ブレイム・ブレイズ 第1話


晴天の下にそびえる瓦礫の山から赤い短髪の少年が這い出して来る。笑みを浮かべて掛けていたゴーグルをあげる。

ホムラ「うーん、良い天気だ」

やせ細った犬が近くを通ってホムラを威嚇する。ホムラはメッセンジャーバッグを漁り、ガラクタの機械類を落としながらキノコを取り出す。

ホムラ「お前も腹減ってんのか。喰え」

犬がきのこに食らいつく。ホムラの腹が鳴り犬が顔をあげるが、ホムラはやせ我慢して笑う。

ホムラ「正義の味方ってのは困ってる奴の味方なんだ、気にせず食え」
ホムラ「発掘した機械類を売れば朝飯くらいにはなるし……っと、いけねぇ! 授業が始まっちまう!」

ホムラは駆け出す。廃墟を使った店や、廃材で組み立てた露店などを通り抜ける。老若男女いろいろな人間が生活している。一様にみすぼらしい姿だが、活気にあふれている。
住民たちはホムラを見つけると気安い様子で声を掛ける。慕われていることがはっきり伝わる態度。

住民①「おはようホムラ!」
住民②「今日も”先生”のトコかい?」
住民③「あいつ見てると元気出るよなぁ」
住民④「スラムを明るくしてくれるわね」

瓦礫が退かされ広場状になっている場所にて四肢が武骨な機械の義体になっている悪人顔の男が不敵な笑みを浮かべる。その背後には背中から銃器を生やした巨大な猪の死体が置いてある。死体は切られており、一部は肉として調理されている。

ドン「おいホムラ! 待ちやがれ!」
ホムラ「なんだよ、ドンさんか」
ドン「育ち盛りなんだからコレ喰ってからいけ」
ホムラ「に、肉!? モンスターぶっ倒してきたのか!?」
ドン「おう。俺にかかりゃイチコロよ」

義腕を唸らせながら焼けた肉をホムラに渡すドン。

ホムラ「すげぇな、義腕それ
ドン「俺に何かあったらやるよ」
ホムラ「ドンさんに何かあったらスラムなんて滅んでるって!」
ドン「そりゃそうか。どっちにしろおまえじゃ持ち上げるのもできねぇかもな」
ホムラ「馬鹿にすんなよ!? 毎日特訓してるんだからな!」
ドン「ははっ、知ってらぁ」「期待してるぜ」

ドンはホムラの背中を乱暴に叩くと義腕を唸らせながら老人や子供に肉を配っていく。食べ終えたホムラもそれを手伝う。
配り終えたところで広場の入口が騒がしくなる。悲鳴が上がり、ホムラ達もそちらを見る。アサルトライフルで武装した兵士の一団がジープから降りてきて周囲の人間を突き飛ばしたり威嚇したりする。空いた空間に、明らかにえらそうな態度の男⎯⎯兵士長が降りてくる。

兵士長「臭っせぇなぁ。ただでさえ臭い連中が臭い肉なんぞ喰いやがって」
兵士長「おらっ、邪魔だ!」

乱暴され騒然とする広場。驚き固まるホムラの横、ドンがとびかかる。

ドン「帝国の兵士……俺らをシティから追放したくせに好き勝手やってんじゃねぇぞ!」

ドンが殴りかかるが、義腕は兵士長にあっさり受け止められる。一目でわかる体格差にも関わらず兵士長は余裕の表情。その両腕には唐草模様にも見える紋様が浮き上がっている。

ドン「なっ!? ナノマシン適合者か!」

小ばかにした笑みを浮かべた兵士長はドンの腹を撃つ。

兵士長「分かったならさっさと倒れろ、マヌケが」「俺を倒したきゃナノマシン適合者になってこい」
ドン「ぐあぁ!」
兵士①「それが出来なくてシティから追放されてるんすよ!」
兵士②「適正も金もないごみどもが!」兵士③「腕にガラクタをつけるのが限界だわな!」

