなく、趣味の範囲であわよくば売れたいと言う思いでやっていそうであった。
男2と女2の二人はソノダという夫妻だが、ソノダ夫人の手のひらには黒い点があった。これはもしかしたらDVを受けているのではないかとエリックは推察する。
サキは絵を描いていた。エリックは誰を描いているのかと尋ねると、サキが働くスーパーのレジ担当で私といつも交代する人(加藤美佐江)だと言い、一言も喋ったことはないと話す。その交代のレジ担当の人は、他の従業員に尋ねても男性なのか女性なのか分からずにいた。
ある日、サキはそのレジ担当の人を尾行することになった。もちろん、敢えて尾行しようと思ったのではなく、サキがルンバのようなアイロボットのようなお掃除ロボットを尾行していたら偶然尾行することになった。お掃除ロボットの先にレジ担当の人がいたから。レジ担当の人は、どこかの部屋に入っていく。そこには無数のお掃除ロボットがいた。そしてその部屋にたどり着くとこう言った。「時は来た!」と。
そんなSFの脚本だったら面白そうとエリックは想像力を膨らませる。
レジ担当の人は部屋から出てくると、額には大きな黒い点があった。サキは、きっとレジ担当の人はその黒い点に体を支配されているのだと言う。
その後、レジ担当は忍者に変身して戦う。その忍者の姿を見て二人は、ソノダ夫人?と思う。
エリックとサキは、二人で海鮮を食べに行きたいという話をして上演は終了する。

4つのオムニバス作品は、今回は少し関連する部分もあったかなという程度で、明確に繋がっている感じはなかった。#4の最後に、エリックとサキが海鮮を食べに行きたいという話をしていたのは、#2の男女が海鮮市場に行こうとしていたことと関連しているのかなと思ったし、#1と#3で神谷さん演じる先生の役が共通していたくらいだった。『ホリデイ』では各短編がもっと繋がりを持っていたので、今作でももっと関連を持たせてくれるとまた面白さが増したのかなと感じた。
#4の物語に関しては、「画餅」としてはかなり新たな挑戦だったのかなと感じた。描かれている描写がサキの見た事実なのか、それともエリックが書いている小説なのか、「画餅」で初めてナンセンスらしさを感じた脚本だった。
また、授乳教室に男性が参加するといったイクメン的な描写や、DVといった描写もあることから現代的なテーマも多く見受けられる点も目新しさを感じたが、それをどこまでコメディとして扱うべきかは難しいものがあるなと感じた。人によっては単純にコメディ作品として面白いと感じるかもしれないが、ある人によっては授乳フェチを笑いのネタにすることに抵抗を感じると思った、少なくとも自分は抵抗を感じた。
あとは個人的には、「画餅」なのでもう少し爆笑できるシーンや描写があって欲しい気持ちはあった。意図的に今作は新たな試みとして面白いという感情だけではない、他の感情も引き出す作品作りは感じられて、それはそれで良いが、もっとどっと笑いが取れるシーンも欲しかったと感じた。

写真引用元:ステージナタリー 画餅 第4回公演「ウィークエンド」より。(撮影:南阿沙美)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

『ウィークエンド』というタイトルにもあるように、今作は"週末"と"終末"感をダブルミーニング的に織り交ぜて、週末に起こりそうな日常をオカルト的でSFらしい作品に仕上がっていた点が、過去の「画餅」作品と大きく異なっていた演出で目を引いた。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。下北沢小劇場B1の劇場の客席自体が、ステージに対してくの字にセットされているので、どのブロックから観劇するかで舞台の感じも全く異なってくるようになっている。
#1では、ステージに4つのイーゼルが四角形を描くように並べられているというシンプルなセットである。それだけでもシュールで雰囲気が伝わってくるので面白いと感じた。#2でも、海鮮市場のシーンでは素舞台で、藤村と会うシーンや飛行機のシーンでは椅子しか登場しない。非常にシンプルなセットだった。
また、#3でも授乳教室のための椅子が円形に並べられているだけだったり、#4ではステージ中央に四角いテーブルと複数の椅子が置かれているだけのシンプルなセットだった。
このシンプルな舞台セットは、過去作の『ホリデイ』でもそうだったが、オムニバス形式で様々なシーンを描くために、場転でセットの移動をスムーズにしたいからこういう形式なのだろうなと感じた。コントに近い、といっても今作はコントというより演劇作品といった感じでコメディ要素もだいぶ薄くなっていたが、これはこれで独特の味があるなと思った。

次に舞台照明について。
私個人的に「画餅」の舞台照明は好きである。ちょっとカラフルな感じの舞台照明が良い。今回も、緑色の照明や黄色の照明など全く異なる色彩の照明が同時に照らされていて、「画餅」のグッズやフライヤーがいつもカラフルなのもあって、ユニットの色を上手く出しているように思えた。
また、今作では#4で使われる照明が若干紫色っぽい色が強い感じがして、オカルト的、SF的な雰囲気がよく伝わった。

