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黒澤明監督「椿三十郎」を鑑賞。『若大将』+『東宝特撮』=豪華なキャスト!脚本の練り込みが、これまた凄い!

黒澤明の「用心棒」がヒットしたので、東宝サイドから、「三十郎もので続編を、ぜひ」ということで、山本周五郎の「日日平安」をベースに、ウェルメイドなコメディー時代劇をつくりあげた。
約1時間30分」。この短さが、娯楽映画として「ちょうど良い長さ」となっており、ラストの「アノ有名なシーン」で、ぱっと終わる。非常に心地よい終わり方である。
最近は日本映画も上映時間3時間なんてのもザラだが。劇場でトイレに行くのを我慢するのには、1時間30分〜1時間45分ぐらいの長さがちょうど良いとおもうのは、私が前立腺肥大でトイレが近い年寄りだからだろうか。。。

金魚のフンのように三十郎についてまわる若侍たちが、面白い。

当時の東宝の若手人気男優を勢ぞろいさせたキャスティングを見ていると、日活の川島雄三監督「幕末太陽傳」を想起させる。「幕末〜」も当時、日活アクション映画で人気絶頂だった石原裕次郎や小林旭二谷英明など、いきのいい旬の役者を勢ぞろいさせた。まさにオールスター映画である。

川島雄三監督「幕末太陽傳」より。


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東宝の正月映画だが、完成が遅れ元日の封切りとなっている(通常正月興行は年末から)。この作品は元々、かつて黒澤組のチーフ助監督であった堀川弘通の監督作品として黒澤が執筆した、山本周五郎原作の『日日平安』の脚本がベースになっている。『日日平安』は原作に比較的忠実に、気弱で腕もない主人公による殺陣のない時代劇としてシナリオ化されたが、東宝側が難色を示したため、この企画は実現しなかった。その後、『用心棒』の興行的成功から、「『用心棒』の続編製作を」と東宝から依頼された黒澤は、陽の目を見ずに眠っていた『日日平安』のシナリオを大幅に改変し、主役を腕の立つ三十郎に置き換えて『椿三十郎』としてシナリオ化した(共同執筆は小国英雄菊島隆三)。なお、黒澤は『日日平安』の主役には小林桂樹フランキー堺を想定しており、『椿三十郎』で小林が演じた侍の人物像には『日日平安』の主人公のイメージが残っている。

ウイッキー先生より引用

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「用心棒」と同じく三船敏郎演じる三十郎が主人公だが、続編ではなく姉妹編だろう。

家老の陰謀とそれを阻止しようとする若侍というストーリーは定番だが、豪快な殺陣、適度なユーモアなど、娯楽映画としてのレベルは高い。

中盤、捕らわれの身になった若侍を救うため一人で数十人を斬りまくる場面では、とどめを刺すために必ず二度斬りしながらアッという間に敵を全滅させてしまう三船敏郎の殺陣の凄まじさ。アクション映画として満点の出来。
黒澤映画では殺陣を担当する久世竜の功績も大きい。

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この映画は配役が絶妙で黒澤映画の中ではもっともキャスティングが成功した作品の一つだろう。


三十郎と対決するこちらも切れ者、室戸半兵衛を演じるのは仲代達矢。この時若干30歳だが既に成熟した顔立ちで、今の大芝居ではないギラギラした感じの仲代達矢は最高。

そして若侍たちを演じるのはこの頃東宝映画で活躍していた面々で加山雄三(若大将)、田中邦衛(青大将)、平田昭彦(芹沢博士)、土屋嘉男(利吉、ミステリアス星人)、久保昭(マタンゴ)など。


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しかし、この作品のキャスティングの成功の要因はなんといってもユーモアの部分を受け持つ脇の俳優たちの素晴らしさにある。

馬面のとぼけた顔して実は有能な伊藤雄之助(超少ない出番であの存在感はすごい。まさに名脇役だ)
のんびりマイペースの入江たか子団令子の母娘コンビ。
入江たか子は、ゆ〜〜くり呑気に自分の意見を語るだが、この意見がまさに的を得ている。「良い刀は、鞘におさまっているものですよ」なんて、うまい!と膝を打った。これに対する三船敏郎のなんともいえぬ困った表情がこれまた愉快愉快!

最後にちょいとデてくる伊藤雄之助。実は人格者である。
呑気な母と娘。

そして人質でありながら押入れの中で話を聞いているうちになんとなく若侍の味方になってしまう小林桂樹この小林桂樹が圧巻で、ひとしきり話したり、食事をした後に自主的に押入れに戻るところなど最高に面白い。東宝の俳優でありながら黒澤映画はこの1本のみ、もったいない。

若侍たちがいない間に、勝手にご飯を食べているちゃっかりした敵の侍の小林桂樹。
小林桂樹は、敵なのに、若侍を諭したりする「苦労人」である。


それまでの時代劇の殺陣の常識を覆す豪快なアクション映画の「用心棒」には少しユーモラスな場面もあったが全体的には陰惨なイメージもあるが、この「椿三十郎」はユーモラスな部分が前面に出て「用心棒」とは違った印象の傑作になった。

「用心棒」よりもコメディー色が強い「椿三十郎」のほうが好きだなぁ・・・。

ちなみに、撮る撮る詐欺で有名な長谷川和彦監督「太陽を盗んだ男」のクライマックスで、「赤の線を切るか?白い線を切るか?(だったかな)」→「どっちでも切りやがれ!」のネタ元は、この映画だと思います。

どちらのコードを切るのか?は、このシーンのことです。

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2007年に、森田芳光監督が同じシナリオでリメイクしたが、まあ、それなりに面白かった。織田裕二には、ちと、荷が重すぎたかな、と思いましたが。

織田裕二版、三十郎。



今は、2000円ぐらいで買えます。十年ぐらい前は東宝のDVDはムチャクチャ高額だったのですよ。

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