げらげら笑う兵士たちと、ドンの義腕が砕かれたことを見て怯える住人達。ホムラは歯を食いしばるも何もできない。

兵士長「聞けぃマヌケども! このスラムに凶悪な犯罪者が逃げ込んだ!」

手配書を見せつける。幼いながらも凶悪そうな笑みを浮かべた少女が掛かれている。生死問わずデッドオアアライブの文字と、眼が飛び出る程の金額が印字されている。

兵士長「虐殺兵器を持ち逃げしてここに隠れているはずだ! 見つかるまでジャンクの買い取り額は1/10だからな!」
住民③「待ってくれ!」
住民①「今でさえギリギリなんだ、そんなことされたら——」
兵士長「マヌケどもが! お前らの意見なんぞ聞いとらんわ!」

殴られて吹き飛ばされる住民たち。

「いくぞ! ここは臭すぎるから外にベースキャンプをつくる!」

兵士たちは笑いながら引き上げていく。誰もが固まっているが、ドンの呻き声でホムラが我に返る。

ホムラ「ドンさん! みんな!」

ホムラはけがをした人たちを介抱する。


瓦礫の一角。崩れかけた壁に取り付けられた黒板と、椅子や机代わりの廃材が並ぶ場所。ホムラは正座している。周囲の子供が興味津々で見守る中、黒の長髪に糸目の男性イシジカ――通称先生がホムラを見つめている。

先生「なるほど、それで遅れたわけですか」
ホムラ「困ってる人がいたら放っておけねぇじゃん!」

生徒の一人、やや冷めた目をしたショートボブの少女がホムラを覗き込んで鼻で笑う。

シルク「ホント、正義ばかよねアンタ」
ホムラ「シルクは黙ってろよ」
シルク「先生、コイツまーったく反省してない」

シルクの言葉を受けて先生が手をあげる。思わず目を閉じて身を固くするホムラだが、いつまで経っても殴られる痛みはやってこない。恐る恐る目を開けると、先生はゆっくりと手を頭に伸ばすところだった。

先生「よく頑張りましたね。人を助ける優しさを、私は誇りに思います」
「ですが、遅れた分の復習もしましょう」
ホムラ「ゲッ!? 算術!?」
シルク「手伝ってあげても良いわよ」
ホムラ「そんなことより、ナノマシンってのを教えてくれよ!」
先生「仕方ありませんね」
シルク「先生あますぎ」
先生「帝国兵がここまで来た以上は、知らないままでは困りますからね」

黒板に簡単な図を書く。三つに分かれたピラミッド型の図形の最下部に「一般人」と書く。境界線上が機械化人。ピラミッド二段目に「ナノマシン」、最上部に「古代文明時代の機械化人・ナノマシン適合者」。

先生「ナノマシンは古代文明の産物ですが、多くは現代の技術でチューニングされています」「そのまま使うにはあまりにも強力すぎる上に、拒絶反応でほとんどが死んでしまうからです」
「その調整済みのナノマシンですら、普通の機械化人を大きく超える力を得られます」

ホムラの脳裏にドンを圧倒した兵士長の姿がよぎる。

先生「帝国の軍人は全員が適合者。とはいえ、特殊能力のないG級ばかりですが」
シルク「適正ゼロだと私たちみたいに捨てられるもんね」
ホムラ「先祖が捨てられたスラム出身のやつは適正ないの?」
シルク「馬鹿ね。捨てるほど人がいるんだから、わざわざ調べにくるわけないでしょ」
先生「F級以上のナノマシンは特殊能力を使えます。体に入れ墨みたいな模様が見えたら、急いで逃げるか隠れなさい」

兵士長の腕に発現していた模様を思い出す。

ホムラ「ナノマシン見つけて売ったら、腹いっぱい食えるかな?」
シルク「馬鹿ね。自分で使った方がずっといいでしょ」

シルクに乗っかって生徒たちがホムラを馬鹿にする。追いかけっこを始めるホムラと子供たち。楽しそうな表情の彼らを見て、先生は複雑そうな顔になる。

先生「帝国の兵士が来ているので、今日は早めに切り上げましょう」
「日が暮れてからは出歩かないように」
一同「はーい」
「ホムラはいつも通り瓦礫山の隙間に?」
ホムラ「隙間じゃなくて秘密基地! 正義の味方には必要なんだよ!」
シルク「はぁ……出た、正義ばか」
ホムラ「なんでシルクにはわからねぇんだよ!」

