【年齢のうた】ザ・コレクターズ その4●30代は悲しいかい?「ロバになる前に」
GWに入りましたな。こちらはお天気が良くて快適であります。まあ今のところ、格別どこにも出かけていませんが。
そんな中、前回はTHE YELLOW MONKEYのことを書きましたけれども、
直後に、彼らの東京ドーム公演を観てきました。
いやぁ、とんでもなかった! 5万人を相手に、本当にすさまじいパフォーマンスを見せてくれました。感動。
近日中に、僕が書いたライヴレポートの記事が公開される運びとなっています。はい。
それからこの25時間後には、motoki tanakaというアーティストを観ました。
一転して、お客さんはおそらく50人もいなかったのですが(しかもドームからわずか750mの距離)、これまたいいライヴでした。
これからどうなっていくか、楽しみな人です。
さて今回はザ・コレクターズです。
最近メンバーたちに会いまして……彼らは日比谷野音でツアーを完走し、その後は元気にレコーディングを行っています。
そんな中で、思い出したことがひとつ。
コレクターズが2017年に初の日本武道館でのライヴを行う前に、いろいろなバンドやアーティストに会ったりコメントをもらったりする企画をしていたのですが。その中にイエモンの吉井和哉も登場していて、彼らのことを「コレクターズ兄さん」と呼んでたんですね。
後日これについてコレのリーダーの加藤ひさしは「吉井くんにはもっと昔からコレクターズ兄さんと呼んでほしかったよ!」とボヤいてました。さすが加藤ひさし。これぞ加藤ひさし。
というのは、90年代の半ば頃はコレクターズもイエモンも、日本コロムビア内の同じTRIADレーベルの所属だったんです。加藤さんのほうがちょっと上になりますね(イエモンのヒーセもすでに還暦を超えていますが、加藤さんはもうちょっと早かったし)。ただ、TRIAD時代はそこまで接点がなかったのかな。
実際に当時、それこそコレクターズだったかな? インタビュー取材をしにTRIADに行って、話を聞き終わって取材ルームから出たら、すぐそこに吉井和哉がいたことがありました。なんかアットホームでした、あの頃のTRIADは。
というわけでコレクターズについてですが、このバンドについては過去3回ほど取り上げています。
今回で4回目になります。
30代はロバ、40代は犬、50代は猿、60代は猫の人生
今回またまたコレクターズについて書こうと思ったのは、わが家の段ボールの中からこれが出てきたからである。
加藤ひさし著の『AMAZING STREET』。1991年にソニー・マガジンズ(現在のエムオン・エンタテインメント)から発売されている。雑誌『パチパチ・ロックンロール』(のちの『UV』)で彼が88年5月号から91年1月号まで連載していたものをまとめた単行本である。
読んでいてとても楽しい本で、さすがリーダー!という感じなのだが、この中に興味深い回があった。
それは「30代はロバの人生の巻」。おそらく89年の暮れ頃に出た号に掲載されたものと思われる。
ちなみにこの連載では毎回おすすめの映画が紹介されているのだが、ロバの回はなんとパゾリーニの『大きな鳥と小さな鳥』(1966年)だった。
加藤は映画監督ではパゾリーニが一番好きと書いていて、別の回ではあの『ソドムの市』を紹介している。さすがというか何というか……これは良い子は観てはいけない映画である(映像リンクも自重)。当時はなかなか観れない作品だった模様。まあレンタルビデオ店が激減した今もそうか。
では加藤が書いた、「30代はロバの人生の巻」の回を紹介しようと思う。
話は、彼の行きつけである美容院のオヤジのこと。
髪を切りに行くとこのオヤジと話すことになり、そこではGSのこと(オヤジ、ショーケンと同じ学校だったとか。埼玉県!)、芸能界はいいよなとか、まあ何てことのない話題ばかりだ。そしてきわめつけが「30才からはロバの人生」とのことである。
以下、この本から引用。ふたりの話が煮詰まって、間がもたなくなった頃に出る話らしい。
つい、「最近、おもしろい事はないですか?」って、僕は言っちゃうんだよ。するとオヤジはきまってボクに言うんだよ。「お客さんは何歳なんだい?」ボクが「28才だよ」って言うと、「あと2年でロバの人生か。お客さんロバの人生って知ってるかい?」って言うんだよ。
28才! リーダーがまだ20代! 最近のファンの方にはなじめない状況であろう。僕も「加藤さんって、そんなに若かったんだ」(当たり前だが)とビックリしてしまった。
話は続く。
