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舞台 「地上の骨」 観劇レビュー 2023/09/02


写真引用元:劇団アンパサンド 公式Twitter


写真引用元:劇団アンパサンド 公式Twitter


公演タイトル:「地上の骨」
劇場:三鷹市芸術文化センター 星のホール
劇団・企画:劇団アンパサンド
作・演出:安藤奎
出演:黒田大輔、島田桃依、篠崎大悟、安藤輪子、西田麻耶、安藤奎
期間:9/1〜9/10(東京)
上演時間:約1時間20分(途中休憩なし)
作品キーワード:会話劇、パニック、コメディ、ホラー、笑える
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


若手劇団の登竜門となっている、三鷹市芸術文化センターで演劇企画をされている森元隆樹さんによるオリジナル事業「MITAKA "Next" Selection」による公演を観劇。
「MITAKA "Next" Selection」は毎年2〜4団体が選出されて、三鷹市芸術文化センター星のホールで公演が上演されている。
過去には、このフェスティバルから「ポツドール」「モダンスイマーズ」「ままごと」「iaku」「東京夜光」などが選出され公演を行っている。
今年で「MITAKA "Next" Selection」は24回目の開催となり、安藤奎さんが主宰する「劇団アンパサンド」と菊地穂波さんが主宰する「排気口」が選出され、今回は「劇団アンパサンド」の新作公演を観劇した。
「劇団アンパサンド」は、主宰の安藤奎さんが作演出を担当し、劇団員はその他に俳優の菅原雪さんと俳優・小道具制作の深見由真さんが所属している劇団である。
私自身、当劇団の公演の観劇は初めてである。

物語は、とある中小企業のオフィスが舞台の会話劇。
ミヤビ(安藤輪子)はその会社の契約社員で一番年が若く新人であるようだった。クライアントから電話がかかってきて、急ぎ納品しなければいけないデータを準備しないといけない。
そんな中、上司の安河内(黒田大輔)は自分が作った魚の佃煮を振る舞おうとするが、ミヤビはカロリーメイトを食べた上、今日は地元から父が東京に来ていて夕飯を一緒に食べるので食べないと言う。
こうして、ミヤビ以外の社員は安河内の作った魚の佃煮を食べるのだが、それがとんでもない事件に繋がってしまうというもの。

ネタバレになってしまうので、その後の展開は冒頭では記載出来ないが、そのとある事件が起きるまでは普通の日常会話劇で、個人的には若干乗り切れない箇所もあった。
ごくごく普通のオフィスの日常の会話がやや滑稽に描かれるので、こういう人いるなあと思いながら観ていて、そこに何か捻りがあるかというとそうでもなかったので、正直後半でここからどう面白くなるのか首を傾げながら観ていた。

しかし、後半のとある事件が起きてからは大爆笑だった。
B級映画のようなパニックものの作品を小劇場で演劇として観ている感覚だった。
これが「劇団アンパサンド」の安藤さんワールドなのかと堪能した。
そして大爆笑出来る、パニックものであるというだけでなく、前半の日常会話もどこか伏線になっていて、それらを考慮するとなかなか恐ろしい展開だなと色々最後は深く考えさせられる脚本構成も見事だった。

そして役者の方々も皆芝居が上手くて、パニックものなので何かに全力で怯える、怖がる演技が素晴らしかった。
6人の役者が登場するが、どの方も演技に迫力があって個性もあって、そういった部分が今作を演劇として見せる一つの醍醐味でもあるなと感じた。

今年(2023年)の4月に安藤奎さんの作演出で上演された、爍綽とvol.1『デンジャラス・ドア』をテレビプロデューサーの佐久間宣行さんが絶賛していて、安藤さんはたしかに演劇創作者として腕のある方なのだなとこの目で確かめることが出来た。
ナンセンスコメディかといわれるとちょっと違う、ブラックユーモアかと言われるとちょっと違う、B級パニックコメディと表したら良いのだろうか、とにかく私も上手く形容することが出来ないくらい新鮮で唯一無二の演劇作品を多くの方に堪能してほしい。
特にコメディが好きな方には強くお勧めしたい。

