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夏目漱石「こころ」

 見てくれてありがトゥース

 今回は私が読んだ/読んできた文学作品について。
 
 夏目漱石の「こころ」は1914年に刊行された長編小説で、彼の代表作の一つ。

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 中学や高校の教科書にも乗っていることがあるみたいだけど、私は両方ともまともに勉強してこなかったタイプの人間(今ではすごく後悔しています)なので、そうだったけな、くらいの気持ち。

 おおまかなあらすじは

大学生の主人公「私」が鎌倉の海岸で「先生」と出会い、親しくなる。
先生と交際していくうちに私は大学を卒業していくが、
以前から芳しくなかった父親の容態が悪化。
実家に帰省した私はある日、先生から手紙を受け取る。
そこには、先生が学生時代に親友(K)を裏切り、
意中の女性と恋仲になることができたものの、
同じ女性に好意を持っていたKは自殺してしまったこと、
また、自分も自殺するつもりであるということが書かれていたのだった。

といった感じだろうか。
 もちろん、だいぶかいつまんでいるので、結構良いエピソードとかも取りこぼしているかもしれないが、そこは大目に見てね。
 
 私はこの作品を以前に読んだことがあって、つい最近読み返したのだが、まず思ったのは「こんなに読みやすかったっけ」ということだ。
 私は読書をする際、エンタメやミステリーよりも圧倒的に純文学を選ぶことが多いのだが、そのほとんどは三島由紀夫や太宰治といった、夏目漱石以降のものが多かった。
 それ以前の作品は文体や文化の違いで、読むのにかなり集中力を要する、といったイメージがあったためだ。
 
 ところがどっこい、この「こころ」は100年前の作品にもかかわらず、かなり澄んだ文体で、簡潔明瞭といった感じ。文庫本の最後にあった注釈も、ほとんど引くことなく読み終えてしまった。
 これは嬉しいギャップだったし、この作品と同時期に発表された作品と比較して見たい、という気持ちになった。

 ストーリーに関しては、あらすじを見ると暗い感じがするが、実際は半分が主人公と先生の交際を描いているので、全体としては一風変わった青春小説という見方もできそうだ。
 
 それでもやはり重要なのは先生の学生時代の話で、この部分で、主人公が見た先生の不可解な部分(夫婦げんかや秘密裏に墓参りするシーン)が種明かしされて行く。
 漱石の先生というキャラクターを描くのも巧みで、一見ミステリアスながらも、要所要所で彼の人間らしい部分を見せていくことによって、私(主人公ではなく、筆者です)はどんどん物語に引き込まれていった。

 特にKが死んでいるところを発見した際、遺書を真っ先にチェックし、自分にとって不都合なことが書いていないか読んでしまった場面は、当時の彼の心情や人間性がよく出ていると思う。それに、もし自分が先生と同じ立場だったとき、そのような行動をしないとも言い切れないな、と思ってしまった。
 そういった自分本位だった性格や行為への後悔から、主人公と出会った頃のような無感動な性格へと変化していったのではないか、と考えることができる(あらすじに入れるの忘れたけど、学生時代と主人公と出会った頃の先生とでは性格が少し異なっており、後者の方がやや内向的である)。
 この作品には論じられるべきポイントは色々あるのだろうが、私は特にこの二点(Kが自殺したあとの先生の行動とその後の性格の変化)が考えさせられるところだった。


 また、事件後の先生の厭世的で一人を好む態度は、友人を死に追いやった自責の念を持ちながら生きる「悲しさ」と「自分に対する苛立ち」から来ているものだと考えると、一人の時間を奪い、かつ先生を「できた人間」として評価する主人公の存在も、先生にとっては目障りなものだったのではないか、と思ってしまった。
 

* 

 漱石はこの先生の物語の後にも続く章を書く予定だった、というのを聞いたことがあるけど、一体どういうストーリーをこの後に想定していたのだろうか。
 個人的にはこの先生の手紙で終わったほうが読者に与えるインパクトが大きいので、これでよかったのではないか、と思う。
 若干唐突な終わり方な気もするけど、あまり多くを語らずに締めることで、物語の起伏よりも人間の本質や文章に芸術性を求める「純文学」というジャンルを「かなり」強調することに成功している、と感じた(三島由紀夫の「金閣寺」もそうかも)。

 そう思えば、純文学における続編や後日談は蛇足だと考える人の気持ちもわからなくもないかな。


 みんなの意見お待ちしてますう。



 余談だけど、以前就職面接で友人と同じ人を好きになってしまった場合どうするか、という質問を受けたことを書いてて思い出した。

 その時は、そのトリッキーな質問に動揺し、「友人関係を大切にしたい人間なので譲ります」としか答えられなかった。

 あれはなんて答えたら正解だったん。


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