0-2013.6短歌

『部屋』

1.水槽に消えゆく霞に祈りつつ乾いた花びら千切っては口に

2.セーターの毛玉を食べた心地して猫のとなりにあった空咳

3.いなくなる瞬間気圧を下げるなら気象予報士のままでいたい

4.眠れずに吐いた言葉が合図して僕を海から引き剥がしてく

5.夕暮れに傘差してみるも青じみて浴槽に羽根が落ちていたんです

6.あのゆめの覗き込むのを壊そうと屋根裏に捨てたバットを探す

7.交わす舌灰の味しかないけれどふたつの身体に音素が落ちる

8.白日に消されてくのは焦燥でそれでも選んだハッピーターン

9.生命はせせらいでいて祝日のカロリーメイトをみんな待ってる

10.更かし夜に白い真水をしたたらしおもちゃのロボに命を吹き込む

11.押し寄せるサブリミナルのただ前でCM高波隙間に黒猫

12.なくしてくこころの涙の味だってくるんだティッシュと変わりはないでしょ

13.飽きるほど多くの言葉を費やして得た部屋は壁だらけに見える

14.いくら叩いてみたところでドアはドア。でも、おやすみ!!!おやすみ!おやすみ!!me……


『机』

1.閉鎖した扉の隙間にはみだした紙から見つめるなくした記憶

2.昔日の愛に埋もれる願望は普通に殺され錠剤ました

3.誰もかも死んじゃいたいほど好きだって似せた幸せオーバードーズ

4.ありがとうばっかり彼女の口突いて誰もが嫌いな毒気のある水

5.軋んだ気持ちなんて分からないもうなんだっておくすりみたい

6.好きだって飽和しちゃうとだめだからチーズケーキにルネスタ混ぜるね

7.天皇と精神科医の相部屋にある光熱費の不払い請求

8.約束は指先でまわり疲れ果て紫煙の妖精夏に熔けらん

9.手を揺らし内溶液で幾何描き過去救したい私で濡らす

10.お手紙を破る涙が愛おしく意味無くちぎらる領収書たち


『窓辺』

1.語り果て壊れた向こうに見た窓の雪の白さは走る暴力

2.土曜日は歯科か蕎麦しかいないから諦めて消える時間と遊ぶ 

3.藍色に染まった空気の整列に綺麗な星座を象る電線

4.好きだから手に入ったら悲しいとカーテン閉ざして隠した日差し

5.今すぐに写真になってく部屋中に朝霧払う夏空注ぐ

6.緑葉が電燈に促されそっと静かな雫を闇に擲つ

7.窓辺から彩るドットが射し込んで痛みの数だけあの子は綺麗ね

8.夕焼けにやさしさすらも奪われて恨むべきものすらない土曜日

9.ドアに向け刻んで殺せ向日葵をクラシックギタービビッドメモリ


『記憶』

1.啜り泣く数を数えた遠き日の翌日見つけた押し花栞

2.嫌煙の看板澱みに立ち尽くし君は嘘しか言わないだろう

3.薄紅の花弁は散るためにあることを教えてくれる 四月


『葉』

1.ぬくもりが頬を伝って流れ落ちアガペー・タナトス雲間に消えた

2.ささやかな罪ある自然を間に受けた花弁は蜜蜂をただ見る

3.迷い子が森で拾った安物の剃刀黒い海を照らして

4.若草の寝息を聞きつつ立ち退いた瞳閉じても雨粒いっぱい

5.漕ぎ足を早めた沼地をあとにして目にした墓標に書かれた「明日」

6.脱げた靴誰のものかも知りながら天に逝くのをただ見る案山子

7.そこここにうつくしさありあまるほどアガペーよりもタナトスよりも


『風』

1.美しい宝石の欠片見る度に失われてった大好きを手に

2.連鎖した海を遠目に眺めても指先残るは紙裂く赤だけ

3.柔らかな濡れた毛先のしたたりに架かる虹にもひとつの世界

4.微粒子を揺らせる君 波 声ひとつ でも見てたんだ星は降ってた

5.ぴしゃぴしゃと水たまり掻く金魚たち不自由なままの流れ星たち

6.底のない沼に映った太陽は鳥に混じって鈍く歌った

7.海辺からビルに帰ってただ無垢に夢を捨てるのが私の夢なの

8.指先をかすりもせずに散る蝶は夢を迷わせ陽射しに霞む

9.どうしたって消えるまでには消えないと帰る場所ない太陽の過去

10.見えてないかもしれないけど暗闇の中で喋ってるんだよ聞こえる?