写真引用元:ステージナタリー MITAKA “Next” Selection 24th 劇団アンパサンド「地上の骨」より。




【鑑賞動機】

「MITAKA "Next" Selection」だからというのもあるが、多くの演劇業界の方が大注目の劇団で、よく最近では耳にしていたから。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

とある都内にある小さめの会社のオフィス。電話が鳴り響き、契約社員のミヤビ(安藤輪子)が電話を取る。電話の内容は、どうやら納期が月曜日だったデータの納品を催促されているような内容で、すぐにデータを納品しないといけない状況のようであった。
それと同時に、オフィスに安河内(黒田大輔)というミヤビの上司もやってくる。安河内は、ミヤビが電話を取りながらメモろうとしているのを助けたりと、色々と世話を焼いている。電話が終わると、安河内は自分が作った魚の佃煮をミヤビにあげようとする。しかしミヤビはそれを拒否する。どうやらミヤビは、先ほどカロリーメイトを食べたばかりで、今日はこの後地元から都内に来ている父とディナーをすると言う。安河内は、そんな大事な用事があるなら、早く仕事を終えて帰った方が良いと言う。しかし、すぐに納品しなければとミヤビは仕事をしようとする。

同じくミヤビの上司の土橋(島田桃依)がやってくる。土橋も、ミヤビがこの後父とディナーの予定があるのなら早く帰った方が良いと言う。土橋は、イヤイヤ今の仕事を続けているようである。少しリーダー的なポジションを任されるとどんどん抜け出せなくなってしまって疲弊する。そして転職も考えるけれど、今更新たに他の仕事もやりたくなくて転職もしたいと思わなくなる。そうしているうちに、ヅブヅブと今の仕事からんけ出せなくなって向こうの思うツボなのだと言う。
アケミ(安藤奎)やカオル(西田麻耶)も現れて、ミヤビはこの後大事な予定があるなら先に帰っても良いと口を揃えて言う。そして、安河内が作ってきた魚の佃煮を食べる。カオルは何の魚か安河内に尋ねるが、安河内は何の魚か把握していなかったらしい。
友田哲夫(篠崎大悟)がやってくる。彼は、自分で用意していたゼリーを探しているようだが、そのゼリーに誰も心当たりがない。友田は、ゼリーを探しに再びミヤビたちがいる一室を出る。

ミヤビとカオルだけになる。ミヤビは、実は今日の夜父とディナーをするというのが嘘であるということを告げる。父は5年前に亡くなっていると。
カオルはなんでそんな嘘を付いたのかとミヤビに聞く。ミヤビは咄嗟に嘘を付いてしまったのだと言う。
カオルはミヤビの話を聞きながら、いつの間にか安河内の魚の佃煮をボリボリ食べていた。

そこへ再び安河内がやってくる。安河内とミヤビの二人きりになる。ミヤビは、父と今日都内でディナーをするというのは嘘なのだと言おうとするが、安河内はそれを遮るかのようにミヤビに父のことのついて質問責めしてくる。実家は鹿児島である話や、今日は渋谷でディナーをする話、ミヤビが父の恥ずかしいエピソードを話したりなど。
再び電話がかかってくる。ミヤビは電話対応をする。安河内はその間自分で作った魚の佃煮を食べていたが、骨が喉につっかかったらしくずっと苦しそうに呻き声を上げながら喉を押さえている。しかしミヤビは電話対応に夢中で気が付かない。そのうちに、安河内の喉から魚の骨らしき太い管のようなものが出てきてたまげる。
ミヤビが電話を切ると、やっと安河内の状況に気がついて、喉から出ている魚の骨を見て悲鳴をあげる。そこへ、友田がゼリーを見つけて帰ってきて、そのゼリーを苦しそうにしている安河内に飲ませようとするが、安河内はそれは友田のだと言って飲もうとしない。
大騒ぎで、土橋、カオル、アケミもやってきて安河内の様子を見てびっくりする。しかし、なんとか安河内は喉から出てきた白い骨を体内へしまい込む。一同はなんでそんなことになったのか、ただ驚くばかりだった。

