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見慣れた禍根を超えて

秋になると芸術の秋だということで、特に9月はいろんな芸術イベントが乱立するし、ほぼ同じ週にオープニングやっていたりする。なんと先週は、ウィーン市内だけで、アートフェアx2、写真フェスティバルx1、ギャラリーフェスティバルx1がほぼ同時に開催された。そのうちの1つ「パラレルビエンナ」というアートフェアに僕がスタジオを共有しているアーティストらと参加することになった。元々は、先行して開催されていたアートフェアに対抗してのオルタナティブな先鋭的なフェアを作ることを目的にしてらしいが、もはやその影は薄くなってしまっている。美術大学のクラス単位や多くのギャラリーが参加しているのは、資本主義の要請なのだろうかとも思うけれども、そういう話はアーティストらの立ち話でもよく話すことだけれども、フェアの運営側から聞いたことはない。フェアの会場となっているのは、産婦人科のある元病院施設で、ウィーン出身であれば、ここで生まれた人も結構いるのではないかという、いわば知られた施設で。おそらく数年後に解体する予定が決まっているので、そのまでの期間はアートで自由に使わせてやろうとうことらしい、ウィーンにはこういう解体改築が決まったビルをアートに貸し出すケースがかなり多い。

僕らが充てがわれたスペースはかなり小さくて、とてもアーティスト全員が同時に展示できるようなスペースでもなく、壁はボロボロなので、結果毎日展示を入れ替えることにした。くじ引きで僕は日曜日だけの展示になったのだけど、それがよかったのかどうか、想像以上の来客があって切れ目なく観客がやってきて大盛況だった。客層の中心は若い学生やアーティストらが多いのだけど、おもちろんキュレーターやギャラリスト、また一応フェアと言っているのでコレクターなんかもたくさん来ていた。会場はウィーン中心地からはそこそこ離れていて交通の便は良くないのだけど、それでも日曜日の最終日にはたくさんの客が見に来ていたのは、面白いことだと思った。これは秋初、まだ寒くはないけれど、暑くもないこの季節に外出するのにちょうどいいんだ、という人もいれば、毎年の恒例行事だからという人もいた。

たしかに心地の良い秋に外出するにはちょうどいい距離かもしれない。フェア会場には、バースタンドやケバブスタンドもあって、そとでピクニックもどきをすることもできるので、季節を楽しむのにもちょうどいいいのかもしれないが、総勢で600人以上のアーティストらなんの統一感もなく、学園祭のような勢いで展示している様子はどこか不思議な感覚を与えた。オーストリアにいると、国内のネットワークだけでどうにか生活が成り立てしまい、それ以上の挑戦をする熱意に欠けているのではないかとぼんやり思うことも多く、今回のフェアを見ていても同じような感想をもった。

僕はいくつかのアブストラクトなドローイングと一緒に、今年予定していたモスク近代美術館での個展のプランをドローイングに起こしたもの、そして展覧会中止となった後でリサーチ旅行で僕が立て替えていた費用の払い戻しをウクライナ軍へ送金するようにお願いしたモスクワ近代美術館に送った請求書を作品としたもの等を展示した。請求書作品の反応はすころぶるよく、まだまだウクライナ戦争が続いていて、人々の心に大きな衝撃と禍根を残していることがよくわかるし、これからも多くのアーティストらが取り組む作品なるだろう。


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