『公園』

1.受信する奇蹟の似絵に触れた角雨滴に混じる朱、恥殻模様

2.滑り台からバラバラと転がしたグミの重みは垣根も壊す

3.花弁にはちゃんと葉脈が流るのに吐かれた血を待つ手の線を見る

4.枝の先から零れるは数々のお菓子であって光でしかない

5.ぱちぱちと闇にはじける割り木らに迷子はひとこと「さよならブッダ」


『遠方』

1.ノックするひとつの響きを待ってたらブイのしるしを越えてしまった

2.塗り消したはずなのに歩く人たちがサーカスの場所を訊ねてまわる

3.終幕の垂れ幕に叫ぶ「今此処の俺らに合図をもっと合図を!」

4.ひと束の手向け花じっと陽を待って僕らの渡海を送りだしてく

5.船揺れる雨風ありて砂上には完成品たち手つかずにある

6.魔が刺して人生発券装置前、丸めた地図手に立ち止まった日


『錆びる階段』

1.シャボン玉が割れちゃうように今すぐに会いたくなるのを叱って欲しい

2.階段を昇る足音遠ざかり空に映るは意味連鎖だけ

3.輪郭を零れた意識は踊ってて手を握ってもそれは手なだけ

4.今にでも五感のすべてを預けたい月をうずめて隠されたいま


『音』

1.安らぎを奏でる鐘に出会いたく荊棘線にかけた涙を濃くする

2.鳴る音に何も見えないと笑って青を飲み込む彼女の神様 

3.鉄骨を打ち鳴らす音に満ち足りた生活だけをあなたにあげる


『街』

1.息るのがつらい身騙して懸命に麻酔欲しくて通う天一

2.空回る涙を流した黒カラス夢満つ輪廻に今日も溺れて 

3.惜しみなく擲った命拾われてなにから守ったかなしみの寺

4.ぴぴぴぴぴ泳ぐ由知る指示記号すらない電波に着拒されおこ(。◟‸◞。✿)

5.死に絶えた雪を消してく光輪が隠したメッセダイビング他我

6.自然にはいるのに神はこわいから電車で向かった禁煙国家

7.多義的に見ればいいよねその命薄くて軽くて多義的に見れば

8.包まれて刃物で刺され雨曝しビルの隅からこれが愛だよ 

9.尖らせた声に命を宿らせて無差別に刺した少女の祈り

10.投げ捨てられたコンタクトはどこ?どこ?見にくい光を求め続ける

11.トラウマは誰のものでもありません警察行ったら迷惑がられた

12.張りついたシャツはためかせ往く夏の変動金利は振り返らない

13.狂人を個性と言い張る正常を酔いに溺れた人たちの這う

14.声のない漆喰に音がなくなった黒い揚羽の命散りばむ 

15.コーヒーの残滓が布地に滲みるので身体を電車に忘れてしまった

16.伯父さんの夜逃げ計画と借金が帳消しになるプリンのプッチン

17.撲殺し埋めた直後の示指にある痺れを舐めるとキャンディ味だ

18.走るしか知らない無垢色タブレット裁判所にも吸い込まれてく

19.「諦めることなくやめよ」と説く旗の前で「いいね!」を押し潰す指


『通学路』

1.いつもより跳ねが悪くて「またあした」土に植わった住人さよなら

2.ビスケットに仄めかされたトラウマを込めたチャクラで握った手の内

3.ぬくもりをあげたらいいって聞いたのでおめかしした葉に触れさす燻り

4.人混みの海の浮輪と屋上の夢を慰む電柱の花

5.近道を訊ねた最期は喧騒に紛れて消えた琥珀の彗星


『学校』

1.展望に昇って猫を投げ捨てる月の数だけ死んだ夢たち

2.明日まで昨日みたいに消えるって鉄棒の鉄は赤色なのにね

3.八の字の大縄跳びで蝶打たれ多少の犠牲は止むを得ません

4.泳いでる白い意識が目指すのは開かずのトイレで待ってる友人

5.遺書を書き散らした時の弁明は「火災報知機誤作動の誤差」

6.雨が降る前から僕は本当に傘をリュックに詰めてたんだよ


『ゼロ』

0. ゴミだって言うから捨てた思いから光の波が打ち寄せている  

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