ブレイム・ブレイズ 第2話
①
昼間の荒野。燦々と照り付ける太陽の下、そこら中に瓦礫が転がっており、傾いたビルや機械の残骸があちこちに見える。先導するアヤメは大汗を掻きながらへばっており、続くホムラは余裕の表情で手を頭の後ろに組みながら歩いている。
アヤメ「暑い……休もう」
ホムラ「これだからシティ育ちは。そんなんじゃいつまで経っても帝都にたどり着けないだろ」
アヤメ「そもそも帝都なんて向かってないケド」
ホムラ「ハァ!?」「王都にいって皇帝をぶん殴るんじゃねぇの!?」
荒野に驚愕の声が響き渡るが、アヤメは目をむいてホムラに詰め寄り説教する。
アヤメ「馬鹿なの!?」「帝都にいったところでアンタじゃ殺されるのがオチよ!」
「帝都には高ランクの適合者が山ほどいるのよ!?」
ホムラ「ああ? 俺のぶれいく・ぶれいんって強いんじゃ——」
アヤメ「ブレイム・ブレイズよ! 減点!」「ブレイム・ブレイズは古代製だしAランクかSランクでしょうね」
ホムラ「えー? えす?」
ピラミッド型の図。F~Sランク。肉体を変化させているシルエットや手から風を出しているシルエット。
ホムラ「ナノマシンの格付け。FとかEならせいぜいが”力が強い人”程度。能力だってオマケ程度」「ランクがあがれば自分の体以外のものまで操れるようになっていき、Sランクは災害レベルよ」
ホムラ「なら俺も強いじゃん」
アヤメ「大減点! 強いのはナノマシンだけ!」「ちょっと炎出してみなさい」
言われるがままに義腕から炎を出す。大きく、小さく、ハート形に、と指示されるが炎は一切変化しない。ハート、ハート、と呟きながら真剣な表情を浮かべるホムラだが爆発、ホムラの髪の毛をチリチリにして炎は消える。
アヤメ「ほら。アンタはまだよちよち歩きもできてない状態なのよ」
ホムラ「でも、こないだのやつには勝ったぞ」
アヤメ「零点!」「特訓よ!」
アヤメに怒鳴られ特訓が始まる。
②
昼間、歩きながら炎を出す。モンスターを倒しながら炎を出す。夜、モンスター肉を食べながら炎を出す。炎のサイズは変化しない。再び昼間。
ホムラ「何かコツとかねぇの?」
アヤメ「ブレイム・ブレイズは未解明なところも多いからね」「せめて見本の一つもあれば違うんだけど」
ホムラが不満そうな顔をしながらも炎を再び出そうとしたところで遠くから悲鳴。
商人「助けてくれぇ!」
ホムラ・アヤメ「?」
二人から離れたところ、商人風の中年が車を走らせて逃げる。それを追うのはブカブカの服で体型や口元を隠した少年。冷めた表情の少年は手の甲や頬に紋様を発現させ、自分の影を操っている。
ホムラ「何だあれ!? 影!?」
アヤメ「Bランクナノマシン、シャドウバイトよ」
車が横転し、商人が投げ出される。影は竜の首のような形になり商人の首元に噛みつき、持ち上げる。
ホムラ「助けてくる!」
アヤメ「あっ、こら!」
アヤメの制止を無視して少年の前に出たホムラ。炎を噴き上げ「そのおっさんを離せ」と告げる。少年がほホムラに視線を向け、新しく影の槍や剣が生み出す。
少年「この男の仲間か」
ホムラ「知らねぇ人だよ!」「困ってる人間は助ける!」
ホムラが殴りかかる。影の刃は簡単に砕けるが、次から次に新しい影を重ねてホムラの攻撃をいなしていく。
ホムラ「クッソ! どうなってんだ!?」
アヤメ(この子、操作精度がハンパじゃない!)
少年「面倒だ」
影の刃が膨らみ何かの技を繰り出そうとするも、少年は唐突に倒れる。ホムラが駆け寄ると空腹と脱水で目を回し「み、水……」と呟いている。商人が差し出した縄を使って少年はぐるぐる巻きにされた上にさるぐつわを噛まされる。トラックを直す。
商人「いやぁ助かりました。ぜひお礼をさせてください」
ホムラ「困ってる人を助けるのは当たり前の——ムグッ」
ホムラの口を塞ぐアヤメ。
アヤメ「水の補給がしたい……できればモンスター肉以外の食料も」
商人「もちろんです」「すぐ近くに村があるのでご案内します」
水を注いだコップを差し出す。それを飲み干した二人はふらつく。視界が歪み、目がかすむホムラ。アヤメはコップを落とし倒れる。
ホムラ「く、そ……」
倒れ込むホムラ。商人がいやらしい笑みを浮かべている。
④
夜。廃墟に作られた集落にホムラとアヤメ、少年が磔にされている。その下で酒を飲みながら笑う武装した商人。
ホムラ「くっ、おい! ほどけ!」
村人①「解くわけねぇだろバーカ」
アヤメ「無駄よ。こいつら全員犯罪者。旅人を騙して襲う村の住民らしいわよ」
商人「獲物にしたガキがえれぇ強くてビビったが、助けてくれて感謝してるぜぇ」
村人②「まぁ、殺すんだけどなぁ」
ホムラが暴れるが、薬の影響でうまく動けない。炎もぼわっと出るものの金属製のワイヤーや支柱は燃えることなく、抜け出せない。
商人「無駄無駄ァ! お前に盛った薬は一日は抜けねぇ代物だ!」
悔しそうにうつむいたホムラは、横で磔にされてる少年に顔を向ける。
ホムラ「ご、ごめん」
少年「……許さない。殺す」