するとまもなく、今度は安河内の腹部から魚の頭が飛び出してきて、それがどんどん膨れ上がっていった。また、安河内の背中には魚の尾びれが生え始めて、まるで安河内の体内から巨大な魚が顔を出している格好になった。安河内はその状況を周囲から「新人類」だと言われる。
安河内がこんな「新人類」になってしまったのは、安河内が作った魚の佃煮を食べたからではないかという流れになる。土橋も友田もカオルもアケミも魚の佃煮を食べたので、もしかしたらこの後、安河内みたいになってしまうんじゃないかと恐怖する。一方、ミヤビは魚の佃煮を食べていない。自分だけ魚の佃煮を食べておらず、他の人に食べさせたことによってこんなことになってしまって自分のせいだと叫び始める。そして、ミヤビも魚の佃煮を食べようとするが周囲に止められる。
でも魚の骨が喉に引っかかったのは安河内だけだったし、他の人間たちは大丈夫かもという話も出る。

しかし、その後土橋の腹部から魚が飛び出す。自分も安河内みたいに新人類になってしまうのかと恐怖するが、そこから黒い全身タイツのようなものが出てきて、それにまるで食べられてしまうかのように土橋はくるまり、全身を黒ずくめにされてしまってその場で倒れてしまう。
これは下手したら魚の佃煮を食べた人は皆そうなってしまうのかと恐怖し、その恐怖は的中して今度はアケミの腹部から魚が飛び出し、黒い全身タイツが出てきてアケミも黒い全身タイツに飲み込まれて倒れてしまう。

ミヤビは、こんな悲惨な状況に耐えきれなくなって安河内に自分が今日の夜父とディナーをすることは嘘だったと言うことをはっきり告げる。しかし、安河内はそれこそ何嘘を付いているんだと取り合ってくれない。そしてミヤビと安河内は口論を始めてしまう。カオルがその口論の仲裁をしようと必死である。
その一方、友田が今度は腹部から魚が飛び出して黒い全身タイツに飲み込まれそうになっていた。友田は叫んでいるのに、誰も彼の方を見て気づいてくれずずっと口論している。そして友田が黒い全身タイツに飲み込まれてから三人は気が付く。

そしてカオルも腹部から魚が飛び出して、苦しみもがきながら全身黒いタイツに覆われて倒れてしまう。
安河内も腹部から黒い全身タイツが出てきて、そのまま全身真っ黒になって倒れてしまう。ミヤビは一人オフィスに取り残されて泣き叫ぶ。しかし、安河内は黒い全身タイツから復活して、何やら粘性のある液体を身に纏いながらミヤビと握手してくる。そして魚の格好をして、ミヤビに話しかけてくる。魚が現れたということは、魚がいなくなったということであると。
魚はミヤビを連れてオフィスを出る。波の音と共に魚はミヤビを乗せて台車のようなもので遠くへ向かう。そして元の場所に戻ってくる。音楽がかかり始めてミヤビはダンスをし、そのまま上演は終了する。

前半はごくごく日常のオフィスの会話劇で、そこに少しコメディ要素があるくらいで、何も変色のない物語だったが、安河内が喉に骨をひっかからせてからのくだりがあまりにもシュール過ぎてびっくりしながら観劇していた。B級パニック映画を小劇場で演劇としてやったらこんな感じといった内容で、非常に新鮮な観劇体験だった。
そしてラストの安河内が魚になって、ミヤビを自由にするくだりがとても爽快だった。あとで考察パートにも描くが、ミヤビはずっと職場の人間から嘘をつきながら距離を置いていて、自己保身に回って上手く振舞おうとしていたが、その願望が職場を破壊してしまったという理解で問題ないのだろうか。ちょっと「不思議の国のアリス」のような、職場に迷い込んでしまった若き女性がその環境から逃れるファンタジーのようにも見えて面白かった。また、前半の何気ない日常会話にも伏線が沢山散らばっていて面白かった。
全てを明確に意味を説明出来る脚本ではなかったけれど、だからこそ解釈にも幅があって余白もあって面白い作品だった。

