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サピエンス社会で密かに繰り広げられるステータスゲーム。──ヒトはなぜ、己の「地位欲」を素直に認められないのか #StG ⑴ |進化心理マガジン「HUMATRIX」

" 人間的な、余りに人間的なものは大抵は確かに動物的である。" ────芥川龍之介


✔︎全ての動物は競争する


全ての動物は競争する。
これは進化論的宿命だ。

生命界において〝競争〟とは、たとえそうしたいと思わなくても、たとえそうしたくないと思っていても、必然的に発生するものなのだ。

生命の起源と存在理由に関するリチャード‪·‬ドーキンスの説明を振り返ろう。;

自己複製子の変種間には生存競争があった。それらの自己複製子はみずから闘っていることなど知らなかったし、それで悩むことはなかった。この闘いはどんな悪感情も伴わずに、というより何の感情も挟まずに行われた。”

" ────だが、彼らは明らかに闘っていた。それは新たな、より高いレベルの安定性をもたらすミスコピーや、競争相手の安定性を減じるような新しい手口は、すべて自動的に保存され増加したという意味においてのことだ。”

改良の過程は累積的(cumulative)だった。安定性を増大させ、競争相手の安定性を減じる方法は、ますます巧妙に効果的になっていった。──なかには、ライバル変種の分子を化学的に破壊する方法を「発見」し、それによって放出された構成要素を自己のコピーの製造に利用するものさえ現れただろう。これらの原始肉食者は、食物を手に入れると同時に、競争相手を排除してしまうことができた。”

おそらくある自己複製子は、化学的手段を講じるか、あるいは身の回りにタンパク質の物理的な壁を設けるかして、身を守る術を編み出した。──こうして、最初の生きた細胞(Cell)が出現したのではないだろうか。自己複製子は"存在"をはじめただけでなく、自らの"容れ物"、つまり存在し続けるための場所をも造りだしたのだ。”

>参考:「利己的な遺伝子」と「生存機械」



ホモ・サピエンスは他の種と同じく〝利己的な遺伝子〟を搭載された動物だ。その心理と行動を司る本能的プログラムは、つねに生物学的利益を計算し、適応的な観点から〈損得〉を算出し、最も得する選択へと個体を駆り立てている。

ホモ・サピエンスという猿は〈地位〉をめぐってステイタスゲームを四六時中繰り広げている。



だが、我々サピエンスの地位競争は、ほかの動物たちの地位競争と比較して、すこし独特だ。

我々サピエンスは殴って蹴ってではなく、連携や連合(コアリション)をつくる───いわば「人脈を築く」という形で、みずからのステイタスを高めようとする。


「人脈を築く」とは「協力する」ということだから、その行為が〈競争〉のために為されているということに気づけないのも無理はないかもしれないが、しかし一切の競争心を失くした人は、人脈を築くということに魅力を感じたり精を出したりはしないだろう。

────競争心を持たない個体は、競争心を持つライヴァル個体に遺伝子生存競争で敗北し、駆逐されてしまう。

それが進化論的公理だ。

だがここでいう〝競争心〟とはあくまで進化ゲーム上便宜的に使っている比喩的な言葉だということを強調しておきたい。ヒト社会で言われるところの「競争意識」とはイコールではない

自分は絶対に負けたくない、他人を打ち負かしてやる、という競争意識の強すぎる人は、人脈形成競争や、組織内出世競争ではむしろ不利になることもある。


連携パートナーに利益を「譲る」ことができない人、上司とのゴルフで「負ける」ことができない人は、競争意識が強すぎるせいで人脈形成競争や出世競争に敗北するだろう。

" できるなら勝ちたい、できるなら高い地位/ステイタスが欲しい、できるなら他者よりいい思いがしたい、できるなら他者より富みたい、できるなら他者よりモテたい・・・・・!!! しかしそういう思いはありつつも、競争意識を強め過ぎてしまうことによる〝脱落〟は避けたい────。"


それがホモ・サピエンスという動物にとって、進化的に最適なレベルに調節された(=つまり遺伝子生存競争に最も勝ち残る確率が高かった)競争心のデザインということになるだろう。

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