普段からできる最強の入試対策とは⁈大学入試から見た「読解力」の現在地【代ゼミと考える読解力#3】
こんにちは、代ゼミ教育総研note、編集チームです。
読解力の連載は早くも3回目を迎えました。
第1回では「読む」について思いを巡らせ、
第2回では「読解力」の現状を知りました。
今回は「大学入試から見た『読解力』の現在地」。
大学入試に精通している奥村研究員が、大学入学共通テストを軸に分析します。
共通テストが課す、いまどきの「読解力」とは
大学入試で問われる学力が、高等学校教育のみならず、小学校・中学校における教育にも大きな影響を与えているといわれるなか、読む力、「読解力」はいまの大学入試でどのように問われているのか。
ここでは、開始から4年が過ぎた大学入学共通テスト(以下、共通テスト)を中心に、「読解力」を測る出題がどうなっているのか、その現状を見てまいりましょう。
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共通テストは、前身の大学入試センター試験(以下、センター試験)を受け継ぐ形で、2021年(令和3年)よりスタートしました。マークセンス方式等はそのままであるものの、問われる学力像は大きく変わりました。
大学入試センターが発表している共通テスト全体の出題方針はこちらになります。
令和6年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等.pdf
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▶とにかく、「思考力、判断力、表現力」を
ここで謳われている方針のポイントをかいつまんでまとめると、
「高等学校教育を通じて大学教育の入口段階までにどのような力を身に付けていることを求めるのかをより明確にしながら」、「高等学校教育の成果として身に付けた,大学教育の基礎力となる知識・技能や思考力,判断力,表現力等を問う」問題作成とする。
そして、
「平成21年告示高等学校学習指導要領において育成することを目指す資質・能力を踏まえ,知識の理解の質を問う問題や,思考力,判断力,表現力等を発揮して解くことが求められる問題を重視する」としています。
ここから浮かび上がってるのは、「思考力、判断力、表現力」を測ることに重きを置く出題をする、というかなり徹底した宣言です。
「思考力」という言葉がこれほど何度も繰り返し登場しているのですから、さぞかし共通テストでは高度で哲学的な意味も含めた考える力が要求されるのではないか、と思った方もいらっしゃることでしょう。
では、実態はどうなっているのでしょうか。
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▶思考する前に、読むべき対象物はどうなっている?
まず、われわれが注目したいのは、解答に当たって「読解」すべき対象物がどうなっているのか、です。
(読解というと、国語だけの話と勘違いしやすいですが、読解力はすべての教科・科目で要求されるということが前提です)
それについては、
「生徒が学習する場面や,社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等を基に考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定を重視する」
とし、 「どのように学ぶか」を踏まえた問題の場面設定、を想定した問題文にしたい、ということが記されています。
そうした方針によって、共通テストの出題は実際にどうなったのか。
出題された試験問題そのものは、大学入試センターのホームページで公開されていますし、代々木ゼミナールでも分析・講評を公表していますので、是非ご覧いただきたいと思いますが、
簡単に変化の特徴を列挙すると、
●問題文が長くなり、ボリュームアップ
●複数の問題文や資料を組み合わせた問題の出題
●対話文・会話文、授業や社会生活等の場面を想起させる問題文の頻出
となるでしょう。
こうした傾向がすべての教科・科目で顕著にみられるようになったのです。
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▶ボリュームが大幅にアップした問題文
とにかく、一番大きく変化したのが、問題文や資料のボリュームが大幅アップしたことです。
それによって、受験生の負担は大きく増したとの声が異口同音に出ています。
たとえば、数学の試験はまるで国語の試験のようになった、と言われるくらい、読む文章量が驚くほど増大したのです。
試験時間は、一部の科目で少し長くなったものの、概ね同じ試験時間ですので、問題文が大幅に増大したことで、受験生は解答する時間を確保するためにも、一にも二にも、ひたすら早く読まなければいけない状況が生まれたのです。
ですので、試験時間中、もう一度最初に戻って見直すことが難しくなったばかりか、下手をすれば、最後の問題までたどり着けない、という悲劇も増えているのです。
それに加え、複数の問題文や資料が提示された出題があちこちに現れましたので、それぞれをきちんと読み、それらを対比させて分析し、答えを導くという新たな手間も加わりました。
受験生たちは、短い時間のなかでこうした作業をテキパキと正確にこなせるかが、問われることになったのです。
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▶学校での授業の場面につながる、“太郎・花子問題”
更に見逃せないのが、対話文、会話文がほとんどの教科・科目の問題文において目白押し状態になっている点です。いわゆる“太郎・花子” 問題です。
もちろん、一般論として、会話や議論におけるやり取りをしっかり理解・把握し、誰がどういう意見を持っているのか、というような構造をしっかり理解するという能力はとても大切でしょう。
しかし、それを、わざわざほとんどの教科・科目で繰り返し出題する必要性が果たしてあるのか?
