ミクロとマクロをつなぐボルツマンの関係式
熱いお湯に冷たい水を加えると、ぬるま湯になる。コーヒーに牛乳を混ぜると、コーヒー牛乳になる。周知の現象だ。
しかし、その逆はない。これも周知の事実だろう。例えば、ぬるま湯がいつの間にか、熱いお湯と冷たい水に分離するなんてことは起こらない。コーヒー牛乳の場合も同様だ。
なぜだろうか。これを説明するのにも「分子(ぶんし)」が重要になる。
自然界はごちゃまぜが好き:エントロピーという熱力学量
大学で熱力学の講義を受講すると、「エントロピー」という量を習う。これは物事の「乱雑さ」や「平均化具合」を示す量と言える。
そして、自然現象は必ずエントロピーを増やす方向に進むという法則も習う。この法則は「エントロピー増大の法則」だったり「熱力学第二法則」と呼ばれている。
さて、先述のぬるま湯やコーヒー牛乳の話に戻ろう。
熱いお湯と冷たい水が混ざっていくことも、コーヒーと牛乳が混ざっていくことも、どちらの例も自然界がエントロピーを増やそうとした結果と説明できる。
自然界は、物事をごちゃまぜにして、平均化することを好むのだ。
分子の運動とエントロピーをつなぐ式:ボルツマンの関係式
一体全体、エントロピーとは何物なんだ?そこで、分子の登場が必要となる。分子の運動を考えることで、エントロピーの正体を見破ったのが、オーストリアの物理学者 ルートヴィヒ・ボルツマン博士だった。
彼については、前回のnote記事も参照してほしい。
ボルツマン博士は、分子運動のパターンの数WとエントロピーSの関係を以下の式で表した。
この式は現在、「ボルツマンの関係式」などと呼ばれ、「分子の運動が様々なパターンをとることがエントロピーの増大を表す」ことを示している。両者をつなぐkBはボルツマン定数と呼ばれる物理学における重要定数の一つだ。その値は
と知られている。(理科年表(平成28年)より)
ボルツマンの関係式は、見えない分子の運動と私たちが日常生活で体感することができるエントロピー増大の現象をつなぐ非常に重要な関係式だ。物理学徒は絶対に忘れてはいけない式の一つだ。
エントロピー増大というマクロな現象は、ボルツマンの関係式を通して、分子運動というミクロな現象から理解することができる。
“見えている”世界を理解するためには、“見えない”世界を理解することも重要となる好例だと思う。
ボルツマン博士は偉大だ。ちなみに、オーストリアのウィーンにあるボルツマン博士の墓石には、ボルツマンの関係式が刻まれているそうだ。
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