バッグからボロボロの本を取り出すホムラ。恍惚とした表情で正義の味方について語り始めるが、先生は苦笑、そのほかはまったく聞いていない。

ホムラ「(吹き出しに収まらないくらい喋っている)」
シルク「それじゃ先生、また明日」
先生「はい、また明日」
ホムラ「(まだ喋っている)」

喋り続けているホムラを引きずって帰るシルク。

ホムラ「あ、おれこっち」
シルク「アンタの秘密基地はあっちでしょ?」
ホムラ「修行だよ修行。正義の味方は強くなきゃな」
シルク「この正義ばか! 先生が早く帰れって言ってたでしょ!」

喧嘩する二人。シルクが拳や平手を振るうがホムラは軽業のような動きで避け続ける。

シルク「なんで避けられんのよ!」
ホムラ「鍛えってからな! 正義の味方になるために!」
シルク「現実をみなさいよ!」
ホムラ「うっせぇ!」
シルク「このゴミみたいな世界に正義の味方なんているわけないでしょ!」
ホムラ「いないから俺が正義の味方になるんだろうが!」
シルク「できると思ってんの!?」
ホムラ「やるんだよ! おまえも、ドンさんも、先生も! 困ってたら助けられる正義の味方になる!」

自分の名前があがり驚いて固まるシルク。頬が赤くなり、ホムラを見つめる。

シルク「アタシも……?」
ホムラ「当たり前だろ」
シルク「それなら許してあげる。まぁ、できるとは思わないけど」
ホムラ「ンだと!?」

唇を尖らせるホムラに、シルクはいたずらっぽい笑みを浮かべる。クラスター水晶のようなものがペンダントトップになった綺麗なネックレスを見せる。

シルク「賭ける? 出来たらコレあげる」
ホムラ「おまっ、それ宝物だって⎯⎯」
シルク「その代わりできなさったらアンタの漫画、もらうから」
ホムラ「待て待て待て!」
シルク「私より弱いうちは無理ね」「捕まえてみなさい」

ホムラとシルクはじゃれあうように追いかけっこをする。ホムラがシルクを追い詰めるが、捕まえた拍子に胸を鷲掴みにしてしまう。
顔を真っ赤にしたシルクはホムラを睨み、平手打ちをして帰ってしまう。残されたホムラは打たれた頬を押さえながら呆ける。


ホムラの秘密基地にて。その辺に生えているキノコを齧りつつ今朝の肉の味を思い出すホムラ。同時に帝国兵士がドンの義腕を圧倒していたことを思い出す。

ホムラ「ナノマシン、か」
ホムラ(俺にも力があれば……)

キノコを咥えながら神妙な顔で自らの手のひらを見つめる。バタンと倒れ込んだホムラの視界に丁度瓦礫の隙間から入ってきたシルクが映る。驚くホムラだが、シルクは切羽詰まった表情でホムラの手を引っ張る。

シルク「ホムラ! 来て!」「先生が処刑されちゃう!」

走る二人が広場に向かうと人垣ができていた。かき分けて前に進んで子供たちと合流。兵士が警備する柵があり、中心には顔を殴られて磔にされた先生。ぐったりした様子の先生を見ながらニヤニヤする兵士長と兵士たち。

兵士長「このマヌケは凶悪犯罪者に通じ、平和を守る俺たちの活動を邪魔した!」
「よって、公開処刑だ!」

兵士長の言葉に沸く兵士たち。住民たちは恐怖に顔を引きつらせている。ホムラが柵の向こうに飛び込んで助けようとするが、目の前にいた兵士に殴られる。倒れ込んだところに、銃口を突き付けられる。

兵士長「んん~? 何やら騒がしいが、まさか悪人を庇おうなんてマヌケがいるわけないよな?」
兵士①「いたら処刑ですからね!」
兵士②「いくらスラムのゴミでもそのくらいは理解できますって!」

兵士長がホムラやシルクを認識するも、ぐったりしていた先生が突如として暴れ始める。十字架を破壊して近くにいた兵士たちに殴りかかる。その隙にシルクが他の子供とともにホムラを取り押さえるが、ほぼ同時に先生も兵士長に取り押さえられる。

兵士長「ナノマシン適合者だったか……極度のエネルギー不足だな」

何もしていないのに突如として目から血を流す先生。

兵士長「未来が約束されてるってのに帝国に喧嘩売るとは」「ナノマシンの持ち腐れだ」
先生「悪人に加担する気はありません。能力がない人間をシティの外に放り出し危険な発掘作業を——グガッ」
兵士長「俺たちはシティの平和を守ってるんだよ!」
先生「我々を犠牲にして——」
兵士長「黙れっ!」