1科目だけならともかく、ここまで、対話文・会話文に多く出くわすことになる受験生は、切羽詰まった短い試験時間の中、どのような気持ちになるのか、、、
こうした状態が果たして適当適切なのか、一度検証してほしいという気持ちも起きますが、この点に関して大学入試センターが発信する次のフレーズも注視しておかなければいけないでしょう。
「高等学校における『主体的・対話的で深い学び』の実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し…」
つまり、対話や会話は、実際の授業で行われる(はずの)、先生や生徒たちの間で交わされる活発なやり取りの場面を想定しているというわけです。
もっと言えば、共通テストでは理想とする授業場面を想起したような出題をするので、学校の現場でも、そのような授業運営をしてくださいね、という高等学校の先生方に対するメッセージを込めている、ということなのです。
普段から学校でこのような授業をちゃんとしていれば、共通テスト対策は心配ありません、という大学入試センターからのアドバイス、あるいは親心なのでしょうか。
実際に出題された共通テストの多くの教科・科目の出題文をみると、あちこちに、こうした授業を思い起こさせるような設定が数多く見受けられます。
ですから、“太郎・花子”問題も多く出題されているのですね。
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▶問われているのは、「速読即解力」「情報処理力」
ここまで共通テストの出題方針と、実際の出題傾向のアウトラインを見てまいりましたが、こうやってみてくると、
大学入試センターが盛んに唱えるところの「思考力、判断力」とは、実は、
「速読即解力、情報処理力」
と言い換えたほうがよさそうであることは、みなさんもお分かりになると思います。
本来、読解力の基本は、
書かれている内容を正しく理解する、
ということのはずですし、これは共通テストに限らず、全ての入試問題についてあてはまる鉄則中の鉄則です。
そのためには、文章や文脈を精密に分析する作業は必須ですし、そのためにはある程度の時間はかかるものです。
ところが、現在の共通テストのように、あまりに厳しい時間的制約が設けられてしまうと、そうした作業を端折らざるを得なくなる、つまり、少々間違っていても、すっ飛ばして、おおよその意味さえ把握できればそれでよしとする、という誤ったメッセージにつながらないか、心配になります。
しかし、昨今、生成AIをはじめとするめざましいICT技術の発達があり、日々、莫大な量の情報に接し、そのなかから進むべき方向を常に見つけて生きていかなけない現代人にとって、こうした共通テストの方向性は致し方のない一つの宿命なのかもしれません。
AIに負けないよう、受験生もがんばれ、といったところでしょうか。
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▶来年度の新課程入試では、現状を踏襲か
さて、共通テストは来年、令和7年(2025年)度、新学習指導要領に基づく変更がなされます。
国語については、
●試験時間90分
●大問5題構成
●増加する大問1題は配点20点の「実用的な文章」による
●現行4大問の配点は1題45点
といった変更がなされると予告されています。
ただし、このように、全体の枠組みだけがわかっているだけですので、具体的な作問がどのようになるのか、詳細はまだはっきりしていません。
既に発表になっている問題作成方針を読む限りでは、これまでの方針から大きな変更がありませんので、おそらく、これまでの共通テストの方向性が踏襲されるものと予想されますが、とくに「実用的な文章」による出題は、従来の評論や論説、小説ではない、日ごろ皆さんが日常よく目にする雑多な文章が用いられますので、どのような出題になるのか注目です。
大学入試センター「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針」.pdf(令和5年6月9日 掲載)
「読む」からはじまる、更なる行為への展開
ところで、「読む」という行為は、単に書かれた内容を正確に把握することだけでなく、「読む」ことを契機として始まる、更なる行為への展開が不可分のものとして付随しています。たとえば、
「読む」ことで、
新しい知識や世界を「知る」、
喜びや悲しみを「感じる」、
疑問や問題意識を抱き「考える」、、、
そして、それらの総決算として沸き起こってくる自己表現への意欲、つまり「書く」「話をする」行為である「伝える」。
ですから、入試において「読解力」を測るといった場合、これらの次なる行為も射程に入れて、まとめて評価するケースはこれまでも多々見られてきていることは、今さら指摘するまでもないでしょう。
「読む」ことの背後には、多様な次なる行為、敢えて言うならば豊饒な世界が存在している、というわけです。
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▶「豊かな表現力」に期待
そうした意味で、東京大学が発表している「高等学校段階で身につけてほしいこと」の「国語」の部分に書かれた、次のメッセージを最後に確認しておきたいと思うのです。
つまり、東京大学は、「文章を筋道立てて読みとる読解力」があるかどうかを、「正しく明確な日本語によってあらわす表現力」で測ることにしており、そのためには記述式の設問が必須と考えているわけです。
そして、とくに注目すべきは、
としている点です。
「読む」経験を日々積むことで培われ、さらに、「読む」ことで触発され、そこから溢れ出る豊かな表現力を問うているのです。
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▶「読む」ことの多様さ、奥深さを
このように「読む」ことの奥深さを分からせてくれる入試問題は、数は少なくなったものの、一部の大学では脈々と受け継がれ、実施されているのです。
総合型選抜や学校推薦型選抜がメジャーになりつつある現在、共通テストだけではカバーしきれていない「読む」能力を測る一般選抜がしっかり存在している、ということも忘れてはいけないでしょう。
高校生や大学受験生のみなさんには、これまでご紹介したように、「読む」ことの多様さ、奥深さを是非ご認識いただき、日ごろ目にするいろいろな「読む」物に対し、心して一つひとつ丁寧に接していただければ、と願います。
それが、普段から実行できる最強の入試対策になるでしょう。
いかがでしたか?
現実社会で求められていること、大学受験生に求められていること、学校現場で求められていること、その理想と現実とをつなぐ(役割を期待されている)大学入試試験…改めて、読解力と高等教育について考えさせられる内容でした。
今回の記事では主に「一般選抜」について考えましたが、次回は、「総合型選抜」・「学校推薦型選抜」についても考察します。
★関連記事★
共通テストの全体像をつかみたい方はこちら☟
高校受験についてはこちらの記事が参考になります☟
(高校受験も共通テストの出題傾向に大きく影響を受けているのですね)
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