次に舞台音響について。
結構大々的にシャッポさんの音楽を使いますと宣伝されていたので、個人的にはもっと音楽劇要素も強いのかなと思ったがそこまでではなかった。オープニングがガッツリあるとか、エンディングがガッツリあるとかそういう感じではなく、場面転換で良い感じに音楽が流れていた。
曲調も、今作がオカルトやSFがテーマなので、ちょっと気味が悪い感じの、でもホラーとかには全くならなくてコメディであることは伝わってくるような、そんな音楽だったように感じた。

最後にその他演出について。
これは、『ホリデイ』でも感じられたことなのだが、「画餅」の作品はいつも"青春"の味も感じさせてくれるから、若い客層にも刺さるのかなと感じた。今作でも、成田陽介、成田典子の夫婦や、海鮮市場に旅行に行く男女、エリックとサキなどカップルの描写が非常に多く、特に長沼さんと東宮さんが演じるカップルには初々しい描写があるからこそ、ちょっとラブストーリー的な要素を感じさせてくれて非常に好きである。そしてまた東宮さんが非常にピュアで真っ直ぐな女性の役だからこそキュンとさせられる。
先述した通り、今作で初めて登場する感情要素としてはオカルト的な気味の悪さとSF的な終末感。藤村が話すストーリーはUFOにさらわれた感じを受けてドキドキワクワクさせられるし、サキが話す謎のスーパーのレジ担当の店員については、どこかSFを想起させられて興奮する。これは『ホリデイ』にはなかった要素だが、エスニックな感じを過去作品でも感じていた「画餅」の作風だったので、非常に親和性はあるのだなと感じた。
今作を感じてより一層感じたことなのだが、「画餅」の作品はどこか色々な種類の味が入っているカラフルなお菓子を食べているような、そんな演劇だなと感じた。今作では、コメディとして「笑える」という感情がベースにありつつも、青春の甘酸っぱさを感じたり、オカルト的な気味の悪さや、SF的なワクワクを感じたりと様々な感情を掻き立ててくれる。「画餅」の作品のフライヤーやグッズ、舞台照明がいつもカラフルなのも相まって、非常に一つの作品の中で様々な感情と色に出会える感じが、どこか色々な種類の味と色が入っているお菓子を食べている感じに近くて良いなと思った。

写真引用元:ステージナタリー 画餅 第4回公演「ウィークエンド」より。(撮影:南阿沙美)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

出演者は全員演技が素晴らしく、役もハマっていた。今作の役者の演技力は過去に観た『ホリデイ』以上に良かった気がした。
特に印象に残った役者について見ていく。

まずは、#1では成田陽介、#3では村井晋太郎を演じた神谷圭介さん。神谷さんの演技は、画餅『ホリデイ』(2023年1月)、『世界は笑う』(2022年8月)などで演技を拝見したことがある。
今作でも、絶妙な演技をする神谷さんが非常に役としてハマっていて素晴らしかった。ちょっとなよっとしていて、優しい人なのだけれど照れくさそうにしている感じが凄く上手かった。あの絶妙な神谷さんの表情を見ているのが個人的には堪らなく好きである。
#1で、神谷さん演じる成田陽介が生徒たちに必死に優しく働きかけるも裏面に出たり、#3の授乳教室で永積の突然の告白で動揺する感じも凄く穏やかで優しい男性という感じがあってキャラクター的に好きだった。

今作で一番印象に残った俳優さんは、#2で女を、#3で柴田千秋を、#4でサキを演じた東宮綾音さん。東宮さんの演技を拝見するのは初めて。
まず第一印象は、非常に清楚で透明感があって素敵な女優さんだなと感じた。だからこそ、今作のようなピュアな女性がハマっていた。
#2で、男が藤村のことを家族を路頭に迷わせてと言った所に引っかかったりする辺りに、優しい女性らしさを感じるし、男はリサーチ不足で失敗ばかりなのに、そんなトラブルも含めて旅行が楽しかったと言っている彼女を見て、なんて心優しい彼女なんだと感じていた。あまりにも良い子過ぎてびっくりしたが、東宮さんが演じるからこそそれが良かったのかなと思った。
#4のサキ役では、エリックのSF作品のストーリーテーラーになっていて、それがまた良かった。彼女がSF的な不思議な話をすると、どこか魅力的に感じて引き込まれる部分があるなと思った。
東宮さんは調べたら、あまり演劇での出演履歴はなくて、演技も非常に上手いのだし、どんどん舞台等で活躍してほしいなと感じた。あとはサキ役でも感じたがモノローグも上手いので、どんどん挑戦的な役に挑んでいって欲しいなと思った。

