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2020/02/01 舞台「四角い2つのさみしい窓」観劇

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公演タイトル:「四角い2つのさみしい窓」
劇場:こまばアゴラ劇場
劇団:ロロ
脚本・演出:三浦直之
出演:亀島一徳、篠崎大悟、島田桃子、望月綾乃、森本華
公演期間:1/19(徳島)、1/30〜2/16(東京)、4/25〜4/26(福島)、5/9〜5/10(三重)
個人評価:★★★★★★★★★☆


【レビュー】


劇団ロロの公演は初観劇だったが、とても舞台にのめり込めた素晴らしい作品だった。
「壁」というキーワードを使って人々の隔たりを表現する一風変わった戯曲に対して、手作り感があって温かみのある舞台美術、レトロでおしゃれな照明、途中で舞台装置が解体されるという演出、全てが非常に作り込まれていて小劇場の良さを詰め込んだ素晴らしい仕上がりだと思った。
そして私は何といっても島田桃子さんの演技がとても魅力的で虜になってしまった。そのくらい観客を惹きつけられる素晴らしい作品だった。
誰もにオススメしたいイチ押しの舞台です。

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【鑑賞動機】


ロロという劇団の存在は以前から知っていたが、実際に公演を観たことがなかったのでこれを機に観劇。本チラシのあのピンク色でちょっとレトロで、紙の質感も柔らかい感じがとても印象的だったので期待値は高めだった。



【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)


屋根足りない(望月綾乃)やフィッシュ&チップス(篠崎大悟)らの小劇団「溜息座」の芝居を観て感銘を受けたサンセビ(亀島一徳)は、「溜息座」に入団したいと団長のヤング・アダルト(森本華)に告げるも、次の公演を最後に解散が決定していることを知らされる。
それでも入団したサンセビは、以前「溜息座」の劇団員だったムオク(亀島一徳)に似ていることから、ムオクが演じるはずだった綱渡り師の役を演じることになる。またサンセビは、「溜息座」は団長が公演を30回近くに渡ってすっぽかしたことで劇団員が急激に減り解散に至ったことを知らされる、ムオクもその団長のすっぽかしが原因で劇団を去ることになったと知らされる。

所変わって、夫婦の仲である柚木七緒(望月綾乃)と振袖春(篠崎大悟)は、「溜息座」が拠点として活動している東北宮城の「夜海原」という地に旅行に来ていた。そこで、ムオクとユビワ(島田桃子)という男女に出会う。
4人で飯を食べに行くも、ユビワの言っていることがデタラメだったり、ムオクは「家族の遺骨が入っている」という木箱を持ち歩いていたりするため、春はムオク、ユビワの2人を不審に思っていた。
そして2人が居ない隙を狙って木箱を除くも、中にはコンクリートの破片しか入っていなかった。このコンクリートの破片は何なのか、春はムオクに問い正すと、ムオクは大海原に大きな壁があってその向こうに家族が居たのだと語り出す。

ムオクは高校時代、いつも大海原に立つ壁の向こうにいる家族(父、母、兄)と語っていた、そんな彼をユビワは心から好きでいた。
そんなムオクは「溜息座」に出会い、同じ偽物を追い求める姿に共感し、劇団に入団して劇団員として活躍するようになる。
しかし、劇団員がムオクの大事にしていた家族の壁(絵画)を誤って落としバラバラにしてしまう。代わりに家族の絵画を描いてムオクに見せるも、その今までの壁が家族だったのだと嘆き、ムオクは劇団を去るのだった。

話を聞いた春と七緒はムオクとユビワと別れ2人で夜海原の地で一夜を過ごす。

話変わってサンセビの加わった「溜息座」は、また公演直前に団長が行方を眩ましみんなで必死に探すのだった。サンセビは探しても探しても芋羊羹しか見つからず、足りないとフィッシュ&チップスはパクチーを心ゆくまで食べていた。
やっと団長を見つけることができ、そばにはユビワの姿もあった。
そして団長の座はユビワに渡った。ユビワは「溜息座」の劇団員全員で海原の壁の向こう側へ行こうと提案し、みんなで壁の向こうへ踏み出す。

そして始まった「溜息座」の公演「綱渡り師の慧眼」、綱渡り師演じるサンサビは綱渡りをすることで綱の向こうにいる家族と再会する、そしてユビワもその後に続いて綱を渡り2人で上手くやっていくことを伝えて戻っていくのだった。

