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市内RPG 31 宝箱は拾えるか

ぼくら、レベル10。戦士、勇者、魔法使い、僧侶の高校生パーティー。

エオンショッピングセンターの段ボール回収箱段ジョンを探索している。


まさか、エオンの真下に段ジョンがあるなんて。

ぼくらは、4mほどの幅の通路を進んでいる。足元と頭上には、オレンジの小さなライトが灯されている。この灯りのおかげて、10m先くらいはぼんやりと見える。

真っ直ぐに進むと、十字路に出た。段ジョン特有の迷路だ。

「どっちに進む?」戦士ヤスが左右の通路を見た。

「ケータイ出して」僧侶カナがぼくに言った。

ケータイを取り出して、地図アプリを起動させた。

「あ、映ってる」魔法使いヒラが声を上げた。

ケータイには通路が映し出された。そして、魔物のアイコンも震えながら動いている。

「スライムに、トカゲに、ねずみ、、、かな」
魔法使いヒラがケータイを覗きながら言った。

「どれもキライ、、、」カナは泣きそうだ。

「弱そうなヤツはやっつけて、経験値を稼ぎながら進もう」戦士ヤスが言った。

逃げてばかりじゃ強くならないからね。

「スライムがいるわ」

「よーし、やってやろうぜ」

ぼくらは左の道を選んだ。

水色のスライム発見。

「アツッ」ヒラの火の呪文一発で仕留めた。

さすがレベル10.

オオトカゲ発見。

ちょっと苦戦したが、なんとかやっつけた。

「次は、ねずみらしいぞ」

進んだ左のわき道に、ねずみのアイコンが見える。

おそるおそるのぞくと、大型バイクくらいのねずみが鼻をひくひくさせていた。

「ジャンガリアンよーーーー」カナの声が高くなった。

よく見ると、灰色の艶やかな毛並みのハムスターがちょこんと座っていた。どこからか藁を集めたらしく、お尻のところに敷き詰めていた。手足の指はピンクで、細かな毛が生えている。2つの目はつぶらに光っている。でかいジャンガリアンハムスター、つまり、ジャンボジャンガリアンハムスターだ。

ただ、ぼくらを見ても攻撃する気配はない。

「ほら、宝箱がある」戦士ヤスがジャンボジャンガリアンハムスターの後ろを指さして言った。

「何にもしないから。そこを退いてくれるかな」カナはハムスターに話しかけている。

「オレたち、優しいんだからねー」ヤスは身構えながら言うので、まったく優しそうには見えない。

ジャンボジャンガリアンハムスターは、しばらく鼻をひくひくさせていたが、逃げていった。そこには、宝箱が残された。

「やったーー。宝箱だーーー」ヤスが小躍りしながら宝箱に近づいた。

古びた宝箱は30cmほどの大きさで、錆びついた錠前がついている。

「これなら、叩き壊せそうだね」ヒラがヤスを見ながら言った。

「おう」ヤスが、マもの干し竿を高く振りかぶった。

「ちょっと待って」ケータイで何か調べていたカナがそれを制止した。

「だめよ。これは登録済みの宝箱よ。この宝箱は遺失物届が出ているわ。つまり、誰かが失くして探してるってこと。うっかり自分のものにしたら、拾得物横領、破壊したら器物破損の罪になることがあるわ」

ゲームでは宝箱は見つけたもの勝ちなのに、、、。

「これを写メして。市役所に届けましょ。市役所から担当が引き取りに来るわ。持ち主がわかったらお礼を頂けるかもしれない。一定期間が過ぎて持ち主が現れない場合は連絡があると思うわ」

登録済みと未登録の宝箱があるらしい。登録済みの宝箱は所有権がその持ち主にあるから触ってはいけない。未登録のものは自然発生的に生まれたものらしいから拾ってもよいらしい。

ぼくらは、その宝箱をあきらめた。

30分ほど歩いているうちに、宝箱を3つ見つけた。2つは登録済みで、1つは未登録だった。

喜んで開けてみると、薬汁というポーションが入っていた。

宝箱も現実はなかなか落ちてないものだな。

そう思いながら、進んでいくと、地下2階に続く階段が現れた。


前回まではこちら。

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