見出し画像

【維新・選挙ボランティア潜入記】(後編) 参議院選挙・東京選挙区の「維新」えびさわ由紀のボランティアに参加した結果…。「ネットに晒すぞ!」とすごむ維新のヤクザスタッフ!

ボランティアの活動であるビラ配りだが、果たしてどうやって配るのが一番いいのか。

「週刊ポスト」より。

 前方から10人が歩いてきたとしよう。しかし、ここで10人の誰かが受け取ってくれるだろうと考え、ただビラを差し出しては取ってもらえない。10人のうち1人に的を絞り、2メートル先から用意して、1.5メートルで「日本維新の会、海老沢由紀をよろしくお願いします」とトーンを上げて声をかけ、ビラを差し出す。相手が目でビラを追ってくれたら脈あり。

 渡そうとしても無駄なのは、スマホで動画を見ている人、イヤホンで音楽を聴いている人、携帯電話で話している人、荷物などで両手が塞がっている人、明らかに急いでいる人──などなど。

 ビラを配るときに一番やってはいけないのが、見境なく配ることだ。私が「キリキリ君」と呼んでいた40代前半の選挙スタッフがいた。選挙運動に携わった経歴は長いようだが、前から歩いて来る10人全員にビラを渡そうとして、1枚も取ってもらえないという愚行を何度も繰り返す。いつもキリキリと1人で舞い上がって、周囲から疎んじられている男だった。

 このビラ配り、立ち仕事なので足腰に負担がかかるが、それ以上に精神的なダメージが大きい。というのも、このビラ、めったに受け取ってもらえないのだ。

池袋駅や新宿駅で平日の昼間にビラを配ると、受け取ってくれるのは100人に1人か2人ぐらい。居酒屋や金融機関のチラシにならついてくるティッシュペーパーさえないのだから、丸ビラに対する反応は冷淡になる。

 声をかけた人の約半分は完全に無視。3割はビラ配りを避けながら歩いて行く。2割は、いや結構です、と目顔であいさつを送ってくる。その間に、「邪魔なんだよ。どけよ」や「うるさいんだよ」、「なに公道で選挙運動やってんだよ」などの罵声や怒声が交じる。これだけ疎んじられると、やる気を維持するのが難しい。

◆◇◆

■潜る選挙

100人のうち1人、2人しかビラを取ってもらえない状態では、東京選挙区での当落ラインである50万票どころか、10万票の得票も見込めないのではないか、と訝しんだ。海老沢陣営全体が1日に配るビラの数は約3000枚。18日配っても、せいぜい6万枚にすぎない。1000万人を超える有権者がいる東京で、6万枚のビラを撒いたとしても大海の一滴にすぎないのではないか。

 しかし、そうした表立った選挙活動だけを見ていては維新の集票力を見誤る、というのは関西学院大学教授の冨田宏治だ

通常の選挙活動以上に、維新は“潜る選挙”を得意としているのです。街頭演説と並行して、地方議員などに1日600件のようなノルマを課して、支持者や中小企業の経営者などに投票をお願いする電話をかける。大阪の選挙では、100人以上を潜る選挙に動員したこともあります。加えて、かなり精密な名簿を持っており、そうしたことが維新の選挙活動の原動力となっています

 ボランティアからでは、“潜る選挙”の実態はなかなか見えてこないが、一度、LINEにこんな投稿があった。投稿主は、元衆議院議員で現在、維新に所属する竹田光明だ。

「皆様、お疲れ様です、竹田です。衆議院議員時代の選挙区は東京25区でした。25区時代は、後援会もしっかりし、地域との関わりも強かったです。今、25区の名簿と、駒場東邦(出身高校)の名簿でひたすら電話しています。街宣には行けませんが、共に戦っているつもりです」

 一日中、文字通り分刻みのスケジュールで動くので、ボランティア同士が言葉を交わす機会は少ないが、三軒茶屋駅から目黒駅に移動したとき、私に声をかけてくれたのは40代の男性。大阪維新の会が開く大阪維新政治塾の3期生だという。

「もう7年もボランティアをやっているんですよ。長すぎますよね」と自嘲気味に笑う。

「ボクも選挙に出たいんですけれど、なかなかタイミングが巡ってこないんですよね」

 政治塾では何を勉強するのか、と私が訊けば、

「一番大事なことは維新のスピリットを学ぶことです。政治家が自分の身を切る改革を行なわないと、無駄のない行政を運営することはできないという点です。自分の私利私欲のためじゃなく、日本のために政治を行なうという志ですよ」

(引用者からひとこと:「維新政治塾」では、「いかにウソをつくか」「いかに法律違反すれすれの選挙活動を行うか」「自分が言っていることが間違いだと気づいても、大声で話をすりかえろ。そうすれば、こっちの勝ち」など、詭弁の方法、ウソの上手な付き方など「政治の反則行為」をいやというほど叩き込むのがこの塾の真実の姿である

