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バーチャルな分身《アバター》を演じてわかる、メタバース学習の意外な効果

アバターで人種的寛容さを学ぶ

世界的に注目と期待を集める、メタバース。
 
米国のスタンフォード大学では、メタバースを用いた授業「Virtual People」が行われています。

 メタバースを活用した授業によって、2次元の教科書やディスプレイでは実現できないリアルな世界で、より直感的な学習が可能になったようです。

なかでも注目したいのは、自分の体験したことのない世界がリアルに感じられる課外授業が受けられる点です。

Cogburn, associate professor of social work at Columbia University, is the lead creator of 1000 Cut Journey, an immersive VR experience developed in collaboration with VHIL that teaches racial empathy by having the viewer experience life as a black man who encounters racial prejudice.

Stanford News NOVEMBER 5, 2021

たとえば、人種差別を受けた男性の人生をVRで体験することで、人種的寛容さについてよりリアルに学習できる、とのことです。

前回ご紹介した東大のメタバース工学部でも、雨宮智浩准教授が、本人ではなく、バーチャル上の分身であるアバターになって参加することの意外な効果について指摘していましたね。

「アバターを使うことで自分の偏見や先入観を排除して
さまざまな人たちとフラットに交流できる」

日本では、スタンフォード大学で行われているようなアバター体験をさせる事例はまだ見られませんが、人種差別問題がいまだ大きな課題になっている米国では、メタバースによるこうした実践は、大きな効果をもたらしているようです。

自分と違う環境や立場、あるいは別人種の人物になりきってみる――
いわば“他人を演じる”ことで、はじめて理解できるという教育効果を、最先端のテクノロジーであるメタバースが可能にした、と言えるでしょう。


英会話やトークイベントにもメタバースが有効

国内大学の授業でも、メタバースを使った新たな試みが行われています。

「VR Lesson は、オンライン上であったものの、アバターを使うため実際に会話している気持ちになり、発言・会話している気持ちになり、発言・会話するハードルが低かったです」

『大学時報』NO.406 2022年9月発行
[特集]大学におけるVRの可能性p.36より

中央大学(東京都)国際情報学部の斎藤裕紀恵准教授は、同学部が実施する国際ICTインターンシッププログラムに参加した、このような学生の声を紹介しています。

また、斎藤准教授は、「Z世代に属すVRプロジェクトに参加した学生はVRを抵抗なく使いこなしていた」と、教育実習等にVR導入の可能性を期待しています。


羽衣国際大学(大阪府)では、フィリピン人英語講師との英会話レッスンでメタバースが用いられ、学生がアバターとなることで、レッスンがスムーズに行われたとのこと。

 ここでも、アバターが効果をうみだしているようですね。
自分自身が映し出される気恥ずかしさが、アバターという分身を介することで軽減され、会話がはずむということでしょうか。


大正大学(東京都)では、インターネット上のバーチャル空間で『大正大学バーチャルキャンパス(8号館)』を開設。
全国の高校生が大学とコミュニケーションできるトークイベントを開催しています。

 アバターとして参加している受験生からチャット機能で寄せられる疑問・質問、大学の「学び」やキャンパスライフ、将来の進路などのさまざまな相談に柔軟に応答し、とても良い雰囲気で双方向のコミュニケーションが叶いました。 

大正大学HP 2021年8月25日 プレスリリースより

アバターになって参加することで、いろいろな質問がしやすくなるようですね。


アバターになってXRキャンパスに通う!?

ところで、現在では、メタバースだけでなく、新たな現実空間を創出し体験できる様々な技術が存在します。

VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)、SR(代替現実)など、現実世界と仮想世界を融合して、新しい体験を作り出す技術はいろいろ生まれてきていますが、これらを総称してXR(クロスリアリティ)、または Extended Reality (エクステンデッドリアリティ)と言うそうです。

金沢大学(石川県)でも、学術メディア創成センターが中心となり、XRの積極的な活用が進んでいます。

同大学では、メタバースをはじめVRやARなどのXR技術を使って、学生がアバターとなって参加する「XRキャンパスシステム」が構築中で、オンライン教材の開発なども進んでいます。

こうした教材は、来年度から文科系・理科系のいろいろな授業で使えるようになるとのことです。

例えば「細胞分子生物学」の授業では、学生にたんぱく質などの分子の構造を理解させるため、ヘッドマウントディスプレー(HMD)を装着することで、分子の内部に入ったような感覚を体験できるようになるとのこと。
まるでSF映画の世界ですね。


コロナ禍を奇貨として

新型コロナウイルス感染症の拡大で、多くの大学がリモート授業への変更を余儀なくさせられましたが、どうしても、実験や実習といった類の授業や研究はビデオ会議的なオンライン通信では対応しきれない面がありました。
 
ところが、こうしたXR技術を駆使することで、臨場感のある教育をある程度再現できるようになっただけでなく、これまで実現が難しかった教育も可能になってきたのです。
 
すでに申し上げましたが、学生がアバターとなって参加する授業は、通常のリモート授業と比べて、学生同士のコミュニケーションが取りやすいという利点も生まれています。
この点も忘れてはいけません。

コロナ禍を奇貨として、授業や実験・研究の新展開がはじまった、ということですね。


メタバースをはじめとするこうした新技術は、キャンパス内の授業や実験・研究だけでなく、医療などの領域で、キャンパス外の地域社会にも恩恵をもたらしています。

次回は、そのあたりをみてまいりましょう。



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