ブレイム・ブレイズ 第3話


アヤメが運転する車で荒野を走り、ヒマリは助手席。車は屋根の後部が開くタイプのジープで、ホムラは屋根の上であぐらを掻きながらナノマシン操作の練習をしている。

ヒマリ「どこ、いくの?」
アヤメ「反乱軍の本拠地」
ヒマリ「反っ……!?」

ヒマリが目を丸くして驚くが、アヤメは確信犯的に星を飛ばしてキャピキャピする。

アヤメ「あっれー? 言ってなかったっけ?」
ヒマリ「言ってない……」

図、帝都を飛び越えるように、右から左に弧を描いて反対側に向かおうとする。右端が二人の出会ったスラム。斜め上に盗賊村。現在位置は帝都の斜め上、道程はまだ半分以下。

アヤメ「本拠地方面は検問が厳しかったから反対から出てきたの。合流まではもう少しかかるわね」
ヒマリ「……反乱軍……」
アヤメ「先払いで渡した食料は食べてたし契約は果たしてもらわないと」
ヒマリ「……騙された」「食事。お腹減った」
アヤメ「やけ食い?」「まぁ良いけど。そろそろ見えるはずよ」

廃墟ビル群を越えた先、ビルに匹敵するきのこがたくさん生えたガスっぽい地域がみえる。キノコの傘からは滝が流れ落ちて水が豊富な様子がうかがえる。

アヤメ「温泉とキノコの街。あそこで補給するわよ」

ホムラが「スッゲー!」と叫び屋根の上ではしゃいでいる。


霧のかかった街の中にある食堂で舌鼓を打つ一行。わいわいと多くの人で賑わう店内。フードを被りながらテーブルに着いた三人の前にスープや焼き物、豪華な食事が並ぶ。

ホムラ「スゲェ!」
ヒマリ「はむっ、あむっ」
アヤメ「シティの外とは思えないでしょ?」「ここは温泉が湧くから湿度が高くて、キノコが育ち放題なのよ」

食事を掻き込むヒマリを見てホムラも食事をとり始める。アヤメが微笑みながらそれを見つめていると、店のドアが乱暴に開かれる。入ってきたのは帝国軍人。

軍人①「邪魔するぜぇ! 酒とメシだ!」
店員「す、すみません……今は満席でして」
軍人①「ん~? 聞き間違いか? スラムのゴミどもに食わしといて、帝国軍人様を断るのか?」

銃を突き付けて恫喝する軍人。店員は真っ青な顔で目に涙を浮かべている。

軍人①「さっさと席を用意しろ」
男「近頃の帝国軍はマナーがなってないな」

カウンター席に座っていた着流しの男が不敵な笑みを浮かべながら席を立つ。癖のある長髪を縛り、無精ひげを生やしたイケオジ。

軍人①「なんだテメェは!」
男「ルシアス……まぁ、今はただの観光客だよ」
軍人①「俺様に意見するってことは帝国に反逆する意思があるってことで良いんだよなぁ?」

店員に向けていた銃口をルシアスへと移す軍人。後ろにいる軍人たちもニヤニヤ笑いながら銃を構える。

ルシアス「オイオイ。こっちは羽根伸ばしに来てんだからやめてくれよ」

自然な動作で踏み込んだルシアスは軍人の銃口をずらしながら掌底を打ち込む。体術だけで軍人をノしていくルシアス。鼻血を垂らした軍人が床に落ちた銃を拾って構える。ルシアスは軽く視線を向けて平然としているが、距離が開いていて銃撃を止められるようには見えない。

軍人①「死ねっ」

トリガーが引かれる直前、炎が軍人の持つ銃を焼いて溶かす。服は無事なまま。

ホムラ「おっ、銃だけ狙えた」

嬉しそうなホムラと厄介ごとに首を突っ込んだことで頭を抱えるアヤメ。ヒマリは料理を食べ続けている。

ルシアス「ほい」

軽いステップで軍人の頭を踏んだルシアス。気絶した軍人に乗ったまま良い笑顔をホムラに向ける。

ルシアス「いやぁ、助かった! サンキュな、にーちゃん」
ホムラ「気にすんな。悪い奴をやっつけるのは当たり前だからな」
ルシアス「お礼と言っちゃ何だがここは俺が奢ってやろう」「他の奴らもな!」

店内から歓声があがる。ルシアスは着流しから札束を取り出して店員に放り投げる。

ホムラ「マジ!? ありがとう!」

ヒマリが店員を呼び止めてバカみたいな量の追加注文をする。アヤメが顔を引きつらせるが、ルシアスは腹を抱えて笑う。

ルシアス「はははっ! 気持ちの良い奴らだ!」「俺はルシアス。何か困ったことがあったら助けてやる」
ホムラ「俺はホムラ。こっちはアヤメで、あれはヒマリ」

ルシアスに握手を求められ、がしっと握り返すホムラ。

ホムラ「俺もおっちゃんが困ってたら助けるよ」
ルシアス「くくっ。楽しみにしてるよ」枠外:おっちゃんじゃなくてオニイサンな

ルシアスは気絶している軍人たちを引きずって店外に向かう。

ルシアス「こいつら捨てて来て、ひとっ風呂浴びてくる。またな」
ホムラ「またなおっちゃん!」
ルシアス「オニイサン、な」


ホムラ「はー、食った食った!」

ホムラは満面の笑みで台車を引く。荷台には水のタンクや食料が並び、腹をぽっこり膨らませたヒマリが倒れている。

アヤメ「温泉入りましょうか」
ホムラ「おおっ、温泉!」
ヒマリ「……無理……吐く……」
アヤメ「車で休んでる?」枠外:どうせ荷物置きにいくし

話しながら移動する三人の前にバイクが止まる。乗っているのはジークハルト(以下ジーク)。通信機の画面と本人を見比べてホムラ達がターゲットで間違いないことを確認する。

