見出し画像

小林信彦「おかしな男 渥美清」を読了。渥美氏の本当の姿に驚く。「寅さんではない」

小林信彦の喜劇人に関する本は面白くて為になるものが多い。この本もその中の一冊である。

◆◇◆

■私と渥美清との出会い

子供の頃は、近所のおばさんに映画館で任侠映画ばかり見せられていた。したがい昭和48年の正月、中一の時に立川で見た「男はつらいよ 寅次郎夢枕」(第10作)と同時上映のドリフターズの映画は良く覚えている。映画館は大爆笑の渦。今、思えば大したギャグではない。「おい、さくら、そこのミドリ取ってくれ」。これだけでも場内大爆笑である。日本人が車寅次郎に洗脳されていたのかもしれない。

画像2

◆◇◆

■本書の概略

本書は渥美清という人間を描いたノンフィクションの傑作。作家の小林信彦さんは20代の頃から渥美清と親交があった。「夢であいましょう」の頃だ。初めて渥美清が小林さんに挨拶した言葉が「金が欲しいねぇ」。そして「アベベは純情な青年なんだねぇ」「戦争は起こるかねぇ」と続く。このつかみの良さからハマってしまい、ほぼ一気読みだった。

画像2

◆◇◆

■一番、印象的だったくだり

彼は複雑な人物で、さまざまな矛盾を抱え込んでいた。無邪気さと計算高さ。強烈な上昇志向と自信。人間に対して幻想を持たない諦めと、にもかかわらず、人生にある種の夢を持つこと。肉体への暗い不安と猜疑心。非情なまでの現実主義。極端な秘密主義と、誰かに本音を熱く語りたい気持ち。ストイシズム、独特の繊細さ、神経質さをも含めて、この本の中には、ぼくが記憶する彼のほぼ全てを書いたつもりだ」。車寅次郎とは全く違う渥美清が450ページの厚めの文庫本に描かれる。

画像3

◆◇◆

■昭和のコメディアンが続々登場

本書で「男はつらいよ」が登場するのは、後半以降。前半はテレビ創成期の頃の作家と渥美清との交流、当時の俳優やコメディアンと渥美清の関係が中心に描かれる。小林さん自身が「記憶力には自信がある」と書かれている通り、その描写には真実味がある。伴淳三郎植木等フランキー堺ハナ肇、などなど、昭和のコメディアンが続々と登場する。

画像4

画像5

画像6

画像7

◆◇◆

■「男はつらいいよ」に関する論評

中盤に「男はつらいよ」の詳細な評論があるが、これも楽しい。ただ、渥美清が45作目以降、病魔におかされながら寅さんを演じる様子は痛々しい。個人的には初期の方が好きだ。
個人的ベスト3は「第1作」、長山藍子がマドンナの「望郷篇」、榊原るみの「奮闘篇」。

画像8

画像9

画像10

◆◇◆

■最後に

この本は、「渥美清=寅さん」だと思いこんでいる若い世代に読んでいただきたい。渥美清には、他にも傑作がいっぱいある。「拝啓展望陛下様」「白昼堂々」等など。ぜひ、それらの作品も鑑賞してほしい。

画像11

画像12

────────────────────────────────────────────────



この記事が参加している募集

#読書感想文

188,615件

#映画感想文

66,723件

最後までお読みいただき誠にありがとうございます。私の記事はすべてが「無料」です。売り物になるような文章はまだまだ書けません。できれば「スキ」をポチッとしていただければ、うれしゅうございます。あなたの明日に幸せあれ。