写真引用元:ステージナタリー MITAKA “Next” Selection 24th 劇団アンパサンド「地上の骨」より。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

ミヤビ以外が全員魚になってしまうという強烈なギミックが光った世界観・演出がとてもシュールで素晴らしかった。ただ、個人的にはそれ以外でも世界観・演出については賞賛したい点がある。
舞台装置、ギミック、舞台照明、舞台音響の順に見ていく。

まずは舞台装置から。
ステージ上には、上手側、ステージ中央、下手側にそれぞれ横長のキャスターテーブルが客席から見て縦に置かれていた。一番下手側のテーブルは私の記憶だとあまり使われている記憶がなく、中央のテーブルは電話が置かれていて基本的にミヤビが作業をするためのデスクだった。一番上手側のテーブルは、書類などが置かれたテーブルで、序盤に安河内が座っていたり、カオルが無意識的に魚の佃煮を食べてしまうテーブルだったと記憶している。
このシンプルな舞台セットが、コントのようで演劇のようでとても良かった。今回は「Mitaka "Next" Selection」なのでそこまで舞台装置をがっつり作り込んでの公演では元々なかったと思うが、安藤さんのあの作風なら豪華に舞台セットを作り込んだ中での演劇も成立すると思うので、見てみたいものである。

次にギミックについて。
基本的には、ミヤビ以外の役者が事前に腹部に魚の人形と黒い全身タイツを忍ばせておいて、それを自ら引っ張り出して魚に襲われているが如く悲鳴を上げながら全身身に纏うという演出。これがなかなか素晴らしかった。どう素晴らしかったかというと、まずそのギミックを腹部に潜ませておくことで、観客からは不自然にどの役者も腹部が膨らんでいるなと気づく。それがしっかり伏線となって回収されてミヤビ以外全員襲われるので、その膨らんでいる部分=もしや魚になる?というワクワク感が堪らなかった。また、全身タイツを自分で身に纏うことでたしかに何者かに襲われている感じを上手く演出しているので、なかなか独創的な発想で面白かった。まさに展開としてはB級のパニック映画なのだけれど、それを黒い全身タイツで演じることで演劇でしか出来ないシーンとして作り上げていると思ったし、だからこそコミカルにそしてホラーにも感じられるように演出出来るのだなと感じて、演劇の可能性をまた一つ発見したような感覚だった。
また、安河内だけが巨大な魚の浮き輪のようなものを腹部に魚の頭部のものを一つ、背中に魚の尾びれのものを一つつけていた。そしてそれをどこかで空気を入れられるようにギミックを仕込んでおくことで、それが徐々に膨らむことで襲われている感じを演出出来る点に見事さを感じた。
これは、他の演劇でも応用出来そうで、意外と演劇でしか出来ない演出、表現手法だと思うので、そのパイオニアである安藤さんの発想力は素晴らしいものだと思った。

次に舞台照明について。
照明はラストのワンシーンがとても格好良かった。ラストワンシーンだけだからこそ映えた。ブルーとイエローの照明がバランスよく配置されて舞台上を照らす感じがオシャレだった。そしてこの舞台照明によって、ミヤビは現実世界からファンタジーの世界、自分の理想郷にやってきたのかななんて思った。

舞台音響について。
客入れの音楽と、ラストのミヤビがダンスをするシーンの音楽のあのオシャレな感じがとても素敵だった。センスを感じた。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