ジークハルト「おい、反逆者ども。死ぬか投降するか選べ」
ホムラ「ああ? 誰だお前」
アヤメ「帝国軍よ!」「それも少将! 逃げなきゃ!」

ジークの胸元にある徽章に注目し踵を返すアヤメ。ホムラもそれに倣って台車を引きながら走り出す。ジークは頭を掻いて溜息を一つ。

「面倒だ。死ね」

紋様を出しながらアッパーの軌道で腕を振るう。地面からクラスター水晶のように氷柱が生え、ホムラ達に迫る。ホムラは逃げながらも義腕から炎を出して氷柱の発生を止める。正面に向き直るものの、氷でスノーボードを作ったらしいジークが立っている。地面から壁に掛けて氷で道が出来ている。

アヤメ(――強いっ!)
ホムラ「へっ、上等。逃げるのは性に合わねぇんだ」
アヤメ「コキュートス! Sランクのナノマシンよ!」
ホムラ「相手にとって不足なし、ってなぁ!」

台車を離して飛び出したホムラが拳を振るう。炎がまっすぐに伸びるが氷の壁が受け止める。ホムラは距離を詰めて義腕で氷を壁を砕く。その先にはジークを模した氷像がある。側面に隠れていたジークが義腕を掴む。パキパキと音を立てて義腕が凍り付いていく。ホムラは炎を出して解凍。空いている手足でジークに攻撃しようとするが、止められ、いなされ、有効打が打てない。アヤメも拳銃でジークを狙うが、氷の壁が銃弾を止める。

ジーク「無駄だ。抵抗するな」
ホムラ「うっせぇ!」
ジーク「面倒だ。凍らせるか」

ジークが手をかざしたところでルシアスが介入してくる。

ルシアス「どーいう状況だコレ」
ジーク「邪魔するな」
ホムラ「おっちゃん!」

ルシアスがジークを投げる。空中で態勢を立て直したジークは無傷だがホムラ達と距離が開く。

ルシアス「オニイサンが助けてやる。いけ」
ホムラ「俺も戦う――グガッ!?」
アヤメ「逃げるわよ!」

拳を構えるホムラだが、アヤメに後頭部を殴られる。

ホムラ「二人でやれば勝てるかもしれねぇだろ!」
アヤメ「大減点! 足手まといになるわ」
ホムラ「……チクショウ! おっちゃん、ごめん!」
ルシアス「おにいさん、な」

ジークを見据えたままひらひらと手を振るルシアスを残してホムラ達が逃げ始める。ジークは氷塊を飛ばして追撃を試みるが、ホムラの炎とヒマリの影に氷が撃墜される。ジーク本人もルシアスに止められ、ホムラ達は逃げおおせる。

ジーク「お前も敵だな」
ルシアス「物騒だねェ。俺は休暇中だぜ?」
ジーク「労災は降りないな。お前の席を空けろ」

氷を駆使して戦うジークだが、ルシアスは体術だけでそれを避けていく。ルシアスの指がジークの眼の前で止まり、ジークの作った氷の剣がルシアスの喉元で止まる。膠着状態に陥り、ジークがルシアスを睨む。

ジーク「なぜあいつらを庇う」
ルシアス「最近の帝国軍はマナーが悪い」「反抗したのは確かだが、殺すのはやりすぎだろう?」
ジーク「何の話だ」
ルシアス「……態度がデカい帝国軍人をボコったから報復しようとしてるんじゃ……?」

違和感に気づいたルシアスは笑みを引きつらせて嫌な汗を垂らしている。ジークは不機嫌そうに睨んだまま氷の剣を解く。

ジーク「アホか」「アイツらは指名手配犯だ」

バイクに戻り、通信機を放り投げるジーク。受け取ったルシアスから笑みが消え、顔を青くする。

ルシアス「どーするかねェ……逃亡の手助けしちゃったよ」
ジーク「知らん。本部に報告する」
ルシアス「しょうがないだろ!? 俺は一か月もバカンスしてたんだ! 昨日付けの手配書なんて見てるわけないじゃん!?」
ジーク「俺じゃなくて本部にいえ」

冷たいジークに縋りつくルシアス。

ルシアス「そんなこというなよぉ! 頼む、一緒に本部まで来て俺の弁護をしてくれ!」
ジーク「うっとおしい! 《中将》ともあろうものが泣きつくな!」
ルシアス「頼むよぉ」
ジーク「俺に何の得がある」
ルシアス「か、金を払う……あと俺のツテも紹介してやる」
ジーク「……良い医者はいるか?」
ルシアス「いるいる! 超いる!」

呆れた表情のジークと、弁護してもらえると分かって喜色満面のルシアス。

ルシアス「あ、本部行く前にもう一回温泉入ってきていい? ジークくんも一緒に入る?」
ジーク「ぶっとばすぞ!?」


街を後にする車。補給した物品を積み込んだ中でホムラが悔しそうな顔をしている。

ホムラ「クッソー!!」
ヒマリ「温泉入り損ねた」
ホムラ「そっちじゃねぇよ!」

ジークと戦い手も足も出なかったことを思い出すホムラ。

ホムラ「……特訓だ」
ヒマリ「してるじゃん」
ホムラ「操作だけじゃねぇ」「もっともっと強くならねぇと」

ホムラは義腕を握りしめて見つめる。

ホムラ「俺は負けちゃいけないんだ」

シルクからもらったペンダントがホムラの胸元で揺れた。

〈了〉

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