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お前ら。いいか。敗けて逃げるンだぞ。

 『吹けよ春風』に寄稿してくださったarata氏が『北の国から』チャレンジをしているのを見て勝手に興奮している。

 このツイートから各話ツリー形式で感想が書かれているので、多少のネタバレがあっても平気な方はぜひ見ていただきたい。

 ああもう語らいたい。こんな状況じゃなければ、サントラを流して心ゆくまでお酒なんぞを飲みながら語らいたい。

 1話冒頭、バックで『モルダウ』が流れる中、喫茶店で話す五郎たちの姿に空知川が重ね、さりげなく「川」でつなげてタイトルまで見せるのもカッコイのだ。しかも蛍以外は楽しそうじゃないのもたまんない。それぞれ肚の中に思うことがあるのも示しているのだ。

 『北の国から』はセリフがずば抜けていて、個人的に大好きなセリフをいくつも書き起こしている。今日は序盤の2シーンだけを取り上げてみたい。

 第1話、純と蛍の兄のような存在である、近所の牧場の息子・草太兄ちゃんの登場の時のセリフもすごい。
 五郎たちを乗せた車内で草太兄ちゃんが一人で話しはじめるのだが、この車内のセリフだけでこの人がキャラクターを伝え切っているのだ。

草太「イヤイヤこないだミンクつかまえてよ。この車ン中ほうりこんどいたの。そしたら小便しやがってよ。ヒヒッ。くせえのなんの。あんまりくせえからオーデコロン、ドバドバまいたらよ、その上におっかァが醤油こぼしやがって、その三つが入りまじってこのにおい。ヒヒッ。たまんねえべ」

 粗雑で乱暴で、だけどどこか愛嬌のある人物であることが、視聴者には体験し得ない「匂い」を通じて示している。

 そしてarata氏も落涙した、序盤屈指の名シーン。
 大滝秀治演じる清吉が、富良野での生活に限界を感じ、東京へ帰ろうとする純に対して言うセリフも大好きだ。
 草太の父、清吉は五郎の父と一緒に富良野の地を切り拓いてきた人物だ。
 誰よりも辛い思いをしてどうにか富良野の地で暮らし続けてきている。

 場所は富良野駅前の喫茶店。
 ラジオから流れるのは中島みゆきの『ホームにて』だ。
 普段は無口な清吉が、黙りこくっている純と叔母の雪子に対してポツポツと喋り始める。

清吉「流行歌ってやつはさ、その歌きくとその歌が流行ってた……その時代の出来事を思い出す」
純「……」
清吉「あの年はひどい冷害でね。おまけにトラクターが導入されて営農方式がどんどん変わってさ。一緒に入植した連中が次々に家をたたんで麓郷を出た」
純「……」
清吉「11月だったな。親しかった仲間が四軒いっしょに離農してってね。そんときわし、やっぱり送りに来たもんだ。雪がもうチラホラ降りはじめててな」
純「……」
清吉「北島三郎が……流行ってた。出て行くもんの家族が四組。送るほうはわしと、女房の二人。だれも一言もしゃべらんかった。だけどな。そんときわしが心ん中で、……正直何を考えてたか言おうか」
純「……」
清吉「お前ら。いいか。敗けて逃げるンだぞ。二十何年いっしょに働き……お前らの苦しさも、悲しみも悔しさもわしは一切知っているつもりだ。だから他人にはとやかくいわせん。他人にえらそうな批判はさせん。しかしわしにはいう権利がある。おまえら敗けて逃げて行くんじゃ。わしらを裏切って逃げ出して行くンじゃ。そのことだけはよく、おぼえとけ」

 このセリフを受けた純はどんな決断をするのか、ぜひとも本編を見ていただきたい。
 こんな感じで全話このテンションで、いや後半はもっとテンションが上がってしまうと思うが、ずーっと言葉を打ち込み続けられるドラマ、それが『北の国から』なのだ。
 ただその場所に人がいて生活している。
 だけどその「生活している」ことを描くことがどれだけ大変でどれだけ凄まじいことかを、この仕事をやり始めて実感した。
 物語でなく、人を描けるようになりたい。
 『北の国から』を見るたびに背筋が伸びるし、もっともっと書きたい!というパワーをもらえるのだ。

 個人的に、このドラマの実在感のやばさの極点は、笠松"へなまずるい"杵次だと思っている。一体どこから見つけてきたんだってくらい、まじで「ずっと富良野にいた人」なのだ。地井武男も上手すぎて完全に土地に馴染んでいて、たまに地井武男であることを忘れて見ている時もある。

 あと連ドラ版だとUFOの回がまじで狂っているのでぜひ見て欲しい。
 私の周りで見た人が全員「あの回なんなんだ!?」って言う凄まじい回。
 しかもそのヤバい回すらも伏線にして後に泣かせにかかってくるのだ。

 ちなみに『北の国から』を見たことある人に見せると必ず興奮するTシャツを持っている。

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 草太兄ちゃんバージョンもあるのだが、買えなかった。
 いつか富良野で買いたいな。


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