知らないと損する免疫と腸内フローラ
今回は、年々注目度が高まっている、腸についてのお話です。
人の免疫機能のおよそ「70%」は腸に集まっているということをご存知でしょうか。案外知らない人が多いかもしれませんが、パンデミック下においてだけではなく、日頃から腸の状態を知ること、気をつけることが、物凄く大切です。それだけでも、ウィルスや細菌への感染対策をしていると言っても過言ではありません。
● 腸と腸内フローラ
皆さんご存じとおり、腸は消化管であって、バイオリアクター(固定化酵素や微生物を触媒として,物質の分解・合成などを行う装置やシステム)として機能しています。
1gあたり1000億個のオーダーで腸内細菌が住んでいて、哺乳類の腸管には1000種類あるいはそれ以上の菌たちが、宿主と相互作用しつつ増殖しており、これら全てを腸内フローラと呼んでいます。
フローラとは、腸内細菌たちの群がりが、まるでお花畑のように、個性豊かで美しいというところから来ています。
最近の、DNAの配列を解読する技術(シークエンサー)を用いた、腸内フローラ解析では、炎症性腸疾患,肥満,糖尿病,がん, 動脈硬化,自閉症など、人のさまざまな疾患における発症の感受性と,腸内フローラの細菌種の構成の異常とが、密接に結びついてきていることが明らかになってきています。
この腸内フローラの構成の異常は、dysbiosis(ディスバイオシス)と呼ばれており、細菌種の数の減少や種類の単純化(少ないはず の細菌種の異常な増加,あるいは,通常は優性であるはず の細菌種の減少など)のため、腸内フローラ全体として、保有する遺伝子の数が減少し、バランスが崩れた、機能的に偏りのある細菌の構成ということになります。
そして,いくつかの疾患に対して、ディスバイオシスの改善が、きわめて重要な治療法となりうることが、便の移植の治験などから明らかになりつつあります。しかし、なぜディスバイオシスが、原因として炎症と結びつき、さらに疾患と結びつくのか、その理由は十分に明らかではありません。
● dysbiosis(ディスバイオシス)と免疫
免疫系の恒常性(ホメオスタシス)が、ディスバイオシスにより破綻するという仮説があります。
それは、免疫系を活性化させるような細菌が優位となり、逆に、免疫系を抑制するような細菌が減少しているため、その結果、免疫系の異常な活性化が誘導されるという仮説です。
免疫系が本来は応答してはいけないものに反応し、免疫のバリア機能の異常と慢性的な炎症がもたらされるのではないか、と考えられています。こうした背景にもとづき、個々の腸内細菌種がどのように宿主の免疫系に影響を与えているのか、還元化した中に、個別に把握していこうとしています。
● 腸内細菌と制御性T細胞
腸内細菌と免疫のお話を最後にひとつします。
制御性T細胞は、CD4(cluster of differentiation 4)と言われる、免疫系細胞(ヘルパーT細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞)が、細胞表面に発現している糖タンパクで、細胞表面抗原の1つで、自己抗原(自身のもつ物質に抗体ができる)に対する、免疫不応答性の維持や、宿主にとって、有害な過剰な免疫応答の抑制にはたらく必須の細胞です。
消化管に存在する制御性 T 細胞は、食事の成分に対する免疫寛容や、腸内細菌に対する免疫学的な不応答などに、かかわると想定されています。
無菌な状態で、出産から育成されたマウスにおいて、大腸に存在する制御性 T 細胞の数が顕著に減少していることから,大腸における制御性T細胞の分化や、増殖に、腸内細菌の存在が大きく寄与していると考えられています。
これまでのことを含めて、腸内細菌種が多く、多様性があり、バランスが良く、機能的に偏りのない、腸内フローラであることが重要であると認識できます。
善玉菌や悪玉菌、日和見菌、と言われる3つの部分があり、認知されていると思いますが、腸内細菌はさらに菌種が細かにあり、多様で、個々がユニークで、凄く興味深い世界です。
● 腸内細菌のバランスを知る
だからこそ、自分の腸内細菌のバランスを知ることが、何よりも大切で、先に起こすべきアクションです。なぜなら、自分の土地と地図を知らずに、どこにも向かうことはできません。
それにもし向かったとしても、無鉄砲なアクションは自身の体を痛めてしまうことに、つながる可能性があります。
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