教育現場でどう向き合う?【子どもの自殺防止】学校教育と大人ができること
教育現場でどう向き合う?【子どもの自殺防止】学校教育と大人ができること
9月10日から9月16日は「自殺予防週間」でした。
厚生労働省は、電話やSNSによる相談支援体制を拡充し、子ども・若者に向けて、ポスターや動画による相談の呼びかけなど集中的な啓発活動を実施しました。
▼9月10日から9月16日は「自殺予防週間」です(厚生労働省)
先立って、8月1日から、こども家庭庁、文部科学省、内閣府孤独・孤立対策推進室と連携した活動を展開し、メディアにはWHO(世界保健機関)の『自殺報道ガイドライン』を踏まえた慎重な報道を依頼しています。
▼政府全体でこども・若者の自殺防止に向けた取組を強化します~夏季休暇明けの自殺防止に向けて、8月1日から啓発活動を開始~(厚生労働省)
背景には、小中高生の自殺者数の増加があります。
2023年(R5)は、小学生13人、中学生153人、高校生347人、合計513人であり、過去最高だった前年(2022年514人)と同水準です。
メディアは、自殺の動機について、小学生が家庭の問題、中学生が学業不振や進路の悩み、人間関係など学校の問題が男女問わず多いことを述べています。高校生は男子が学校の問題、女子が心の健康の問題の割合が高いようです。
▼「自殺対策白書」概要案 子どもの自殺、小学生は家庭の問題が約4割(朝日・9/10)
💡研究員はこう考える
◇子どもたちに対して大人は何ができるのか
私も、友人や知人が自殺した経験があります。悲しく、痛ましく、やりきれない気持ちになります。
人がこの世に生を受けるのは不思議なことであり、命は与えられた何かです。根本的に、生きていることは素晴らしいことだと私は思っています。
しかしながら、61年の人生を振り返ってみれば、死にたくなったこともあれば、気がつくと死を思っていたこともあれば、生か死かに無頓着になったこともあります。
挫折、絶望、諦め、自暴自棄、コントロール不能の放心状態。辛く苦しくて、とにかくここから逃げ出したい。そんな経験が全くない人などいるのでしょうか(いるかもしれませんが)。
かくして、私は死へ向かう想念自体は、共感します。それは「私なりに」ですが、人間が他者と完全に同一化することができない以上、全ての共感は「私なりに」です。
もちろん、自殺は起こってほしくない。
しかし、願うだけではどうにもならない。
他者を極度の苦しみから解放することは簡単ではない。
そんな中で、子どもたちに対して大人は何ができるのか。私は自分が身につけた、あるいは参考にしている「生きのびるための術」を提案してみたいです。
とはいえ、悩んでいる子どもたちがそのまま実践するのはハードルが高いこともあるでしょう。大人や教員が4つのポイントを心に持ち、状況に応じて子どもに(さりげなく)提案することも必要です。
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第一に相談します。
相談相手は生身の人間のこともあれば、書物の場合もあります。ヒントをもらえるかもしれません。もっと辛い体験に耳を傾け、自分の苦しみから距離を取ることができるかもしれません。大人や教員が自身の体験談を伝え、相談しやすい環境を作ってみるのはいかがでしょうか。
第二に好きなことに逃げます。
時には映画、時には美術、本。私が朝起きて走り、就寝前にヨガをするのも生きのびる術です。最近の子どもたちであれば、時にゲームや音楽・漫画などに没頭する時間も(行き過ぎは禁物ですが)必要だと、大人も許容の精神を持ちましょう。
第三にアウトプットします。
誰かに向かって吐き出すこともあれば、ノートに書くこともあります。表現すると、自分を相対化することができます。一日悩み、ノートに向かってペンを手にした瞬間に気が楽になることも度々です。不特定の相手とのSNSでのアウトプットは、もろ刃の刃となることもありおすすめしません。
第四に悩みから問いを立ち上げます。
私は日常的に誰かから答えを与えられたり、指示されたりするのが嫌いなので、自分で問い、考える癖があります。その癖が助けてくれます。
悩んでいる、困っている自分に気づいたとき、問いに変換しようとします。適切に問いを立てさえすれば、回答を試みるだけです。絶対選んではいけないものを消去し、ベストと思えなくてもベターなものに決めます。
「ベストでなくベターでも良いのだ」と大人や教員から伝え続けることも効果的です。
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若いときは、こんなふうに落ち着いて4つの術を述べることなどできなかったことでしょう。年をとったお陰です。年をとった者の知恵を若い世代に伝えていく、人生の楽しみを伝えていく、そんなバトンをつないでいきましょう。
「生きのびるため」の術。そもそも「生きのびたい」という欲求が根底にはあります。会いたい人がいます。会えなくなったら嫌だなという人がいます。行きたいところもやりたいこともまだまだあるのです。
自殺防止。鍵を握るのは、私たち大人がステキな人生を生き、子どもが早く大人になりたいと思えるような背中を見せることです。
◇学校現場でできること
現在、学校では、相談すること、SOSを出すことの重要性を教えています。自立するとは、何もかもを自分でやり切ることではなく、必要に応じ、人に頼ることです。
電話やオンラインで相談できる窓口があります。広報ポスターやリーフレットが無料でダウンロードができますので、学校内で活用するのも一手でしょう。
NPO法人ライフリンクさんの記事も大変参考になります。
そして、最も重要なことは、子ども、若者たちが「生きたい」と思うことです。「あんなに楽しそうに大人が人生を送っているならば、踏ん張ってみようか」と思うことです。
麹町中、横浜創英中高の元校長、工藤勇一氏は次のように言っています。
では、どんな「学校の大人」が「素敵」なのでしょうか。
つまり、お読みの皆さんが出会った、素敵な先生とはどんな先生ですか。
私が思うのは、次のような先生です。
・授業や生徒との関わりを楽しんでいる先生。
・問題に打ちひしがれているのではなく、解決しようと挑戦している先生。
・変化に流されるのではなく、変化をつくりだそうとしている先生。
・自己の考えやイメージに対する健全な批判精神のある先生。
・教育の信念がブレない先生。
もう一つ、付け加えます。
私は8月、秀明大学主催「高校生のための未来教師塾」のお手伝いをしました。北海道各地から教育者を志す高校3年生が集まっていました。「理想の先生とは?」のワークショップの中で次の言葉が記された付箋がありました。
「上の人にも物を言える教師」。
完璧で、非の打ち所がない先生ではありません(そんな人はいないでしょう)。大切なのは、考え、変えていこうとする姿勢です。
自殺の未然防止策は、それだけを取り出して行われるようなものではないかもしれません。
特別なことではなく、日常的に「素敵な先生」「素敵な大人」とやりとりをしていることが大切ではないでしょうか。
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