そんな舞台を見た七緒と春の夫婦は、舞台に出演していたサンサビやユビワ、団長と交流して終わるのだった。


具象なのか抽象なのか分からない不思議な脚本だったが、舞台美術もあってかぐいぐい作品に引き込まれていった。「溜息座」という劇団の舞台を通して、役者ってどうしても何かを演じる偽物でしかなく、舞台と客席の間に透明な壁があるように見えるけれども、やっぱり生物だから触れ合うことが出来て素晴らしいものなのだというメッセージがとても良く伝わった。
上演台本を販売していたので、できればじっくり読み込んで作品の内容理解をもっとしてみたかった。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)


とても手作り感があって温かみのあるアットホームな舞台美術だった、とても素晴らしかった。
小劇場である「こまばアゴラ劇場」だったからこそこの手作り感のある舞台美術がはまっていたのかもしれない。

舞台は中央に木造のステージがあり、すのこのように縦に板が敷かれたような作りになっている。
そのステージの奥にはカーテンを挟んで薄い板でできた壁が存在する。この壁には様々な仕掛けがあって、所どころに不規則に四角い窪みがあるのだが、一部パネルのように裏返せてムオクの家族の絵が描かれている。
ステージの両横には薄い布が縦に敷かれており、奥が見えないようになっている。
この舞台装置の凄い箇所は、終盤で「溜息座」が「綱渡り師の慧眼」を上演する際にバラすことが出来るようになっている点である。ステージ自体にローラーがついており移動させることができ、さらに中央の縦の板の左右で真っ二つに解体することが出来る。カーテンのかかった枠やステージ奥の壁も取り外すことができる。
実際に上演中では、キャストが全員で声を掛け合いながら壁と枠を取り外し、ステージを中央の縦の板を境に真っ二つにし、その縦の板を斜めにすることで綱渡りの綱を作り出していた。
シーン中に舞台装置をバラす芝居は初めて拝見したので、こんな演出方法って面白いなと思いながら、そういう作品を作る過程を観客に見せることで、舞台と現実の距離を縮める効果にもなっていて非常に良かったと思った。

また、今回の芝居で面白いなと思ったギミックに、天井から雪を降らせる演出があって、天井に直方体のボックスが紐で吊るされていて、その紐を震わせることで直方体にわずかに空いた穴から雪が降り注ぐ仕組みが非常に面白かった。
それと、ムオクとユビワが回想シーンで大海原の壁について語るシーンで、口元に小さなマスクをつけてスピーカーから声を出す演出がとても印象的だった。なんか回想している感じが伝わった。

次に照明・音響だが、照明がとてもおしゃれでカラフルだった。まず客入れや劇中曲で使用されるカラーボール、そして5,6個ほど天井から吊るされた電球ランプがとてもレトロさを醸し出していてオシャレだった。
音響は、客入れの暖かい感じの音楽と、客出しの元気の出る曲がとても印象に残った。劇中曲の「偽物のステージ、偽物のシューズ、偽物のラブリー」や「パクチーパクパク」もなんかフレーズが頭から離れないような印象に残りやすい曲でポップな雰囲気がとても良かった。

最後に小道具もちょいちょい印象に残りやすく面白いものが多く、例えば最初のシーンの「溜息座」の芝居で使われた薄汚い空気人形のインパクト、そして「溜息座」の人間が描いたムオクの家族の絵のインパクトは半端なかった。ちょいちょい笑いを入れてくる、とても上手い演出だった。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)


こんな素晴らしい、役者たちの芝居を最前列で拝見することが出来てとても良かった。今回5人の役者しか出演していないが、皆レベルが高くてさすが10年劇団として続けてきたロロって凄いなと感じた。

まず全体的に凄いなと思ったのが、早着替えからの役の演じ分け。舞台裏で一瞬で服を着替えて別役で出演する機会が特に多い作品だった。
屋根足りないと柚木七緒を演じた望月綾乃さんや、フィッシュ&チップスと振袖春を演じた篠崎大悟さんは特にそういったシチュエーションが多かったように感じ、そこら辺の稽古などは沢山重ねてきたのだろうなと思った。

個人的には今作は、ヤング・アダルト演じる森本華さんとユビワ演じる島田桃子の芝居が特に好きだった。
森本さんはなかなか個性的なキャラクターで、非常に声に力が篭っていて、堂々とした迫力のある演技をする女優だと思った。またちょっとお茶目な部分もあるので、それが今作の団長という役柄に非常にはまっていた。コメディ演劇だともっと森本さんのキャラクターが立って面白そうなので、是非コメディでまた芝居を見てみたいと思った。
島田さんは、非常におっとりして可愛らしい女優だと思った(個人的にめちゃめちゃ好きな女優のタイプだった笑)。ユビワというキャラクター性もあるが、どこかテンネンで綾瀬はるか似のキャラクターで見ているだけでうっとりしていた、素晴らしい魅力的な女優だと思った。ムオクに恋するあたりやしりとりをするシーンはとても大好きで、何度も見たいなと思ってしまうくらい。また違う機会で演技を拝見したいと思った。