役者陣も全員演技が素晴らしかった。悲鳴をあげる演技、怖がる演技がとてもリアリティがあって素晴らしかった。逆にいうと「劇団アンパサンド」の芝居は演技が物凄く上手くないと出演は難しいなと思う。全力で悲鳴を上げて怖がれるか、そこを嘘くさくなく出来るかが非常に重要で役者が求められるレベルも高いという気がした。それを卒なくこなしていて素晴らしかった。
特に印象に残った役者について記載する。

まずは、ミヤビ役を演じた安藤輪子さん。安藤さんの演技を拝見するのは初めて。
設定としては、おそらく会社の中でも一番年次が若く、まだ若いために先輩の社員たちから大目に見てもらって可愛がってもらっている。けれど、ミヤビ自身としてはあまり先輩社員たちや上司たちと心から打ち解けられている訳ではなく都合が悪いと嘘をついてごまかしたりしていそう。ただ、自分が悪い人間だと思われたくないから仕事は一生懸命やっていると思われるようにしているといった感じ。
私がミヤビを見ていて感じた感想は、甘えればなんとかしてくれると思って思い切り甘えて自分だけ得しようとしているキャラクターのように思えた。会社で大変なことが起こったら先輩社員に泣きつけば良いかなと心の中では感じてそうな女性かなと思った。ただ、悪者にはなりたくないからその感情を上手くごまかそうと必死なのかなという印象を受けた。
職場の人間が自分以外全員魚になっていなくなってしまったというのは、一つの解釈としてはミヤビの願望なのかなと思った。最後に自分に味方してくれる魚が迎えに来てくれて、この職場環境から解放してくれるという夢なのかなと思った。
それにしても、悲鳴の上げ方とか怖がり方とか非常に演技が素晴らしかった。ラストのダンスもミヤビだからこそあんな感じのダンスがハマっていた。

次に、安河内役を演じた黒田大輔さん。黒田さんの演技を拝見するのも初めて。
あの年下の若い後輩を色々質問攻めにする感じの上司がとてもハマり役だった。あんな感じの上司はたしかにいそうだし、若い女性社員にとっては面倒臭い存在だろうなと思う。プライベートのことを色々根掘り葉掘りされるのは堪ったものではないと思う。
あとは、前半は穏やかな上司という感じなのだが、後半は「新人類」といて半魚人のような格好になってしまうが、そこからの体の張り方が素晴らしかった。まさかそんな展開になるとも思わないし、黒田さんがそこまで体を張って演技をするとは思わなかった。良い意味で意外性のある演技で面白かった。
首から魚の骨が出てくるシーンでも、あの苦し紛れな演技がどこまでも体を張っていて良かった。結構客席から笑いが起きていたけれど、これは演劇だからかななんて思った。映画で不気味な音楽が流れていたらきっとホラーなシーンになっているよななんて思いながら観ていた。

次に、アケミ役を演じた安藤奎さん。「劇団アンパサンド」の主宰で、今作の作演出でもある。
ストーリー上はそこまで出番も多くなくて、目立つシーンもなかったのだが、なんといってもアケミが魚に襲われるシーンのインパクトが強くて癖になった。ぶっちゃけ、私が完全に今作にのめり込めるようになったのも、アケミが魚に襲われるシーンからな気がする。
さすが考案者と言って良いほど、黒の全身タイツで襲われて断末魔を上げる演技が上手かった。低い声で声にならない声で呻く感じの演技が絶妙にハマっていて良かった。また安藤さんの演技をこんな形で観たいなと感じた。

最後は、カオル役を演じた西田麻耶さん。
西田さんは、あの力の抜けた感じで自然に女性先輩社員を演じられる感じが良かった。あんな感じの話しかけやすそうな女性はいるし、とてもナチュラルな演技が印象に残った。
そこから終盤では、魚に襲われて恐怖する演技がギャップがあって良かった。

