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学校と地域が一丸で子どもを育てる!まちづくり学習の魅力とは?

この記事は、以下のマガジン内にある5つの記事の続きとなっています。


■ 各年度のまちづくり学習の実施体制

  • 2020年度は,PBL(課題解決型学習)を導入したプログラムを実施。

2020年度のプログラム
  • 2021年度は,対象を中学3年間に拡張するとともに,地域住民との連携を強化した。

2021年度のプログラム
  • 2022年度は,TBL(チーム基盤型学習)を参考に異学年協働のチームプロジェクト形式の授業に変更した。

2022年度のプログラム
  • 2023年度は,異学年協働のチームプロジェクト形式の授業を発展させる形で,社会実装を前提としたプログラムに変更した。

2023年度のプログラム

■ 実施体制の違いによる生徒の学びの違い

⑴ 学習内容の理解度
「ふるさと学習で身についたことは何ですか?」という設問に対する生徒の回答。

  • 2020年度の生徒は「自分が考えていることを表現する方法」など,個人の作業スキルに関して回答する傾向がある。

  • 2021年度の生徒は「昔からある街並みを大切にしながら現代・未来の技術を取り入れる考え方」など,地域連携によって住民から影響を受けたと見られる回答が含まれる。

  • 2022年度の生徒は「高野山の課題を改善するためのビジネス知識」や「立案した解決策にどのような効果があるかを考える力」など住民から影響を受けたと見られる回答に加え,「リーダーシップ」や「人と協力して何かをつくる力」,「自分の意見と人の意見を重ねる力」など,異学年協働によって異学年の生徒から影響を受けたと見られる回答が含まれる。

個人のまちの認識を生徒間で共有できるようになった!

⑵ 学習を通じて新たに得た地域に関する知識
「まちづくり学習を通じて新たに得た地域に関する知識は何ですか?」という設問に対する生徒の回答。

  • 2020年度の生徒は「弁天公園の夜間ライトアップ」や「観音堂などのあまり有名ではない場所の歴史」をあげ,フィールドワークを実施した特定の場所に関心を示していることが分かる。

  • 2021年度の生徒は「一山総境内という高野山独特の都市構造」や,「豊かな自然環境」,「歴史的景観や自然環境保護の取り組み」をあげ,地域住民へのインタビューを通じて都市全体の魅力や課題に関心を示していることが分かる。

  • 2022年度の生徒は「精進料理の四季ごとのメニューの変化」や「桧皮葺職人が高野山にいること」,「DMC高野山の取り組み」,「伝統産業の後継者不足」,「伝統産業の継承に向けた人々の固定観念に囚われない取り組み」,「住民と観光客のまちを見る視点の違い」などを挙げている。また「異学年交流によって自分達の学年が考えたこと以外にも物事を考える範囲が広がった」と振り返る生徒がいることから,異学年協働によって都市の魅力や課題に対する関心の幅がより広がっていることが伺える。

地域の方々と話す機会が増えた!

⑶ 自分の成長を実感したタイミング
 成長を実感したタイミングについて回答を求めた設問に対する生徒の回答。

  • 2021年度の生徒は「企画公室の方が来てくださり僕の班が出した案への問題を教えてもらったとき」など,ステップ2やステップ3のワークにおける地域住民や役場職員から受ける意見が成長を実感する機会となったという回答が複数あがった。

  • 2022年度の生徒は,2021年度の生徒と同じく地域住民から受ける意見が成長を実感する機会となったのに加え,「各学年が学んだことを合わせて高野山の課題を解決する提案を考えるとき」など異学年協働が成長を実感する機会だったという回答が複数あった。

多種多様な意見が混ざり合うようになった!

⑷ 今後のまちづくり学習で取り組みたいこと
 「まちを良くしていくために今後のまちづくり学習で取り組みたいことは何ですか?」という設問に対する生徒の回答。

  • 2020年度の生徒は「老朽化した公民館の建て替え提案」や「団地の公園や道路舗装の整備提案」など,生徒自身の身近な環境改善を提案したい意向を示す。

  • 2021年度の生徒は「高野山の人口減少の原因解明と対策の検討」や「空き家活用法の検討」,「ウォーカブルなまちづくりの実現に向けた提案」,「新旧が融合したまちづくりの検討」など,生徒の日常生活を超えた都市課題に関心を示している。

  • 2022年度の生徒は「高野山の伝統産業の継ぎ手が増えるようにしたい」や「自分達にできることは何かを考えて発信したい」などの回答に加え,「来年はもっとリーダーシップを発揮して提案を実現させたい」や「次回は人とのコミュニケーションを大切にしてより良いアイディアを提案したい」など,まちづくり活動への主体的な参加意欲を示している。

まちの未来について語り合う人の輪が広がった!