「大阪維新政治塾」の応募バナー。

ちなみに「大阪維新政治塾」の受講料は「50,000 円 (交通費・懇親会・特別課外授業など別途個人負担有)」である。

れいわ新選組の「れいわ政治塾」の受講料は「1000円」である。

◆◇◆

■だれも足をとめない

選挙戦の最終盤になって、大きな事件が起きた。安倍晋三元総理の暗殺事件である。

 私はこの日、午前中に取材を終え、午後一番の街宣活動から参加する予定だった。

 グループのLINEには、12時半に、安倍銃撃事件を受け、いったん街宣活動を中断して、午後2時半から再開する旨が流れてきた。しかし、その後、「党本部から通達があり、本日8日の選挙活動はネット発信も含めすべて中止・終了いたします」というメッセージが流れてきた。少しでも長く選挙活動をしたかった海老沢陣営には、痛恨の空白となった。

 維新の選挙活動で目立つのは、聴衆からのヤジや抗議活動と、それに過剰に反応する維新陣営の体質だ。

 党代表の松井一郎が三軒茶屋に来て、「何でも反対の野党ではダメ。自民党をピリッとさせる野党が必要だ」や「身を切る改革」について話していると、「大阪に帰れ!」というヤジが飛んだ。その直後の目黒駅でも私の目の前を、白のワイシャツ姿の50代のサラリーマンが、「帰れ、帰れ、大阪に」とつぶやきながら、通り過ぎるのを見た。

 その後、吉村洋文が7月2日の新宿駅前で演説を始めたとき、抗議を始めた男性に向かって参院議員の柳ヶ瀬裕文が詰め寄って排除している動画がネット上に残っている。

 私が立ちあったのは、7月7日夕刻、吉村が田町駅で演説を始めたとき、駅のデッキ部分から「大阪、帰れ!」「大阪、帰れ!」のコールが起こった。

 私はすぐにデッキ部分に駆け上がろうとするが、テンガロンハットをかぶった男性が、維新のスタッフ2人と音喜多駿に追いかけられるようにして駆け下りて行った。

 私とすれ違いざまに追いかけていた維新の3人のうちだれかが、「こっちは、お前の名前、分かってんだぞ! ネットに晒すぞ!」とすごんだ

 その男たちの後をネット配信担当の女性スタッフが、動画として証拠を押さえるためなのか、スマホを持って追いかけて行った。時間にしてほんの1、2秒のこと。

 後日、この男性を見つけて話を聞いた。ヤジを飛ばしたのは、東京在住の男性会社員だった。

初めは、海老沢に向かい、『ボーナス泥棒!』と4回叫びました。彼女が、大阪市議としてボーナスがもらえるぎりぎりまで議員をやり、その直後、東京選挙区で立候補したのが納得できなかったからです。その後、吉村に向かって、『大阪、帰れ!』と4回ぐらい叫んだところで、維新のスタッフ4人に押さえつけられ、居た場所から無理やり引きはがされました。そのうち1人が、『痛い痛い! ケガをした。警察を呼べ』と言いがかりをつけて私を抑え込もうとしたので、逃げたんです。

 吉村に叫んだ理由ですか? 維新が進める新自由主義的な政治が、日本を破壊するんじゃないかという危機感からです

えびさわの胸を触るスケベな「維新」猪瀬。触られて喜ぶ「維新」えびさわ。

◆◇◆

■「維新」が全国区になるのは、まだ先のこと

維新の党勢が拡大するにつれ、こうした批判を封じる強権的な態度には疑問符が付くことになるだろう。

 18日間の選挙戦で最も印象深かったのは、海老沢の演説にほとんどだれも足をとめることがなかったことだ。応援弁士なしで海老沢が演説したとき、一番多くの人が足をとめたのは、選挙投票日前日の豊洲駅前のことで10人前後だった。どうして豊洲駅前かといえば、海老沢や音喜多の居住地で、家族や顔見知りが応援に来たからだ。


 共同代表の馬場伸幸が応援にやって来ても、ほとんど集客につながらない。歩いている人からは、「いったいあの人、だれなの?」という冷ややかな空気が流れてきた。


松井一郎や吉村洋文になって、ようやく街ゆく人は足をとめる。しかしそれにしても、50人から最大で100人だ。


 吉村や松井といえども、東京での知名度や集客力はまだまだ足りない。


 私は、東京都でトップ当選を果たした朝日健太郎の応援演説に、前総理の菅義偉が有楽町駅前に来たのを見に行った。私が初めて海老沢のボランティアとして参加した同じ場所である。書店の入った2階から撮った写真には、炎天下にもかかわらず300人を超す聴衆が写っている。


 自民党だけじゃない。共産党の山添拓も、れいわの山本太郎も見に行った。どの候補者と比べても、海老沢の集客力のなさが際立った。


 日本維新の会が、どれだけ大阪で怪気炎を上げようとも、全国政党となるには、まだまだ道のりは遠い。

れいわ新選組「山本太郎」代表の当選を観て、うなだれる「維新」えびさわ由紀の陣営。

◆◇◆

<著者について>
【プロフィール】
横田増生(よこた・ますお)/ジャーナリスト。1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。1993年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。1999年よりフリーランスとして活躍。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』で第19回新潮ドキュメント賞を受賞(8月に『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』と改題し刊行予定)。近著に『「トランプ信者」潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ』。

※週刊ポスト2022年7月29日号より引用

2019年に発刊された本の「増補改訂版」。元本を読んだが非常に面白い。おすすめします。


最後までお読みいただき誠にありがとうございます。私の記事はすべてが「無料」です。売り物になるような文章はまだまだ書けません。できれば「スキ」をポチッとしていただければ、うれしゅうございます。あなたの明日に幸せあれ。