写真引用元:ステージナタリー MITAKA “Next” Selection 24th 劇団アンパサンド「地上の骨」より。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

初の「劇団アンパサンド」の芝居は、とにかく色々と新鮮な観劇体験で、そしてその新鮮さがとても面白くて大満足だった。これはたしかに小劇場界隈で人気は出そうだし、テレビプロデューサーの佐久間さんも絶賛しそうだなという所だった。そのうち安藤さんとか「ゴッドタン」に呼ばれるんじゃないかと思ってしまう。そのくらい唯一無二の尖った芝居だった。
ここでは、そんな尖った演出というよりは、脚本の内容について私なりに考察していこうと思う。
今作は前半が日常会話劇のパートで、後半が魚に襲われる非日常のパートだったかなと思うが、この非日常なパートに繋がる上で、前半の日常パートは伏線になっているなと感じながら観ていた。そのことについて考察する。

今作は2通りの解釈が出来るかなと思っている。
一つ目は、土橋の前半に登場する台詞が伏線となって後半のシーンに繋がるという解釈である。土橋は、この仕事をずっと辞めたいと思っているけれどなかなか辞められないと話していた。リーダーになるとどんどん今の仕事から逃れることも出来なくなり、転職をする気力も失われる。それが、思う壺にされているという台詞である。
この土橋の言葉は、普段社会人として仕事をしていればすんなりとイメージ出来ることだと思う。最初は甘い言葉でお願いされて、その言葉ならと仕事を頑張るが、いつの間にか自分がいないと仕事が回らない状況になっている。どんどん仕事から離れられなくなっていく、そしてエネルギーも奪われていくから転職して逃げようという気持ちさえ失せてしまう。それは、職場からしたら思う壺であると。こうやって自分は、仕事に取り込まれていってしまうんだと。
この状況をホラー的に描いたのが、魚に襲われる事件なのかなと思う。ミヤビ以外の従業員たちはしらずしらずのうちに魚の佃煮を食べてしまった。だからこそ、後戻りが出来なくなって魚に襲われて吸収されてしまうのである。ミヤビに関しては、まだ先輩社員から可愛がられて守られているので、この職場に完全に吸収されている訳ではなく逃げ道があったということと、魚の佃煮を食べていないということがリンクして、魚に襲われずに済んだのかもしれない。
つまり、後半の魚に襲われる事件というのは、日常社会で会社員が社畜になるということのメタファーなのかなと捉えた。魚という仕事に蝕まれる会社員たちを暗示していたのかなと思った。

もう一つの解釈は、一番ラストの台詞で「魚が現れたということは、魚はいなくなったということ」というものと関連する。この一見矛盾する台詞をどう解釈したら良いのだろうか。
まず、魚が現れたというのは、劇中に登場するように先輩社員の腹部に魚が現れたことを指し示すのだと思われる。問題はその次で、魚はいなくなったというのはどういうことだろうか。ここでいう魚というのは、ミヤビにとっての職場での恐怖の存在なのかなと思っている。
先輩社員が魚によって襲われてしまったというのは、これを現実世界に当てはめてみれば会社の倒産に近いようなことなのかもしれない。会社を引っ張ってきた人間が倒れてしまう、つまり倒産だと。すると、今まで会社員としてそこで働いた人たちにとっては会社がなくなってしまったので自由になれる。その自由を表しているのかなと思った。
だからこそ、ラストではミヤビは安河内から出てきた魚に乗って色々乗り回して自由を謳歌していた。
そしてこれは、ずっとミヤビが念じてきた願望なのかなんて思う。きっとこの作品で伝えたかったのは、ずっとストレス環境の中で仕事をしていた新米社員が、晴れて会社から自由になった時の晴れ晴れしさを描いているんじゃないかと思った。

一度きりの観劇で捉えられた部分だけで考察するとこんな感じで、全然的を得ている自信はないが私個人としてはそんなことを重いながら観ていた。


↓篠崎大悟さん過去出演作品


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