先生が銃で打ち抜かれ、死亡する。兵士長は先生の死体を無造作に投げ捨てる。子供たちに取り押さえられたホムラの眼前に先生の死体が落ちる。子供たちが恐怖に顔を歪ませ、涙を溢しながらも悲鳴をかみ殺す。ホムラも何かを叫ぼうとするが、シルクに口を塞がれて声を上げられない。

「ふん、正義に盾突くからこうなるんだ。貴様らも覚えておけッ!」
「撤収するぞ」


ホムラの秘密基地。横になったまま動かないホムラ。朝→夜→朝と時間が経過。いつの間にかホムラの側に金髪の少女が座っている。タンクトップとホットパンツに腕まくりした白衣を合わせた少女がホムラをつつく。

ホムラ「うわぁっ!? 誰だお前は!?」
アヤメ「私はアヤメ。初めましてだね、ホムラ」

脳裏に手配書が思い浮かんで飛び退くホムラ。拳を構えるも、すぐに手を下ろす。

ホムラ「……先生が匿ったっていう極悪人かよ」
アヤメ「察しが良いねぇ。花丸、花丸」
ホムラ「何の用だ」
アヤメ「逃げる前に先生イシジカが死ぬ前に話してた生徒の顔を拝んでおこうと思ってねぇ」

飄々とした態度のアヤメに激高するホムラ。ホムラはアヤメの胸ぐらをつかみ、歯をむき出しに威嚇するが、なおも態度は変わらない。

ホムラ「お前さえ来なきゃ先生は——」
アヤメ「見損なうなよ。イシジカは自分の正義のために逝ったんだ」「誰のせいでもない」「私のせいでも、暴れようとした君のせいでもない」

勢いを失ったホムラは手を放して膝をつく。アヤメは寂しそうな表情でホムラの頭を撫でるが、それを払いのける。

ホムラ「お前、悪い奴なんだろ?」
アヤメ「それは立場によるけども」

アヤメが懐からケースを取り出す。中には黒の液体が詰まったシリンジが三本並んでいる。

アヤメ「”ブレイム・ブレイズ”」「帝国が実験しようとしてた超古代のナノマシン」「これを使わせないために逃げてきたんだ」
ホムラ「ナノマシン!?」
アヤメ「って言ってもチューニング前の危ない代物だ」「適合条件も他のナノマシンと違うし」「感情の揺らぎに反応して暴走」「使用者ごとこのスラムくらいの範囲を焼き尽くすんだ」

アヤメの説明を受けたホムラはビビッて引く。

ホムラ「そんな危ないもん使えないだろ!」
アヤメ「超古代製の代物だからねぇ」「一般人を一万か二万人くらい犠牲にして使えるようになるなら安いもんだ」
ホムラ「あ”あ”?」
アヤメ「スラムの人間に打って暴走するまで観察。何十回も繰り返せば適合条件や暴走を抑える方法も見つかるかも知れない」
ホムラ「やっぱ極悪人じゃねぇか!」
アヤメ「私の考えじゃない。帝国の考え方さ」「私はそれをさせないために逃げてきたんだ」「イシジカに助けてもらおうと思ってな」

アヤメを睨みつけるホムラ。

ホムラ「先生がお前の仲間だったなんて信じらんねぇ」「先生は悪人なんかじゃない」
アヤメ「やれやれ。意固地な姿勢は減点だね」

アヤメは”ブレイム・ブレイズ”の入ったシリンジを手で弄ぶ。

アヤメ「例えばパン屋からパンを盗む。これは正義?」
ホムラ「悪に決まってんだろうが!」
アヤメ「病気の家族がいて、パンを食べさせなきゃ死ぬとしても?」
ホムラ「じ、事情を話して分けてもらえば……」
アヤメ「パン屋も売り上げが悪ければ廃業。シティから放り出される」
ホムラ「……でも!」
アヤメ「病気の家族が武器の密売人だったら?」「助けたらその武器で多くの人が死ぬ」
ホムラ「……」
アヤメ「さぁ、君の正義は何?」「よく考えて、良い答え出せたら花丸あげる」

アヤメはホムラの頭を撫でて笑うが、考え込むホムラの腹が鳴る。キノコを採ろうと立ち上がったところで外の様子が騒がしいことに気づく。アヤメとホムラが小さな隙間から外を覗く。