他の役者の方もみな演技が素晴らしかった。
亀島さんは、メガネをかけたオタク風な風貌をしているが、「溜息座」に入団したがったり、最後の公演で綱渡り師として最高の演技ができたりと才能を開花させる辺りが、その風貌とマッチしていてとても良かった。
望月さんは七緒を演じている時は物凄く大人じみた演技をし、足りないになるとやんちゃ感を出すそのギャップ、演じ分けが素晴らしいと思った。
篠崎さんは物凄く自然体で色々な演技をされている感じが凄く良くて、芝居慣れしている感じが伝わった。

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【舞台の深み】(※ネタバレあり)


夜海原にそびえ立つ壁、その壁はムオクと家族を隔てる壁であったり、「溜息座」と観客を隔てる壁でもあったり。ここでは、今作を通じて「壁」というキーワードについて深く考えてみる。

今回の作品を観劇して思ったこと感じたことは、普段の私たちの日常に壁を敷かれる機会が増えてしまったということである。
近年はネットフリックスやアマゾンプライムビデオといったストリーミング配信のコンテンツの出現によって、画面という壁越しに作品を見たりする機会が増えてきた。またVR演劇の出現によって、ゴーグルという壁を設けて作品に触れるようなものまで出てきた。
作品を鑑賞するということ以外でも、普段スマートフォンでSNSで人と繋がることで実際に会って話さず、画面という壁上でコミュニケーションを完結させることも増えた。

しかし今回の作品では、そういった壁を乗り越えるという描写が多数存在する。
例えば、サンセビは序盤では「溜息座」の観客の1人で入団を申し出ても快く思われなかったが、ムオクに成り切ることで徐々に「溜息座」の劇団員として認められることで、サンセビと「溜息座」という壁を乗り越える。
団長が公演直前に行方不明になる「溜息座」だったが、ユビワがお互い壁を乗り越えようという一言で「溜息座」の劇団員が全員壁を乗り越えることで、結束力のないバラバラな「溜息座」から一致団結して「綱渡り師の慧眼」に挑む「溜息座」へと切り替わる。
ムオクと彼の家族は壁で隔てられていたが、綱渡りをして壁の向こうに行くことで家族と再会した。
ムオクとユビワの最初の出会いはガラスという壁越しに窓ふき掃除をしていた時、そこから壁を乗り越えて愛し合う関係になれた。
七緒、春夫婦は、「溜息座」の「綱渡り師の慧眼」を観劇したことで、ラストで「溜息座」と夫婦(観客)の間の壁を乗り越えて交流をした。

どれも共通していることは、壁を乗り越えることによってリアルに他人と親しいコミュニケーションが取れるようになっていることである。そして演劇を行う劇団というものは、そういった繋がりを作りやすくしてくれる存在である。
そういったリアル世界での親しいコミュニケーションの大切さを訴えてくれる素敵な作品だったと私は思った。リアルな人との繋がり、今作のその強く響き渡るメッセージとしっかり向き合ってそれを大切にして生きていこうと前向きになれた、とても素晴らしい作品だった。



【印象に残ったシーン】(※ネタバレあり)


やはり舞台装置が動かされるシーンは大きな動きがあったのでとても印象に残った。最後の「綱渡り師の慧眼に」移るあたりで舞台装置が解体されていくシーン、「偽物のステージ、偽物のシューズ、偽物のラブリー」の劇中曲がかかるミュージカル的なシーン。
また「パクチーパクパク」の劇中曲のシーンも印象に残った、足りないとフィッシュ&チップスがパクチーをスローで食べながら、時計がひたすら進んでいく演出はとても面白かったし印象に残った。

個人的に好きだったのは、「貝殻屋」で4人で無言で飯を食べている時間、下手側から小さく「心を満タンにコスモ石油」とテレビが聞こえてくる生活感がなんか好きだった。
ムオクとユビワでしりとりをするシーンも好きで、ひたすら島田さんが可愛かった。
足りないとフィッシュ&チップスが、団長失踪後に車に乗って探し回るシーンの、「あっち、あっち」っていうのも好きだった。お気に入りシーンは沢山ありすぎるのでこの辺にしよう。

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