あとは、#2で藤村を、#4でスーパーのレジ担当を演じた加藤美佐江さんも素晴らしかった。加藤さんの演技を拝見するのも初めて。
加藤さんは、あの個性を活かした演技というのが素晴らしかった。まずは#2の藤村の演技では、いかにも変人といった感じの藤村の役が凄く面白かった。ああいう演出って神谷さんが指示出しするのだろうか、それとも加藤さん自身が考えて持ってくるのだろうか、気になったがとても素晴らしかった。加藤さん出ないと出せない迫力とオーラだったと思う。
#4のスーパーのレジ担当の役にしても、「時は来た!」の迫力は半端なかったし、忍者のパフォーマンスも加藤さんだからこそ映える演出になっていて良かった。今作の作風は、オカルト性やSFだったが、割とその要素を加藤さんの演技が作っている部分もあって、非常にそういった作風に似合う俳優さんなんだなと感じた。

写真引用元:ステージナタリー 画餅 第4回公演「ウィークエンド」より。(撮影:南阿沙美)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、今作で描かれている現代的なテーマについて考察していこうと思う。

私は先ほど、4つのオムニバス作品であまり繋がりがないと評したが、敢えて繋がりや関連をあげようとするならば、全ての短編に現代的なテーマが描かれているということだと感じている。
ここでいう現代的なテーマというのは、弱い立場やハンデを持っている立場がそうでない立場から虐げられていることに対して疑問を呈するということかなと思う。
#1では、美術教室の先生の成田洋介が、先生という強い立場を使って生徒たちをスポッチャに連れていこうとしたが、それを生徒たちは直接断ることはできず、欠席することになったという描写である。
#2では、藤村が家族を路頭に迷わせて奇跡を起こしたというエピソードに対して、女が家族を路頭に迷わせたことに対して疑問を感じた描写があった。
また#3では、授乳教室に男性が参加するというイクメン的な描写があったが、実は授乳フェチであることを告白して教室を去るという描写があった。授乳教室に参加していた女性たちにとっては、永積のフェチに付き合わされ犯されていたと捉えることが出来ると思う。
#4では、ソノダと名乗る夫人の手のひらに黒い点があり、DVのサインなのではないかという描写があった。
このように、全てのオムニバスに犯される描写があり、それに対して登場人物の誰かが疑問視する構造が見て取れる。社会的に弱い立場になる人々が虐げられないように配慮する社会というのは、非常に現代的で求められることだし、「画餅」は日常を描く作風なのでそう言った描写を取り入れるのは凄く真っ当な気がする。

#3の授乳教室については、授乳教室自体は存在するが、なかなか男性がそこに入るというのは聞いたことがないため、授乳教室で授乳フェチが盗撮するみたいなことはネットで調べても見当たらなかった。しかし、授乳フェチ自体は存在するフェチなので、育児に熱心な男性と偽って入り込んで来るという事件は今後可能性としては起きるかもしれない。
私は、授乳教室の存在は知っていても、授乳フェチというフェチがあることは知らなかったので、今作を通じて新たな知識が増えたと感じている。
また、#4では、手のひらに黒い点が見られるというのがDVの兆候かもしれないということについても初耳だった。劇中では、黒い点はDVの兆候かもしれないが、それがあることによってDVを受けているとSOSを出していると先にDVする側にバレてしまうので真相はどうなのかという描写があったが、そういう事実があるということを知れたのは凄く良かったし勉強になった。

しかし、やはり「画餅」はコメディ作品なので、それがコメディ芝居の一エッセンスとしてネタとして消費されてしまう点に違和感を感じたし、不快にも感じられた。
授乳フェチを劇中で登場させる意義は何か、DVを劇中で登場させる意義は何か、それは今作からは私には分からなかった。そういった事象を劇に登場させるのであれば、それを踏まえた上で何か伝えたいことがないと、ただただネタとして使われただけになってしまっていて、それはコメディ作品としてはどうなのかなと感じた。
授乳フェチに関しては、そもそも授乳フェチという気持ち悪さを直接的にコメディに変換させて笑いを取っていたので、それはやはり聞く人からすると不快に思うし笑えないのではと感じる。
また、手のひらの黒い点によるDVに関する描写は、そのこと自体を直接コメディとしては扱っていなかったが、なぜそのエッセンスを劇中に登場させたのか、その必然性は何かは分からなかったので、やはり消化不良だった。

現代的なテーマを扱うという新たな試みは良いのだが、そう言ったテーマを扱うことによってどういったことを伝えたいのか、その先が伝わってこなくて、だからこそセンシティブな内容が軽率にネタとして扱われている感じに違和感を抱いたので、そこを磨くことによってより良い作品作りに向かうのではないかと私は感じた。

写真引用元:ステージナタリー 画餅 第4回公演「ウィークエンド」より。(撮影:南阿沙美)


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