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購読料と広告収入 なぜ減る一方なのか

 スマートフォンはニュースをどのように変えたのでしょう。前回の新聞自体の変化に続き、今回は周辺環境について考えてみましょう。

 第1回で紹介した英国政府の調査報告書「ケアンクロス・レビュー」を担当した経済ジャーナリスト、フランシス・ケアンクロス氏は、2021年に「ニュースの終焉?」というテーマで講演しました。ニュース業界の劇的な変化は、2007年に発売されたスマートフォン「iPhone」から始まったとみており、スマートフォンによる三つの大きな変化を指摘しています。

 それは、
 ①ニュースがグーグル、フェイスブックといったプラットフォームを通じて読者に届けられるようになった
 ②ニュースが長く享受していた広告収入がプラットフォームに移った
 ③人々の時間の使い方を変えた
 —―ということです。

 ①新聞・放送の報道コンテンツの制作・印刷・流通コストと比較すれば、デジタルのコストはかなり安くなりますが、過渡期の間は先行投資も加わり、新聞社・放送局に両方のコストがのしかかります。
 一方、消費者からすると、プラットフォームを通じて各社の報道を知ることできるようになりました。英国の全国紙のトラフィックの43%がグーグル経由、22%がフェイスブック経由といいます。グーグルやフェイスブックの見出しや短い予告を見るだけなら料金を支払わなくてすむため、ニュースの対価を支払わない習慣が定着しました。

 ②プラットフォームは価値のあるデータを作り、はるかに新聞よりも読者たちについて知っています。グーグルやフェイスブックは、その人がどこにいるか、どこへ行ったことがあるか、どこで買い物をしたかなどを、アマゾンはその人が何を買いたいかを正確に把握しているからです。
 広告ビジネスは、不特定多数への露出から、データを駆使して対象を絞ったターゲット広告に様変わりしました。地域の車や住宅の売買、求職情報などを扱うクラシファイド広告がネットに移行し、地方紙や地域紙は大きな収入源だけでなく、読者の購買の動機も失う形になりました。

 ③英国のオンラインでのニュース消費のシェアは、BBCニュース(受信料は徴収されますが、オンライン利用は無料)39%、ガーディアン14%、メール・オンライン10%、msn9%など、無料でニュースにアクセスできるサイトが上位を占めています。残りのシェアを奪い合う高級紙などは課金に努めていますが、そもそもニュース自体が、テレビやゲームなどの娯楽とスマートフォンの画面上で時間を奪い合う厳しい状況です。

 日本では、デジタル広告市場は、グーグルとフェイスブックに加え、ヤフー・ジャパンなどのアグリゲーターなどの存在感も大きくなっています。オンラインのニュース消費では、ヤフー・ジャパンが圧倒的首位で、民放とNHKのニュースサイトが続き、無料サイトが上位を占めています。その後塵を拝している新聞系ニュースサイトにとっては、英国と同じように課金が難しい状況です。

 私も留学中、デジタル化による破壊的イノベーションは、ニュース編集の現場よりも広告ビジネスに与えた打撃がはるかに大きいことを学びました。
 この変化に対する業界の対応が遅れた理由について、ケアンクロス氏は「インターネットの到来に対して課金の動きが遅れた理由の一つは、1990年代、新聞広告が異常なほどの活況だったことです」と指摘しています。活況が苦境の兆しを覆い隠したため、インターネットで広告を広めるだけで、新聞がより広く普及し、世界中どこでも無料で読めるようになり、広告収入も増えると読み誤ったというのです。

ガーディアンが名編集長のアラン・ラスブリッジャー氏のもと、「ガーディアン・アンリミテッド」を掲げ、すべての記事を無料で公開するオープンポリシーを堅持したことが代表例でしょう。米国版やオーストラリア版を展開し、グローバルなニュースブランドに飛躍しました。しかし、赤字も深刻化し、2015年にラスブリッジャー氏は編集長を退任、2016年に会員に自発的に支払ってもらうメンバーシップ制に移行しました。

2007年に産経新聞オンライン版の無料公開を担当した木村正人氏(ロンドン在住国際ジャーナリスト)のコラムには、デジタル化への対応に苦闘してきた新聞記者たちが共有する感慨が凝縮されているように思えます。歌手の川本真琴さんがサブスクリプションを批判したという記事を読むと、コンテンツのデジタル化が作り手に厳しく作用していることを改めて実感します。




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