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市内RPG 22あんパンくんとの戦い

ぼくら、レベル9。戦士、勇者、魔法使い、僧侶のパーティー。

今、魔王の手がかりを求めて、子郡市小保にある平岡パン工場にやって来た。

平岡パン工場、1階の奥の自動ドアをくぐり抜けて、進んでいる。

エスカレーターの前に看板がある。

『関係勇者以外立入禁止』


「オレたち、関係勇者だよな」戦士のヤスが振り向いて、そう言った。

みんな、うんうんとうなづいた。

エスカレータに乗って2階へ。

2階は小豆色のフロアーだった。絨毯も小豆色、壁紙も小豆色、カーテンも小豆色。こんな小豆色は見たことがない。

あずきバーよりも小豆色だ。

「口の中が甘くなるね」
魔法使いのヒラが言った。

そのとき、ヤスが持っていた紙袋がごわごわと動き出した。
「これ、動くーー」
ヤスが叫んだ。

「何?何?何?」僧侶のカナはすでにパニックになりかけている。

ヤスが紙袋を床に投げ捨てた。
中から、さっきお店の人から勧められたあんパンが転がった。
それはむくむく大きくなって、人型になった。

「うおーーーーー、おれが、あんパンくんと知ってのことかーーーー」

人型になったあんパンはそう叫んだ。いや、あんパンくんはそう叫んだ。

「つぶあんと、こしあんはどっちが好きかーーー」
あんパンくんが叫んだ。

「ああ、おれはこしあんの方です」戦士ヤスがまじめに答えた。

「ぼくはつぶあんです」魔法使いヒラも答えた

「お前はこしあんかーーー」

あんパンくんは、ヤスの腰にドロップキックをお見舞いした。

「お前はつぶあんかーーー」

あんパンくんは、口からあんをはき出した。あんはヒラの顔にべっとりとついた。

「めつぶしーーーー」
あんパンくんはさらに叫んだ。

「だじゃれなの?」
カナはあきれた表情をした。

「目が見えないーーー」
ヒラは後ずさった。

「ミエルー」
僧侶カナが視覚を高める呪文をヒラに放った。緑の柔らかい光がヒラの顔を照らした。

「あぶない、あぶない」
ヒラが視界を取り戻した。

戦士ヤスがバトルステッキでぶん殴る。

あんパンくんは、腕で受け止めて、ヤスのおなかを蹴る。

ヤスがもんどりうって倒れる。

「ナムー」僧侶のカナがすかさず回復呪文を唱える。

ぼくもヒノキボーで打ちかかった。
しかし、受け止められて、蹴りを入れられる。
何とか避けた。

あんパンくんは、ヒラにドロップキックをお見舞いした。
「いてててて」ヒラが苦痛に顔をゆがめた。

「ナムー」再びカナの回復呪文。

あんパンくんは、カナにあんこを吐いた。

カナは素早く避ける。


ドロップキックに、あんこ吐き攻撃。

うかつに近寄れない。


そうだ、これはどうだ。

「ツメタ!!」
ぼくは、レベル9で覚えた水の呪文を唱えた。小さな水のかたまりが発現して、あんパンくんに向かっていった。

バシャッ。見事命中ーーーーー!

「身体が濡れたら、力が抜けるよーーー」
水のかたまりが命中すると、あんパンくんが苦しみだした。

「今だ、ヒラ!」
戦士ヤスが叫んだ。

「ミナツメタ!!!」
ヒラが呪文を唱えたとたん、大きな波があんパンくんを包んだ。
いや、あんパンくんだけじゃなく、ぼくらをも包んだ。

「ぐうおおおおおーーー」
あんパンくんは、縮んで、しなびたあんパンになり、床に転がった。

「勝ったかな」
ずぶ濡れになったぼくらは、静かになった小さなあんパンを見ながら言った。

「ヒラ、全体呪文は気を付けて」カナが言った。

あんパンくんを写メして送信。

「経験値1500、1000円獲得」返信メールが鳴った。

「あんパンがなくなったな」
ヤスが落ちていた紙袋を拾いながら言った。

「そうだね。でも、拾っておかないと」
ヒラが、あんパンをつまんで、紙袋に入れた。

メロンパンとカレーパンは無事だったようだ。

フロアを探索すると、またエスカレーターがあった。

同じように「関係勇者以外立入禁止」と書かれた看板が立っていた。

「進もう」

ぼくは言った。


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