兵士長「はぁっはははははは! 他にも犯罪者の知り合いがいたら連れてこい!」

兵士長がシルクを捕まえた状態で車が引いた台座の上で仁王立ちしている。台座の端にはすでに子供たちや大人の死体が転がっている。

兵士長「反乱の芽はひとつ残らず摘む!」
住民①「ひ、ひどすぎる……!」
住民②「シルクちゃん!」

顔を強張らせた住民に銃器を突き付ける兵士たち。

兵士長「何か文句あんのか? テメェらみたいなゴミ、全員潰してやっても良いんだぜ?」
ドン「クソどもがぁ!」

兵士を殴り飛ばすドン。包帯だらけながら怒りを露わにして暴れまわる。兵士を数人吹き飛ばすが、兵士長が現れて両腕に模様を出す。ドンの拳を正面から受け止め、機械化した足にケリをいれる。足が砕けて部品が散らばり、倒れ込んだドンが兵士たちに袋叩きにされる。

兵士長「俺のナノマシンは体を金属よりも固くする」「貴様のスクラップなんぞ役に立たないぞ、マヌケめ」

 ボコボコにされたドンがシルクを助けようと手を伸ばすが、頭を撃たれて崩れ落ちる。

アヤメ「……これが今の帝国だ。私やイシジカはこれに反抗するため——」
ホムラ「よこせ」
アヤメ「は?」
ホムラ「よこせっ!」

ケースからシリンジを三本とも奪い取り、自らの腕に思い切り突き刺して注入するホムラ。アヤメは驚きに目を見開いて取り返そうと手を伸ばすが、空になったシリンジが地面に転がる。

アヤメ「何してる大馬鹿っ、大減点だ!」

ホムラは大汗を掻きながら悶える。アヤメが慌てて助け起こし、様子を確認する。ホムラの体からはじりじりと煙が上がっており、少しずつ焦げている。

アヤメ「拒絶反応……いや、そもそも量が多すぎるんだ! 減点どころかゼロ点だぞ!」「今ナノマシンを除去してやる! 死ぬほど苦しいが本当に死ぬより——」
ホムラ「うるっせぇ……!」

ホムラは冷や汗を流しながらもアヤメを押しのけて立ち上がる。胸を押さえ荒い呼吸をしながら外に向かう。体を支えるために瓦礫の壁に手をつくが、瓦礫が簡単に砕ける。
自身の力がナノマシンで強くなっていることを認識したホムラは歯を食いしばるように笑い、外に飛び出す。

ホムラ「シルクを放せェ!」

近くにいた兵士を殴って吹き飛ばす。ホムラも焦げ続けて煙をあげているが、殴られた兵士も煙を上げ、じわじわと焦げ始める。

兵士①「グガッ!?」
兵士②「ぶべっ!?」
兵士③「くっ、ガキの生き残りか!」
兵士④「煙が! 燃えちまう!」
兵士長「ガキ一人に何もたついてやがる!」「ブチ殺せ!」
シルク「馬鹿、なんで出てきたのよ!」
ホムラ「待ってろ。今助ける」

兵士たちによる銃撃が始まる。攻撃を躱しながら兵士を倒していくホムラ。少しずつ近づいてきたホムラに兵士長が苦虫を噛み潰したような顔になる。苛立ち紛れにシルクへと銃口が向けられる。
兵士長が撃とうとしていることに気づいたホムラが全力で走り、手を伸ばす。シルクもホムラに手を伸ばす。

ホムラ「シルクーっ!」

手が届く寸前、シルクが撃たれる。硝煙をあげる銃口を吹きながら兵士長は見下したような笑みを浮かべる。

兵士長「帝国に盾突くマヌケにはふさわしい最期だ」
ホムラ「シルク! シルクっ!」

シルクを助け起こすも、胸部からは大量出血。口からも血が出ておりどう見ても助かる状況ではない。

シルク「ホムラ……」「ネックレス、あげる」
ホムラ「こんな時に何を!? 待ってろ、すぐ助けて——」
シルク「前……払、い……」

シルクの体から力が抜ける。兵士長や兵士、全ての銃口がホムラに向けられる中、ホムラが涙を流して絶叫する。ぶすぶすと噴き上げていた煙が大きくなり、爆発的に広がる。全身が炎に包まれ、ホムラとシルクがシルエットになる。