各年度の実施主体(学校教員)による授業内容の評価

  • 2020年度のまちづくり学習を実施した教員は,「これまでのふるさと学習は調べ学習が中心で,調べたことをまとめて発表するのみだったが,今回はクリエイティブな作業が加わり,生徒のこれまでとは異なる側面が表れてよかった」と振り返った。このように教員は授業を通して想像力問題解決能力表現力が養われた点を評価する。

  • 2021年度のまちづくり学習を実施した教員は,「地域住民にインタビューをする中で人としての生き方まで考えを深める生徒もいた」,「役場職員や町長のアドバイスにより生徒の探求が深まり,実現性の高い提案をすることができた」と述べた。このように地域住民へのインタビューや役場職員とのワークショップ,行政報告会への参加を通じて多様な価値観に触れることが,生徒の都市への理解を促した点を評価している。

  • 2022年度のまちづくり学習を実施した教員Aは「はじめは各学年で距離があったものの3年生を中心に本音を引き出し,後半部分では自由な形で興味があることを本気で取り組んでいたことに成長を感じた」,教員Bは「どうしたら提案内容がより良くなるかを生徒らが主張しあい,提案づくりに対して主体的に活動できていた」などと振り返った。このように教員らは授業を通して共創力コミュニケーション力主体性が養われた点を評価している。


■ 学校と地域の関係の変化

まちづくり学習の導入により、学校と地域の関係は大きく変化した。以下に、2020年度から2023年度までのまちづくり学習の内容を基に、学校と地域の関係の変化を示す。

  • 2020年度:まちづくり学習の初年度は、学校と地域の関係の確立が目標だった。生徒は町長からまちづくり政策や地域産業に関するレクチャーを受け、地域の現状を把握した。この取り組みにより、学校と地域の協力関係がスタートした。しかし、パートナーシップの形成は限定的だった。

  • 2021年度:2021年度は、学校と地域の関係をより深めるために、地域住民へのインタビューや役場職員とのワークショップが行われた。このような地域の声を取り入れることで、生徒たちは地域の課題や要望を的確に把握することができ、具体的なまちづくりのアイディアを検討することができた。この取り組みにより、学校と地域の間にお互いの声を交換するプラットフォームが形成された。

  • 2022年度:異学年協働プロジェクト方式の導入により、学校と地域の関係性は一層強化された。学校全体での取り組み方が統一されたことで、生徒たちは長期的な目標設定を共有し、担任教員の担当期間にとらわれずに地域住民との協力関係を築く機会を得た。さらに、教員や地域住民による授業方法の提案が行われ、多様な視点やアプローチが導入された。これにより、学校と地域の間のコラボレーションが促進され、お互いの専門知識や経験を活かした共同プロジェクトが成果を生み出した

  • 2023年度:社会実装型プログラムの導入により、学校と地域の関係性は更に発展した。地域住民や団体とのワークショップが何度も実施され、まちづくりの解決策や提案が具体化された。さらに、今秋には実際に社会実験を行い、地域からのフィードバックや意見を受け取りながら改善を図る。最終的には地域住民との対話を通じて、より良いまちづくりの方向性を確立する予定だ。このような取り組みにより、生徒たちはまちづくりにおけるパートナーシップの重要性を実感し、地域との連携をより深めることができるだろう。

生徒と町長,胡麻豆腐店主,教員が意見を交わす様子

生徒の都市環境認識の変化と持続性の要因

生徒の都市環境認識の変化は、以下の要因によって引き起こされたと考えられる。

  • 第一に、まちづくり学習における実践的な体験が重要だった。生徒たちはフィールドワークやアイデア作りなどの実践的な活動を通じて、都市環境に直接触れることで、認識の深化と変化を遂げた。

  • 第二に、自己表現能力の向上も重要な要素だった。生徒たちは提案やアイデアを考え、表現する機会を通じて、自己表現能力が向上した。特にグループでのディスカッションや発表の機会は、生徒の意見や考えを広げるのに寄与した。

  • 第三に、共同作業と協働の重要性も明らかとなりました。生徒たちは地域住民や異学年と協力し、共同で課題に取り組むことで、互いの視点やアイデアを共有し合う機会を増やした。この協働の過程が、都市環境への理解を深める要因となった。

また、長期的な追跡調査を通じて子どもの都市環境認識が持続する要因も明らかになった。

  • まず第一に、教育プログラムの継続性が重要だった。まちづくり学習が一度きりの取り組みではなく、継続的に実施されることで、子どもたちの都市環境への関心や認識が持続した。

  • 第二に、地域との連携と関わりも重要でした。子どもたちは地域のステークホルダーや関係者との交流や協働を通じて、都市環境への関わりを深めることが求められた。地域の活動や問題解決に参加することで、子どもたちの都市環境への関心が持続し、積極的な変化が見られた。


■ まちづくり学習の長期的な社会的影響の考察

まちづくり学習の実施を通じて、生徒たちの意識や関心は大きく変化した。彼らは自身の地域への帰属意識を深め、地域の課題に主体的に取り組む姿勢を身につけた。さらに、地域住民との協働や連携により、地域全体でのまちづくりの重要性が認識され、持続的な発展に向けた取り組みが進んだ。これらの評価結果は、まちづくり学習が子どもたちの社会的意識や能力を育む有効な手法であることを示している。そのため、まちづくり学習は、地域社会の発展と持続性を支える重要な要素として位置づけられるべきだと考える。

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