少年はホムラを睨みつけてから紋様を発現させ、自らを縛っていた縄を切断、自由になる。
村人①「なっ!?」
商人「エネルギー不足でぶっ倒れた馬鹿だ」「一斉に掛かれば怖くねぇ!」
少年「先に盗賊。次はお前ら」
盗賊たちが武器を構えるが少年は影を操って応戦する。銃撃されるが一歩も動かずに影でレールをつくり銃弾をすべて逸らす。
ホムラ「す、すげぇ……」
アヤメ「相当に訓練された適合者ね」「ホムラ、炎を一点に集中して」「そうすればこの金属くらいは溶かせるはず」
ホムラ(一点……集中)
ホムラの脳裏に影を操る少年の姿が思い浮かべながら目を閉じて集中するホムラ。
少年「ぐっ……!」
村人②「やったぞ!」
商人「油断するな、囲め!」
少年「……お腹、減った……!」
少年がわき腹を押さえて片膝をついている。わき腹からは血が出ている。影で応戦しているが、エネルギー不足のためか顔色が悪い。
ホムラ「待ってろ、今助ける!」
少年「要らない。自分で倒す」
ホムラは再び目を閉じて集中。炎が指先に集まり、ワイヤーを焼き切る。自由になると同時に炎を伸ばしてアヤメも救出する。コキコキと首を鳴らして少年の横に立つが、少年がホムラを睨む。
少年「殺す」
影がホムラに襲い掛かる。
ホムラ「悪かったって!」
ホムラは反撃せずに逃げ、ついでに商人を蹴り飛ばす。少年は動かずに影で追跡し、ついでに村人を倒していく。
少年「なぜ反撃しない」
ホムラ「お前は悪くねぇだろ」
少年「ふざけてるのか」
ホムラ「ふざけてねぇ!」「反省してる。だから反撃はしねぇ」
少年「反省してんなら避けんな!」
ホムラが動きを止めて影が肩に突き刺さる。小さなうめき声を漏らすがホムラは歯を食いしばってまっすぐに少年を見つめる。少年は驚いた表情を浮かべるが、影を束ねて剣の形にする。大きく踏み込んだ少年が剣を振るうがホムラは動かない。切っ先はホムラの首筋に小さな傷をつけて血が滴る。少年とホムラは無言で見つめあう。ホムラが動じていないことを理解した少年は影を消して膝をつく。
少年「お腹減った」
ホムラが義腕を振って炎を飛ばす。少年をかすめた炎は背後で立ち上がって銃を構えていた商人の武装を焼き尽くす。
ホムラ「――なんか食えるモン探してくるわ」
目を丸くして驚いていた少年は状況を理解するが、ホムラの炎がかすめたことで服が燃えて裸体が露わになる。丸みを帯びたシルエットに膨らみかけの胸。
ホムラ「女ァ!?」
少女「……やっぱり殺す」
周知に顔を染めた少年もとい少女が影でホムラを狙う。アヤメは近くから適当な服を引っ張り出して少女に渡す。
アヤメ「あなた、名前は?」
少女「……ヒマリ」
アヤメ「荒野にいるってことは帝国軍じゃないんでしょ。私に雇われない?」
ヒマリ「……お腹いっぱい食べれるなら」
アヤメ「いいわよ」
ホムラ「仲間ァ!? こいつが!?」
ヒマリ「殺すぞ」
アヤメはヒマリとホムラに腕を回して二人を抱き込むように近づける。嫌そうな顔をする二人だが、アヤメは笑顔。
アヤメ「じゃ、仲良くしましょ」
ヒマリ「変態と仲良くするのは無理」
ホムラ「テメェ、燃やすぞ!」
二人は額を突き合わせていがみ合う。
アヤメ「車もあるし、食料を積み込んだらすぐ出発しましょ」
⑤
昼間。めちゃくちゃになったアジトを直そうとする盗賊村の村人たち。服を燃やされたため全員パンツ一丁。
商人「酷ェ目にあったぜ」
村人①「お前、もう獲物連れてくんな」
村人②「見る目なさすぎんだよ」
文句を言いながら廃材を動かす村人たちの前に、一台のバイクが止まる。運転しているのはホムラと同年代の男。
男「ここに盗賊たちがつくった村があると聞いたが」
顔を見合わせる商人と村人たちだが、すぐに悪い笑顔になる。
商人「おお? 仲間になりてぇのか?」
村人①「良いぜ、仲間にしてやるよ」
村人②「その代わり——」
村人多数「バイクと金目のモン寄こせやッ!」
隠し持っていた銃や刀剣類を構えて一斉に襲い掛かる。奇襲が決まったと思い込み、笑顔の村人たちだが、そのまま固まる。氷山のような巨大な氷が村全体を飲み込み、村人たちは氷漬けになっている。
男「ふん」
バイクから画面付きの通信機を取り出した男は操作する。
男「こちらジークハルト。盗賊村の殲滅任務は完了した」
通信機からの声「ご苦労様です! 残党や物資は——」
男「何も残っていない」
通信機からの声「了解です。あ、すみません。次の任務が届いております」
男は面倒くさそうに髪をかき上げて溜息を一つ。
男「話せ」
通信機からの声「盗まれたナノマシンの奪還です」
男「各地に部隊を送ってなかったか?」
通信機からの声「それが、撃退されました。今、犯人の顔を送ります」
通信機の画面にホムラとアヤメの画像が映し出される。
通信機からの声「生死不問ですが、できれば生体で」
男「了解」
通信機からの声「よろしくお願いします、ジークハルト少将閣下!」
〈了〉
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