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【昔話】同総会Ⅲ


気づけば3時間程が経っていた。
やはり昔話に花が咲くと、時の経過は早いものだ。
お店も閉店時間が近く、3人を合わせて残り二組になっていた。




A:「そろそろお会計にしよっか」

B:「そうだねー、結構話しちゃったね」

A:「昔話も、振り返ってみると色々考えさせられる所もあるんだな」

C:「ちょっといいかな?」

B:「ん?どうした?」

C:「僕ぜんぜん話出来てないんだけど」

A:「Cは昔話あったっけ?」

C:「僕も人間と喧嘩してるよ、」

A:「え、ほんとに?聞いたことないなー、俺が覚えて無いだけかな?」

C:「聞いたことないかな、まさかり担いだ子供だよ」

A:「そいつは知ってるよ、山でクマと相撲取って勝ちましたーってやつでしょ?C関係なくない?」

C:「僕、そいつと戦ってるんだよね、誰も覚えてないけど」

B:「絶対うそだ、聞いたことない」

A:「うん、ほんとに聞いたことないかも」

C:「だよね、それ結構悲しいんだよね、こういう昔話してて誰も覚えてないからさ」

A:「実際どうだったの?」

C:「うん、僕昔からお酒が好きで、飲むと結構暴れちゃってたの。あんまり覚えてないんだけどね。都でもの壊しちゃったりとか。そんなときにまさかり担いだあいつとお酒飲むことになったんだけど、睡眠薬をお酒に入れられてさ。それで散々痛めつけられて、2度と都に来るなって」

B:「、、、」

A:「それ、どっちが悪いんだろ」

B:「Cが悪い様な気もするね、都で暴れたからもう来ないでくださいってだけでしょ?」

C:「それはそうだけど、睡眠薬だよ?眠らされてボコボコにされてんだよ?」

A:「でも、そもそも暴れてたのはCでしょ?」

C:「そうだけどさ、おかしいだろ!!」

気づけばCは酒呑童子という焼酎を一人で1本飲み干していた。

A:「落ち着けって、飲み過ぎだよ」

B:「お水もらう?」

C:「うるせーな、どうせ誰も俺の事なんて覚えてないんだろ!」

B:「ちょっと落ち着いてよ、ほらもう帰るよ」

C:「あーー、うるさい!」






そろそろ閉店時間、店員が帰るように促しようやく3人は個室から出てきた。
お会計をしようとレジへ向かうと、奥でにいた団体客がお金を支払っていた。男女仲良く盛り上がっていた様子が伺いしれた。一人の女は潰れてしまっている様子で、男の肩に担がれていた。
男は過去の武勇伝を語り、女はおしとやかに相づちをうっていた。



店員「お会計は39023円でございます」



お会計を済ませた若者たちは、後ろに並んでいた3人に会釈をし、店をあとにしようとした。


C:「ちょっと待てよ!久しぶりだな!」


Cは顔を赤く染め、若者たちに怒鳴りつけた。

C:「お前だよ!女のコ担いでるお前!覚えてるだろ、俺の事!お前まで忘れたとは言わさねえぞ!」

男はハッとしていた。何かを思い出したかの様な表情だ。

C:「お前、金太郎だろ?覚えてないか?お前に睡眠薬飲まされてボコボコにされた鬼だよ!まさかりみたいに女のコ担いでよー、また睡眠薬飲ませたのか!」










AとBも、そこに居た男と女全員の顔と名前を知っていた。しかし、Cを止めようとも応戦をしようとはしなかった。過去の事を思い出したのだ。


鬼が何を語っても、真実はこうだと伝えても誰にもわかってもらえない。
人々にとって鬼は悪、桃太郎、一寸法師、金太郎が正義なのだ。鬼達にも生活はあるのに、ただ、不器用に生きていただけなのに。

鬼達は振りかざす気のない拳を強く握っているだけだった。














店員「お会計は19274でございます」


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