兵士長「チッ! 撃てェッ!」

雨あられと銃弾が降り注ぎ炎の中に吸い込まれていく。全弾撃ち終わり、兵士長が銃口をあげて嘲笑する。が、炎の中から無傷のホムラが現れる。焼けていないシルクの遺体を抱きしめたホムラ。両腕から頬に掛けて火傷痕が紋様のように刻まれており、左目からは炎が噴き出している。

兵士長「制御できずに自分を焼くなんてマヌケな奴だ!」「その腕はもう使いものにならんぞ!」
ホムラ「シルク……ごめんな」

シルクの遺体を丁寧に横たええるホムラ。左腕は炭化しており兵士長に指摘される側から割れて落ち、ぼろぼろに砕ける。

兵士長「痛みすら感じないか! 大マヌケが!」
アヤメ(――違う)
兵士長「放っておいても死ぬだろうが、優しい俺がトドメを刺してやる」

兵士長がマガジンを交換して銃口をホムラに向け、銃撃する。ホムラの体から炎が噴き出し銃弾を蒸発させる。割れた傷口から噴き出した炎が鞭のようにドンの死体へと伸びる。

兵士長「な、何だっ!?」
ホムラ「ドンさん……約束通り、貰ってくぞ」
アヤメ(暴走を抑えて適合したのか……三人分のナノマシンに!)
ホムラ「前払い、貰っちまったからな……ならなきゃなんねぇんだ」

ドンの義腕が炎に持ち上げられ、ホムラの腕に接続される。部品の隙間から炎を漏らした義腕を振るうホムラ。

「ゴミみたいな世界を救う、正義の味方によ」

火柱があがって兵士たちの装備を焼いていく。銃が溶け服が燃えるが、兵士にはダメージはない。

アヤメ(あらゆる力を焼き、反撃も防御も許さない絶対的な力)
(これが咎める炎ブレイム・ブレイズ……!)

体を炎に包まれたままの兵士達が悲鳴をあげ、股間を隠しながら逃げていく。まだ無事な兵士たちから反撃の銃弾が飛んでくるが、ホムラは避けようともしない。着弾前に炎で蒸発する。次々とホムラに武器と服を燃やされていく。

兵士長「ふん! 妙な技を使うが誰ひとり死んでないぞ、マヌケが」
ホムラ「おい、アヤメ」
兵士長「マヌケは所詮マヌケ」「この俺が特別に殺し方ってのを教えてやろう」
ホムラ「俺の正義は何かって聞いたよな?」

兵士長が全身に紋様を発現し、全力で殴りかかる。

兵士長「授業料はお前の命だァ!」

振りかぶった義腕が唸りをあげて赤く輝く。炎を噴き出した義腕の拳が兵士長を吹き飛ばす。

ホムラ「……誰ひとり、理不尽に命を奪わせない。それが俺の正義だ」
兵士長「ぐぎぎぎっ、がぁぁぁ! 体が! 体が焼けるゥ!」
アヤメ「ナノマシンを焼いているのか……!?」
アヤメ(帝国が血眼になるわけだ)
アヤメ(ナノマシン適合者の天敵じゃないか)

兵士長が動かなくなり、ホムラの体から吹きあがっていた炎が鎮火する。残る煙が風に撒かれて溶け消えていく。ホムラは目に涙を溜めながらも空を仰ぎ、必死に空を食いしばっている。


街はずれの荒野に廃材で作った十字架が並ぶ。それぞれに遺品が置かれる中、ホムラは、唯一何も遺品のない墓に相対している。痛ましげな表情のアヤメは何も言わずにホムラを見つめている。ホムラは自らの首にかけたシルクのネックレスを軽く持ち上げて墓に喋り掛ける。

ホムラ「貰ってくぞシルク」
ホムラ「正義の味方になるよ。ゴミみたいな世界を救う、正義の味方に」

義腕の拳をまっすぐに構えて誓い、ボロボロの本を供える。ホムラが愛読していた正義の味方の本だ。

ホムラ「ちょっと時間かかるかも知れねぇから、それ読んで待っててくれ」

踵を返して歩き始めたホムラ。

アヤメ「もう良いのか?」
ホムラ「ああ。――いこうぜ、理不尽を焼き尽くしに」

ホムラは歯をむき出しにして笑う。

〈了〉

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