オヤジの話によると神様が人間や動物を創造した時に、それぞれに30年の人生を与えたらしいよ。そこで欲張りな人間が30年の人生じゃイヤだって神様に言ったら、そばにいたロバが「私は30年も重い荷物を背負って生きたくない。20年で充分です」って10年を人間にプレゼントしたんだって。以下、犬も10年、猿も10年、猫も10年づつ人間にあげちゃったんだってよ。だから30年間は立派な人間の人生だから楽しいんだってさ。それで、30代はロバの人生だから辛いらしいよ。40代は犬のように上司にしっぽを振って、50代は人の真似してゴルフなんか始めちゃう猿真似人生。それで60代は陽なたぼっこの猫の人生なんだって。なんか妙に説得力のある話でさ。それで最後にきまってボクが「オヤジさんもロバの人生でたいへんですね」って言うとオヤジはニッコリ笑って、「オレは生まれた時からケモノの人生よ!」だってさ。
ボクはいったいあと何回この話を聞くんだろう。
こんなふうに、オチまでちゃんとある。さすが加藤ひさしである。
しかし重たい荷物の話は、ビートルズの「キャリー・ザット・ウェイト」の歌詞を思い起こさせる(ちょっと大げさか)。
それにしても加藤はこういう庶民的なネタを拾うのがうまい。モッズとかサイケとかブリティッシュとか言ってる一方で。その点はビートルズでもストーンズでもなく、ザ・フーやピンク・フロイドというよりも、やはりザ・キンクスである。
この頃からだいぶ後になるが、コレクターズは「愛してると言うより気に入ってる」という曲(正確な表記は「愛してると言うより気にってる」のはず/2005年『夜明けと未来と未来のカタチ』に収録)を出している。どこかのライヴのMCで言っていたが、たしかコータローと一緒に板橋だかのあたりを歩いてる途中で、路上で出会ったおっさんが口にしていた言葉を元にして書いたという話だった。これまたオヤジである。
「ロバになる前に」の年齢をとっくに超えても
「30代はロバの人生の巻」で書かれたことは、コレクターズの曲になっている。
「ロバになる前に」である。メジャー5作目のアルバム『COLLECTOR NUMBER.5』に収録されている。
アルバムのリリースが91年の7月のこと。つまり連載でオヤジの話が書かれてから1年半以上の時を経て、楽曲となってCDに入れられたのである。
近しいところでは、去年のクアトロマンスリーで現メンバーによって演奏されている。僕もその場で聴いたので覚えているわけだが、バンドのコーラスワークが素晴らしかった(次のは90年代当時のライヴバージョン)。
「ロバになる前に」の歌詞は、主人公がとんまなロバに……まぬけな男がまぬけなロバになったという悲しみを描いている。先ほどの猿や猫など、別の年代の話はそぎ落とされ、30代の悲しみについてだけクローズアップされているのだ。
この「ロバになる前に」には、それだけ加藤自身が30代に、すっかり大人の年齢になってしまうことに対する思いが表れていると考えられる。前年の「…30…」がそうだったように。
「…30…」や「ロバになる前に」からも、もう30年以上が経ってしまった。加藤に至っては、先ほどのオヤジの話だと、すでに猫の人生に突入している。
ただこれは、彼もコレクターズもいまだに戦い続けている証拠である。そして30才、30代をとうに超え、完全に大人の年齢に達しても、そうそう落ち着いた人間にはなっていないということでもある。
一方で……たしかに今でも30代は、それまでの若い頃に比べたら、さまざまなことがしんどくなる年代には違いないと思う。ただ、若さとのコントラストで言えば、加藤の時代ほど30代になることへの抵抗感や落胆は、今の人たちにはないのではないだろうか。
音楽、とくにロックには、大人たちへの反抗を表現してきた側面がある。だからロックの初期から成熟期は、その根底に大人になること、社会の言いなりになることへの反発が唄われていた。
それがこの2020年代には、ロックに限ればむしろ大人の年齢のファンがたくさんいて、反抗や反発がテーマではなくなってきている。
これについて、ファンひとりひとりが思うところもあると思う。僕が今フッと思ったのは、若い世代の子たちは、昔のように上の世代への反抗心を言葉や姿勢に示したりはしなくなっているということだ。もっとも、内心ではあるのかもしれないが。
いずれにしても、時代は変わっていく。実際にコレクターズも今の時代性にきちんと順応しながらバンドを続けている。そしてそんな中でも燃え続けている情熱や野心だって、あると思う。
僕は、ザ・コレクターズが東京ドームのステージに立つ日を心待ちにしている。
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